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中森明菜

昭和歌謡_其の二十七

明菜がまだ、『少女A』だった頃

『少女A』

中森明菜

つい先日のことですが、私の大学のかなり後輩で、糞生意気な24歳、駆け出しの女流ライターと酒を呑んでおりまして、おそらく有線放送なのでしょうが、店内のBGMに中森明菜の『少女A』がかかったんです。

私は明菜の大ファンだったもので、ほぼ反射的に「ほぉー、懐かしいねぇ。明菜の『少女A』だ」とつぶやいたのですが、目の前の彼女の反応は、「アキナ? 誰それ?」」でした。

「こんな変な曲、ヒットしたの?」

何気ない物言いで、しかもタメ口でそう訊かれ、私はかなりムカつきました。

「なんだ、お前は中森明菜を知らんのか?」と、睨みつけながら問えば、

「ゴメン、知らな~い。あ、松田聖子なら、私のお祖母ちゃんが好きだったらしくて、ちょっとわかるけど」

言うに事欠いて、お祖母ちゃんですかいな!? 絶望的な想いに駆られる私の耳に、『少女A』(作詞:売野雅勇/作曲:芹澤廣明)のサビの部分の歌声が、……それも、デビュー2曲めの人気アイドルが唄うには、不釣り合いなほど〝ぞんざい〟な歌詞とともに、絡みついてきたのです。

 ♪~じれったい じれったい いくつに見えても 私だれでも
じれったい じれったい そんなのどうでも関係ないわ~♪

この楽曲の発売は、ネットのデータによれば1982年7月28日だそうです。正直、ついこの間、ぐらいの感覚で捉えておりましたが、ううむ、……あれから36年も時が過ぎ去ってしまったのですね。

当時、私は大学2年生だったでしょうか。今やハゲ茄子頭の、還暦までカウント3つですから、24歳の糞ガキが、いや、かなりライティングの〝筋〟の良い、母校の大学の後輩女史が、昭和のビッグアイドル・中森明菜の歌声に対して、まるっきり関心を示さず、あくまで突慳貪(つっけんどん)に「誰それ?」……であっても、仕方ないですよね。

明菜は、作詞家:来生えつこ&作曲家:来生たかお〝姉弟〟が世に放った、アイドル歌謡のバラード曲としては、かなりクオリティの高い『スローモーション』(1982年5月1日発売)でデビューしました。

♪~砂の上 刻むステップ ほんのひとり遊び
振り向くと 遠く人影 渚を駆けて来る
ふいに背筋を抜けて 恋の予感 甘く走った
出逢いはスローモーション 軽いめまい誘うほどに
出逢いはスローモーション 瞳の中 映るひと
夏の恋人候補 現れたの こんな早くに
出逢いはスローモーション 心だけが先走りね
あなたのラブモーション 交わす言葉に 感じるわ~♪

生まれて初めて心ときめく人に出逢った、その新鮮な想いを、じつにピュアに、しっとりと描いた来生のお姉ちゃんの歌詞に、弟の紡いだメロウで、どこかノスタルジックな風情の漂うメロディラインは、みごとにフィットしました。

とはいうものの、如何せん、日本テレビ系の人気オーディション番組『スター誕生!』で、グランプリに選ばれた新人歌手のデビュー曲としては、派手さが足りませんよね。

これは後付けの解釈ですけれど、明菜というアーチストが、生来抱え持っている、我の強さといいますか、手前本位の流儀や理屈を、わがままなまでに押し通し、何が何でも周りのスタッフに認めさせる……そういうタイプの女だと、はなから判っておれば、余計に、「『スローモーション』だと、新人歌手〝明菜〟のPR戦略からして、ハッキリと違うんじゃないかい?」と意義を唱えたくもなります。

事実、『スローモーション』は、オリコンのヒットチャートを眺めると、30位が最高でした。明菜がデビューした年は、のちに【花の1982年】と称されるほど、ビッグアイドルがずらりと揃いました。松本伊代に早見優、堀ちえみ、キョンキョンこと小泉今日子と並べれば、【花】であることが嘘でないとお判りでしょう。

中でも、レコードの売上的に首1つ、どころか頭2つ分も抜きん出ていたのが、のちにヒロミの女房となる伊代チャンで、デビュー曲『センチメンタル・ジャーニー』(1981年10月21日発売/作詞:湯川れい子/作曲:筒美京平)は、オリコン最高9位でした。

伊代チャンは正直な性格といいますか、みずから描き下ろしたエッセイ集の発売に際して、生放送の深夜番組で「まだ中身を読んでない」と平気で発言しちゃうようなところがありまして、

最近も、あちこちの番組で、当時「明菜がだいっ嫌いだった!!」と言ってはばからず、番組の共演者の優やちえみが必死にフォローする場面は、すでに〝お約束〟ですらありますが、

明菜の側にしても、伊代のような「歌唱は下手だし、ヤル気があるのかないのか、よくわからん」輩は、「だいっ嫌い!!」どころか、はなから相手にしていなかったはずです。

それでもデビュー曲30位というのは、明菜本人はむろんのこと、制作スタッフ全員、おおいに歯噛みしたんじゃないですかね。

少女A

そんな背景もあってか、およそ3ヶ月後に発売された2曲めは、けっこう本気でゲリラ的にオリコン・トップを狙ってきました。その楽曲こそが、糞生意気な後輩が【こんな変な曲】と言い放った、『少女A』になります。

歌詞の主人公に託するテーマは、『スローモーション』と変わらないのです。

【思春期にありがちな、緊張気味ではあるけれど、ほんの少しだけ背伸びをして「大人の恋を知りたい!!」と願う、感受性ゆたかな少女の胸の内】

ざっくりですが、そんなところだろうと思います。題は、このテーマの中の、〝ほんの少しだけ背伸び〟の意味を、明菜の楽曲の制作スタッフ各位がどう解釈したか?

