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笠置シヅ子

昭和歌謡_其の108

「コンプライアンス無き時代の歌姫伝説」その①

『ラッパと娘』&『センチメンタル・ダイナ』
by 笠置シズ子

 

—そうな方向に動き出した

 2023年……、あっという間でした。あと1週間ほどで師走だ、というんですからね。

ちょいと前でしたけれど、電車の中で私より明らかに世代が下っぽい、サラリーマンが2人、私の前で吊り革を握りながら、

「なんかさ、今年はさ、暑い暑い言ってるうちに終わっちゃうな」
「だな。11月だっつーのにTシャツ1枚でも汗かいてさ、次の週はメチャ寒くてダウン出して」
「そうそう。俺、このまま夏が終わらねぇんじゃねぇか? とマジに思ってたらさ、いきなり真冬じゃん! 今朝の気温、8度だってよ」

とかナントカ愚痴り合っていましてね。

私、……思わず見上げちゃいました。一瞬、右の小太りの彼と目が合ったので、無理に笑みをつくろい、目で「俺もまさしく同感! めちゃめちゃ同感!」と語りかけたのです。

連日連夜、天気予報でもない通常のニュース報道の中で、もう飽きてゲップが出るほど、最高気温が「ウン十年ぶりに更新!」を見聞きさせられましたし、トドメのごとく11月7日の夕刻、「東京都の最高気温、27,5度を記録! 11月に入っての夏日は100年ぶり」という文言まで躍りました。

それにしても2023年、振り返ると、ある意味、実にオソロシイ1年でした。

芸能ビジネスの世界において、おそらくは数年後、数十年後、徹底した検証が為されるにふさわしいほど、私が生まれる昭和37年より遥か昔からずーっと、長い長い年月の間、常識と信じ込まされて来た【業界ルール】が、それこそ「ウン十年ぶり」にガラリと一気に変わってしまった……訳ですからね。

言わずもがな、その筆頭格は、超の付くド変態、ジャニー喜多川の性加害の大騒動に尽きます。

しかし……ですよ、

私も含めて、おそらく大半の皆さんは、事実の詳細は知り得なくても、ジャニーズ事務所の社長の「あの爺」の性癖が同性愛であり、それもマニア用語で「ショタコン」と称される、思春期真っ只中の15歳前後の美少年【しか】興奮しない持ち主である、……と、多かれ少なかれ「そんなの、とっくにわかってたよ!」だったはずでしょ?

それを、今回の騒動が勃発するまで、マスメディア各社のいずれかで飯を喰っていながら、「え~、知りませんでした」なんて、どの口でほざけるんだろ? と、私は一連の事件経過を眺めつつ、苦々しく感じていましたけれど。

ま、どうあれ、今更ながら世間に露呈されちまいました!

それも、あまりに赤裸々に! ね。

すると、たちまち「あの爺」とは共犯と言っても過言じゃないはずの、マスメディア各社や広告スポンサー会社の幹部どもが、どいつもこいつも思いっきり掌を返したがごとく、姑息にも「今後は一切、旧ジャニーズ事務所属のタレントは起用しない!」方針を打ち立て、

実際、来る大晦日のNHK「紅白歌合戦」のステージからも、「44年ぶり」にジャニーズ系歌手やタレントが一切、消えました。いや「消しました」が正しいでしょうかね。

でも……、だったら何故、ジャニ系の連中を「消した」なら、令和5年の現在、BSのNHKの歌番組に、頻繁に出演している多くの演歌系の歌歌手を出演させないのか?

私は申し訳ないけれど、ド演歌にさほど興味はありませんが、それでも、洋楽ポップスを唄わせてベリグーな島津亜矢だとか、好きじゃないけど五木ひろし、森進一、細川たかし、……加えて好きだけど吉幾三、その弟子で、今やオバサマ方に人気急増中の真田ナオキ、あたりは、さんざんNHKに貢献しているのに、何故「消されてる」の? 〝ここ〟にも、例の気色悪い忖度が働いているのかな? と、ますます私はNHKに、意地悪な視線を送ってしまいます。

ジャニーズに続いて、まるで「待ってました!」」とばかりに、「清く正しく美しく」をモットーにする、宝塚歌劇団の内部で、少しも「清く」も「正しく」も「美しく」もない日常生活が繰り広げられていた、……という、これまた前代未聞の、とんでもないスキャンダルが勃発しました。

