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町民文化から生まれた和更紗

そもそも更紗って何_ 其の五

日本独自の更紗文様

和更紗は染め職人の意気込み

和更紗はインド更紗とは全く違った技法と顔料使用ゆえに、染色技法としては未熟な点はあったものの、それまでに日本にはなかった、木綿に鮮やかな多色部分染めという新しい技法に挑戦した染め職人の意気込みの結果から生まれた。

異国情緒に富んだ文様から始まり、更に、自分たち独自の更紗文様を考案した。

この文様布には当時の人たちを虜にする不思議な魅力があり、新し物好きな江戸時代の人たちに愛された。

浮世絵や風俗画などにも、これらの和更紗が帯、間着、蒲団、風呂敷、袋物、夜具といった日常的なものに使用されているところが描かれていることからも、普段の生活の中にも活用されていたことが解る。

「婦女人相十品」「手紙を読む女」〈更紗の帯を前帯に〉
喜多川歌麿 画/東京国立博物館 蔵

片町にさらさ染むるや春の風  蕪村

京都、堀川沿いの片側町で、色鮮やかな更紗染めが、優しい春の風に揺れている。

春の京都の風物詩といった様子がうかがえる蕪村の俳句。

蕪村の晩年、安永七年(1778)~天明三年(1783)にかけて京都で過ごしていた頃の作だが、安永七年は『佐羅紗便覧』が出版された年に当たる。

黒地唐花文様更紗/京更紗_江戸後期

こうして比較的泰平の続いた江戸時代に、和更紗は文様染めへの関心を高め、庶民の生活にまでこの綿布を普及させた。

このように、町衆のエネルギーが新しい衣文化を開花させたことは画期的なことであり、その感性は現在の我々の生活空間の中にも無意識のうちに内在しているように思われる。身の回りの建造物、家具、調度品、そして衣装のなかに和更紗文様がさりげなく使われていて、現在まで脈々と伝承されていることがわかる。

「似勢田舎源氏」「二葉の人」/役者絵〈夜具の類いが更紗〉
歌川国貞 画/早稲田大学演劇博物館 蔵

そして、一端衰退した技法ではあったが、日本の更紗は戦後になって、染料を始め、生地や染色方法が改善され、堅牢で良質な日本独自の更紗を復活させ、現在、全国各地で少しずつではあるが生産される様になり、新たな感性が加えられて、今後に期待されるようになってきた。

熊谷博人 Hiroto Kumagai