怖い!合わない入れ歯
連載の拾四
誤った歯科治療や歯列矯正で、全身に深刻な危害も
身体の歪みが全身にさまざまな症状を引き起こすことは、よく知られています。
身体の歪みは頭痛、首や肩の痛みやコリ・手足のしびれ・神経痛・腰痛などの原因となります。これは主に背骨の歪みやズレに起因するとされています。頭蓋骨からつながる、いわゆる背骨は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨1個、尾骨1個、計26個の骨が積み木のように重なっているので、いろいろな動きができる半面、歪みも生じやすいのです。
それぞれの骨には脊髄があり、脊髄神経も出ていますので、身体の歪みで重要な神経が圧迫されて重篤な症状が出たり、歪みを補正しようと筋肉が無理に働くため、痛みやコリを発生させます。
身体を歪める原因は、同一作業やスポーツによる偏った姿勢、ケガや事故、内臓疾患などさまざまですが、噛み癖や噛み合わせなど、口の状態が原因になることもあります。
ブリッジ、入れ歯、矯正、インプラントなどの歯科治療が原因になることも多いのです。
偏った噛み方を長く続けると、下顎が偏り、それにつられて頭が傾きます。頭は5~6kgと重いので、その影響は首の骨、背骨、骨盤に及び、やがて全身が歪みます。歪みは単に左右に傾くだけでなく、前後左右に捻れも生じますので、治りにくい症状を引き起こすのです。
入れ歯でひどい頭痛と目まい
偏った噛み方の原因は、痛い歯があり、そこを避けて噛む、歯が抜けたままになっているので残った歯だけで噛むといったわかりやすい場合のほかに、歯列矯正やブリッジ、入れ歯、インプラントなどの歯科治療でも起こります。これらの治療は複数の歯を一度に治療しますので、噛み方が偏りやすいのです。
一例として、88歳の女性の症例を挙げます。この方は「入れ歯が合わないのでつくり直したい」が主訴でしたが、頭痛と目まいがひどく、常に付き添いの方に支えられての来院でした。それまで入れていた入れ歯は口の中には収まるけれども、噛み合わせの状態はひどいもので、偏った噛み方を固定してしまうような代物でした。
わずか3カ月で別人のようになった!
そこで、左右均等に軽やかに噛めるように、残っている歯も含めて治療し直し、新しい入れ歯を装着し、噛み方のリハビリも行いました。すると、よく噛めるようになったのはもちろん、歪んでいた全身の姿勢も変化し、頭痛も目まいも消失しました。ここまでの治療期間はわずか3カ月ですが、口と全身の健康は大きく変化したのです。入れ歯を入れ換えてからは、ひとりで来院され、表情も大変明るくイキイキとして、オシャレにも気を遣い、とても若返って見えます。
しかし、見方を変えれば、この方は合わない入れ歯で偏った噛み方を強いられたせいで、いらぬ頭痛や目まいで長い間苦しんでいたのです。88歳と高齢の方でもこのようなダイナミックな変化を起こすのですから、歯科治療はくれぐれも慎重に行わなければなりません。
入れ歯だけでなく、ブリッジ、インプラントなど、歯科治療が原因の実例は数多くあります。歯列矯正のリスクについては、『歯列矯正は超危険!』において詳述しているので、ご参照ください。
歯科治療が原因とは気づかずに身体の不調に苦しみ、マッサージや整体、整形外科、内科などで対症療法を繰り返し受けている方が多いことは容易に想像できます。
歯は、治療して数が揃っているだけでは不十分で、偏りなく左右均等に噛めることが重要です。身体の不調の原因が口の状態に起因していないか、再確認してみることも必要です。
歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
林歯科
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1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。