でもね、これだってさ、「あの爺」の性加害と同じく、正直ほぼ100%宝塚に興味のない私でさえ、宝塚出身のかつての大スター歌手、越路吹雪を始めとし、鳳蘭やら大地真央やら黒木瞳やら真矢みミキほかが、バラエティ番組やら自叙伝やらで【面白おかしく】結構な〝事実〟を語ったり、書いたり……してくれたのを、何気なく見聞きしてますからね。

当然、「そんなもんでしょ、宝塚てとこは」という感覚に過ぎません。

猛烈な高倍率で、いざ音楽学校に入学できても、生徒同士、団員同士の先輩後輩の【縦社会】は、昭和時代の甲子園常連校の野球部並みに「先輩が白といったら、黒いモノでも白!」であり、先輩の歩いた靴跡は「絶対に踏んじゃいけない!」であり、入浴でも食事でも「先輩から順に済ませて、新参の生徒や団員は一番あと!」であり、先輩のレッスン着の洗濯や身の回りの世話は「すべて新参の生徒や団員が行う」……と、子供時代の私でさえ、【そう】信じてましたから。

今回、たまたま自殺者が出たことで、宝塚の存続に関わるほどの大騒動に発展しちまいました。不思議なのは、それこそ黒木瞳や天海祐希などの売れっ子OBが、ほとんどコメントしていませんよね。過去にさんざん、宝塚時代の思い出として「喋ったり書いたり」していますのに、ね。

実は「あの爺」の性加害の問題に並んで、もう1つ、同じく性加害、同じく同性愛のセクハラ騒動が「歌舞伎界にある!」ことが文春砲として報道されましたよね。……それを苦にして、猿之助は〝あんな〟犯罪を起こし、懲役3年、執行猶予5年の判決が出さましたが。

この件だってね、私は演劇学科出身だということもあり、、歌舞伎界でも、日舞・洋舞問わずダンス業界でも、同性愛系の「後輩可愛がり」行為の話が、嫌でも耳に入って来ましたから、申し訳ないけれど、私にとっては「何を今更」という感覚に過ぎません。

その感覚が昭和時代においては、私のみならず、結構多くの皆さんの「ごく普通の常識」であったはずですし、令和のコンプライアンス厳しき世の中になって、正面切って「それって正常なことですか?」と糾弾されリャ、「正しい訳がないでしょ」と答えるしかなく、

ただ昭和時代は、その手の行為があまりに日常的なため、嫌な想いを経験した者は多々実在しながらも、「そういうことも振り切り、乗り切ったヤツだけが、芸能界で生き残れる!」と、本気で信じ込まされて来た、のも事実。

おそらく、いつの間にか洗脳されちまったのでしょうね、芸能界というのは、輝かしき大スターが活躍する、その裏で、有象無象が跋扈する闇の部分は「かなり」多く、そういう世界で生きて行くなら「清濁あわせ飲む覚悟」が肝要……とね。

2023年は、そういう様々な悪しき【風習】、悪しき【業界ルール】が、たまげるほど一気に一掃され「そうな方向に動き出した」年になりました。

芸能界のみならず、水商売の世界、それもホストクラブにおいて、売掛(ツケ払い)の問題も事件にまで発展し、これまで漫然と扱われていた【風習】や【業界ルール】が一気に一掃され「そうな方向に動き出した」……のには驚きましたが。

今後、その手の動きに加速度が付くのか否か? 私にも予測がつきませんが、本気で変えなきゃいけないのなら、現状の〝この〟アグレッシブな空気をフル活用して、ドドドと一気に変えちまうことによって、ひょっとして? ひょっとして? 新たな芸能ビジネスの形、水商売の形が、自然発生的に生まれると興味深いですがね。……私は、正直、どの業界も(政界が一番酷い!)闇が深すぎて、そんな現実は簡単に訪れるはずがない、と思いますが。

さて、ここから無理やり、例によって昭和歌謡に結びつけますが(笑)、

 

めまいがするほどの衝撃

昭和歌謡の大スター、宝塚出身の越路吹雪も、松竹楽劇団(通称OSK)出身の笠置シズ子も、実は養成学校時代は、めちゃめちゃ劣等生で、まぁ天海祐希も同じく、だったらしいですが、先輩団員や演出家、振付師などに、さんざんボロクソに罵られまくり、「てめぇみたいなクズは、即刻辞めちまえ!」と、今時なら100%「ハラスメントでしかない!」駄目出しをされまくる中、するり、ぬるりと、上手くやり過ごせる才覚があればこそ、後に大スターとして輝く要素がある! ……んじゃないでしょうかね。