少女なら誰しも胸をときめかせる初恋の相手。意中の彼への熱い想いを、ある意味、純文学チックに描いたのが『スローモーション』であると仮定すれば、『少女A』はハッキリと通俗小説、それもエロ系の!! ってことになりましょう。

♪~上目遣いに 盗んで見ている 蒼いあなたの視線がまぶしいわ
思わせぶりにクチビル濡らし きっかけぐらいはこっちで作ってあげる
いわゆる普通の17歳だわ 女の子のこと 知らなすぎるの あなた
早熟なのは仕方ないけど 似たようなこと 誰でもしているのよ

  じれったい じれったい 結婚するとか しないとかなら
じれったい じれったい そんなのどうでも 関係ないわ
特別じゃない どこにもいるわ
ワ・タ・シ・少女A~♪

私がブルセラ女子高生の取材を、かなり集中的に行うようになるのは、1985年以降ですから、この楽曲の大ヒットの3年後ということになりますね。

録音用のマイクロカセットデッキを女の子の前に置き、主にSEXがらみの体験を語ってもらうわけですが、こちらが放っておいてもポンポンと面白いように、本人いわく「ホントのことだよ」を披瀝してくれるケースなど稀で、たいがいは羞じらいを深めて、特にインタビューの最初の方は言葉少なになりがちです。

そこで私は、少女Aの歌詞をちゃっかり利用させてもらうことになります。

「明菜も唄ってるじゃん。エッチなことなんて、今時、誰だってやってるよ、って。けっして特別なことじゃない、って。○○チャンだって、少女Aに負けないくらい、ヤリまくってるんでしょ? 思いきって喋っちゃいなよ」

とかなんとか、作詞家の売野センセイの描く【少女A】の言動が、さも全国の現役女子高生の実態とイコールであるかのごとく、眼の前の【少女○○チャン】に信じ込ませさせすれば、取材される緊張感もほぐれ、急にあーだこーだと喋りだしたものでした。

『少女A』のメロディを、頻繁に巷で耳にするようになって、私が一番たまげたのは、歌詞内容がエロいこともさることながら、とても流行歌の歌詞と思えぬ、あまりに〝ぞんざい〟な言葉遣いでした。

♪~結婚するとか しないとかなら~♪ や、♪~そんなのどうでも 関係ないわ~♪ のフレーズ。以前のコラムでも取り上げたように記憶していますが、昭和歌謡の長い歴史の中で、おそらくこの楽曲ぐらい、日常会話を〝そのまま〟歌詞に仕立ててしまった例はないはずです。

当時、大学の仲間数人と、歌謡曲について語り合うサークルのようなものを、こしらえていたのですが、『少女A』は恰好のネタでした。

「作詞家の売野が書いた歌詞は、手抜きもいいとこだ!!」
「こんな下らない歌詞なら、俺たちだって書けちまうだろうが」
「締め切りまでに、適当な歌詞が浮かばなくて、チャチャチャとイイ加減な台詞を並べちゃったんじゃねぇの?」

などなど、今となれば、そんな状況は、まずトップスター明菜の制作過程において、万にひとつもあり得ないことを、当然ながら認識しておりますけれどね。

売野センセイは、意図的に〝あえて〟いかにも流行歌然という、七五調の歌詞から遠い、思春期の女の子の〝よくある〟会話を、うまくアップテンポなメロディに乗せてみる、という試みだったのでしょう。その戦略はみごとに当たったというわけです。

そしてまた、『少女A』を唄う明菜の顔立ちやら、糞生意気な言動が、全国のリスナーたちに、「少女Aのモデルって、ひょっとして明菜自身なんじゃね?」と勘違いさせるに十分なほど、リアルに感じられたことも、この楽曲の話題作りとして大きかったのではないでしょうか。

結果、およそ40万枚のシングルレコードを売り上げましたが、残念ながらオリコンのチャートは5位止まりでした。

『少女A』からおよそ3ヶ月後の1982年10月27日、明菜の2枚めのアルバム『バリエーション〈変奏曲〉』が発売されました。そこに収録された『キャンセル』(作詞:売野雅勇/作曲:伊豆一彦)という楽曲の歌詞は……、

好きな相手とのSEXを、「誰でもやってるわよ」と突っ張って見せた『少女A』の主人公でしたが、それはあくまで表向きの強がりにすぎず、心の内側は緊張と怯えで震えまくっていて、「できればこの場から逃げ出したい!!」と感じていたことがわかる、内容になっています。

♪~見せかけの強がりは 傷つくことが誰より怖いだけ
知ってるわ男の子 むやみに愛を欲しがることを
あなたの言葉で ココロ裸にされ このままじゃ私 立ってられない

  崩れそうよ 崩れそうよ 軽い子だと 誰か叱って
瞳の奥 覗かないで 恥ずかしい私がいる

  取り消してよ 取り消してよ 見た目よりも純情だから
信じやすくできてるのよ ここから先はキャンセル~♪

作詞は、同じく売野センセイ。『少女A』は、ちょいとあざとく書きすぎた、との反省もありましょうか? 思春期のオマセな少女にありがちな、本音と建前の間でせわしく揺れ動く、いじらしい心模様がリアルに描かれています。

まぁ、それでも来生えつこが描く『スローモーション』の文学性のようなものは、明菜に提供した楽曲に限らず、売野作品全般に感じられません。クリエーター個々の個性や才能の違いと言ってしまえば、ミモフタモナイでしょうが。

 ちなみに私は、この『キャンセル』のメロディラインが結構好きで、今でも時折、カラオケで熱唱いたします。

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

 

 

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