歯の老化防止
連載の五
口の正しい使い方
一人ひとりに合った個別の予防と治療
間違った歯磨き信仰が蔓延しているせいで、虫歯や歯周病になった時に必要以 上に「磨かない自分が悪い」と思いがちです。
また、歯科医や歯科衛生士のなかにも、「磨かないあなたのせい」と思ってい る浅薄な連中がいるのも事実で、同業者として情けない限りです。
現実は、虫歯や歯周病になりやすい体質があるだけでなく、生老病死は自然の摂理であるように、誰も老化現象から逃れられないのです。
特に歯周病は年齢ととともに悪化する傾向があり、歯の喪失の原因となっています。アンチエイジングや老化防止などといいますが、老化を止めたり予防する ことは不可能です。
目指すべきは、老化のスピードをなるべくゆっくり進行させることです。そのための歯磨きや定期検診は予防ではなく、むしろ老化の進行を遅らせるための治療です。
体質や老化を無視した歯磨き一辺倒では、予防効果は期待できません。逆に言えば、体質や老化を考慮した歯科医を見つけ、一人ひとりの体質や年齢に合った 個別の予防法や治療を受けることが、歯の寿命を延ばす近道となるのです。
体質や老化を無視した万人に当てはまる歯磨きより
効果のある予防法
現行の虫歯や歯周病の予防は歯磨きや歯肉マッサージなど、直接歯や歯茎に施 すことばかりですが、正しい口の使い方を実践することで、歯磨き以上の予防効果が得られます。
歯の一番の役割は、食べ物を噛み砕き飲み込みやすくする「咀嚼」です。咀嚼は、歯だけでなく舌や顎を動かす筋肉(咀嚼筋)などと連動した口全体の動きですが、1日当たりで上下の歯が接している合計の時間は、20分程度といわれています。
実は、食べ物を噛んだときに、歯と歯が触れるのはほんの一瞬なのです。
食べ物は上下の歯が接した時点で噛み砕かれていますので、上下の歯が接したらそれ以上の力は不要です。すぐに歯と歯を離してまた噛み砕き始め、飲み込める形状になるまでの動作を続けます。そのため、上下の歯同士が接している時間は短いのです。
咀嚼筋が発揮する力は、その人の体重に匹敵するといわれるほど強靭なので、 仮に食べ物を噛み砕いた後も強い力で噛み続けると、歯と歯を支える歯茎にダ メージを与え、いずれ壊れてしまいます。
食事中はそうならないように、上手く制御されているのです。
しかし、この必要以上に噛み続けてしまう行為は、食事以外の時に行われています。それが、歯ぎしり、食いしばり、噛み締めなどの行為です。
こうした悪癖は歯と歯茎だけでなく顎関節や咀嚼筋にもダメージを与え、顎の 疲れや顎関節症、首や肩のコリの原因ともなります。これらの悪癖の主な原因は ストレスといわれ、現代人のほとんどが行っているといわれています。
歯ぎしり、食いしばり、噛み締めなどで、不必要な強い力を受け続けた歯や歯 茎は、抵抗力も免疫力も低下します。
こうして弱った歯や歯茎が、虫歯菌や歯周病菌の餌食となってしまうのです。 したがって、悪癖を自覚し是正することが、歯磨き以前の虫歯、歯周病予防なの です。
歯ぎしり、食いしばり、噛み締めの是正法
歯ぎしり、食いしばり、噛み締めは無意識に行ってしまう行為なので、意識的 に是正しなければなりません。
そのためには、「噛み締めない」と書いたメモをスマホやパソコン、鏡など普 段よく目にするところに貼っておき、自分の歯の状態を常にチェックし、歯と歯 が当たっていたら離すように習慣化するのです。
『咀嚼筋マッサージ』も、絶大な効果があります。
左右の耳の下から〝えら〟の周囲にある「咬筋」と、〝こめかみ〟から耳の上 にある「側頭筋」を合わせて咀嚼筋と呼びますが、この2ヶ所の部位を、円を描 くように指先で軽くマッサージします。
マッサージをすると、上下の歯は自然に離れます。この時に触れる筋肉のコリ具合で、自分の癖の強さもわかります。
気がついた時にこまめに行うと、歯を守るだけでなく頭痛や首、肩のコリが解消される場合もあるので、励行してください。
こうした噛み癖の対処法を、予防や診療に取り入れているかどうかは、「良い歯医者選び」の条件にもなります。
過度の歯磨き信仰から開放され、良い習慣を取り入れて、歯と口の健康を手に 入れてください。
歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
林歯科
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1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。