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子供の視力低下

連載の26

ご飯が、硬い⁉︎

視力の低下はゲーム・スマホにあらず

文部科学省が昨年12月にまとめた学校保健統計調査(速報値)によると、子供の虫歯(処置歯含む)は減少したが視力低下は増えているということです。この調査は2016年4~6月に、国公私立の幼稚園から高校までの子ども全体の25.3%に当たる約344万人を対象にした大規模調査なので、子どもたちの実情を正確に反映していると受け取れます。

虫歯が減少したことは良いことですが、視力低下は目の機能低下にほかならず、大きな問題といえます。裸眼視力が1.0未満の割合の増加が深刻で、幼稚園で27.9%、小学校で31.5%、中学校で54.6%、高校で69.9%と、いずれも過去最高となったのは由々しき事態です。眼科専門医で慶応大学教授(眼科学)の坪田一男氏はこう警告しています。

「大人になっても近視が止まらない人もおり、より強度の近視に進むと眼鏡などでの矯正も難しくなり、さらに失明につながる恐れもある。放置してよいものではない」

こうした視力低下の主因として、スマートフォン(スマホ)やタブレットの使用が挙げられています。しかし、子どもの視力低下は今に始まったことではなく、問題視され始めたのは1980年代からで、その当時はスマホもタブレットはありません。

当時、主因として指摘されていたのは、テレビやファミリーコンピューター(ファミコン)などで、やはり目を酷使することが視力低下を招くとされました。

しかし、視力のピークになる年齢などを精査した結果、テレビやファミコンは主因ではなく、実は柔らかい食べものによる咬合力の低下が視力低下の実態と符合するとの指摘があります。

早くから軟食と視力低下の関係を指摘した宮崎教育大学の島田章夫教授(当時)は、1988年7月25日付教育医事新聞記事『視力低下の原因 -食物の軟化で咬合力弱く-』で、幼稚園児の咬合力と視力の調査の結果、咬合力の低下傾向が著しいことから、「これでは将来視力の低下を招くことは否定できません」と現状を予測しており、残念ながらその通りとなってしまっています。

深刻な咬合力低下が視力低下を招く

ヒトは、生まれた時は目がほとんど見えませんが、成長に伴い徐々に見えるようになります。視力はカメラのレンズに相当する水晶体を、毛様体筋という筋肉が働いて調整することでピントが合い、くっきり見えます。この毛様体筋を単独で鍛えることは難しく、目に隣接するさまざまな筋肉を使うことで連動して鍛えられると考えられています。特に、食べ物を噛む時に働く咀嚼筋(咬筋、側頭筋など)は、隣接する筋肉のなかでは一番大きな筋肉なので、その影響は大きいと考えられます。

また、目の網膜には、魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸のDHAが多く存在し、その機能を支えていますが、子どもたちやその親世代の魚離れによるDHA不足も視力低下に影響を与えています。

こうしたことを裏付けるように、子どもの好きな食べ物と挙がるのは、カレー、ハンバーガー、フライドポテト、ヨーグルト、プリンなどで、魚類が少なく、いずれもよく噛まなくても飲み込める柔らかいものばかりです。

最近では、ごはんを「硬い食べ物」、豆腐を「普通の硬さ」と答える子どもがいるなど、咬合力低下は深刻さを増しています。さらに、こうした硬さの感覚低下も視力低下とリンクしています。また、乳幼児の早すぎる時期の離乳も、食べものを噛まずに飲み込むことを覚えてしまうので、その後の咬合力低下につながり、ひいては視力低下に結びつきます。

日本人はメガネやコンタクトレンズを使う人が多いので、視力低下の低年齢化を気にしない風潮がありますが、動物として考えた場合、視力低下は生死にかかわる大問題です。視力は、食べ物を見つけ、外敵を察知し、敵と味方を見分け、仲間とのコミュニケーションツールとして不可欠で重要な能力です。それが、幼いうちから裸眼で自分の足元も覚束ない人の割合が大きいことは、かなり危機的な状況といえます。視力低下の低年齢化を軽く見てはいけないのです。

視力低下の対策として、テレビゲームやスマホなど目を酷使すること避けるなど、目を保護することばかりに主眼を置きがちですが、視力調節を担う毛様体筋を鍛えるのは、咀嚼筋であることを再認識し、幼いときからよく噛む食習慣を身につけるよう取り組む必要があるのです。

よく噛む習慣を身につける方法として、母乳育児やガムの利用などの具体策を、本連載記事『日本人の「噛む力」の弱まり、深刻な健康被害の恐れ…IQ低下や認知症リスク増大』にも記しております。よく噛む生活習慣に切り替え、視力低下を防ぐ一助としていただきたいと思います。

 

歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
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林歯科
〒 102-0093 千代田区平河町1-5-4 平河町154ビル3F
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