たまたま現在、NHKの朝のドラマは、笠置シズ子の生い立ちを描いていますね。当然、彼女が大ブレイクするにあたって、作曲家の服部良一の活躍も描かれることになりますね。

服部先生の偉業について詳しく触れるのは、また別の機会に回します。

昭和歌謡の全盛期、演歌系メロディを世に送り出した作曲家のトップ、まさにゴッドファザー的な存在が古賀政男であるならば、ポップス系メロディの作曲家のゴッドファザーは、誰がなんと言っても服部良一です。

世の中が「まだ戦前」だった昭和12年には、淡谷のり子に『別れのブルース」を唄わせ、たちまち大ヒット!

昭和14年には、松竹楽劇部のステージ用に『ラッパと娘』(作詞も服部良一)という、洋楽のジャズの基本リズムである「ブギウギ」をふんだんに活用した楽曲を書きました。それを所属女優だった笠置シズ子に唄わせ、シングルレコードを発売したことで、一躍、彼女は歌手として全国的にブレイクします。

♪~楽しいお方も 哀しいお方も
誰でも好きな その歌は
バドジズ デジドダー
この歌うたえば なぜかひとりでに
誰でもみんな 浮かれだす
バドジズ デジドダー
トランペット鳴らして スイング出して
あふればすてきに 愉快な甘いメロディ
ラララララララ ダドジバドドダー
ドジダジ デジドダー
歌おうよ 楽し この歌を
バドジズ デジドダー~♪

また、翌年の昭和15年には、同じくジャズの基本リズム「スイング」を用いた楽曲、『センチメンタル・ダイナ』(作詞:野川香文)のレコードを発売し、これも大ヒットします。

(こちらは、貴重な本人の歌唱と映像)

♪~ダイナ 淋しい瞳に
ほほえみは消えて 涙さえうるむ
ねー ダイナ 若い娘は
いつもほがらかに 希望にもえて
くよくよするのは やぼな娘よ
くよくよするのは やぼな娘よ
おお ダイナ あなたのえくぼに
ほほえみは消えて 溜息ばかり
センチメンタル ダイナ
ほほえめよ ダイナ
センチメンタルダイナ
教えてよ ダイナ
センチメンタル ダイナ
歌えよ ダイナ
センチメンタル ダイナ
踊れよ ダイナ
センチメンタル ダイナ
ほがらかに うたえ~♪

実はワタクシ、上記の2曲のことを、NHKの朝ドラで観るまで知りませんでした^^;。笠置シズ子でブギとえば、昭和25年発売の『東京ブギウギ』と『買い物ブギー』、黒沢明監督の『天国と地獄』の挿入歌、『ジャングルブギー』(昭和23年)が有名ですので、もちろんそれは私の大好きな曲ですけれど。

ドラマの中で唄う、水谷豊&伊藤蘭の娘ではなく、本家の笠置シズ子の歌唱をyou-tubeで初めて『ラッパと娘」を聴いた時、私は大げさでなく、めまいがするほど衝撃を受けました! なんという歌唱のエナジーでしょうか。決して歌は上手くはない、と感じます。でも、そんなこたぁ、どうでも良い! と感じさせるほど、猛烈な迫力で熱唱しまくっています。

NHK朝ドラの『ラッパと娘』の歌唱シーンは下記アドレス経由でご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=PlAopAZOKik

昭和12年に流行った歌謡曲といえば、ディック・ミネが唄った『人生の並木路』です。〝そういう〟楽曲ばかりが、日本の歌謡曲の主流だった時代に、服部良一は、洋楽の曲調をダイレクトに「直輸入」したメロディを書き、無理やり日本語の歌詞を宛てたのですから、相当に唄いづらかったはずです。

それを笠置シズ子は見事に自分の歌にし、ステージ上で全身をフルに動かして、思いっきり熱唱したわけでしょう。

正統派歌手である淡谷のり子は、そういう歌ばかりを唄う笠置シズ子のことを、「アンタの歌は下品ね!」と罵りましたけれど、どっこい、笠置のダイナミックな歌唱は、たちまち国民に愛されます。

服部良一は、戦争の影響で打ちひしがれた日本人の心持ちを、得意のサウンドのジャズのブギウギやスイングによって、晴れやかに軽やかに癒やすことに大成功した! のです。

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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