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バーブ佐竹&中条きよし

昭和歌謡_其の103

「人は何故、嘘をつくのだろうか?」

『女心の唄』by バーブ佐竹

『RUN』by 長渕剛

『うそ』by 中条きよし

『うそよ今夜も」 by ロス・インディオス&シルヴィア

身近な哀しい嘘

えー、今回は……ゴメンナサイ^^;。冒頭からワタクシゴトで愚痴らせていただきます。

私が現在、受験生に小論文指導などを行っている都内某所のちっぽけな塾で、ほんのちっぽけなお家騒動が勃発しましてね。3月末日で前塾長が辞めて、4月1日から新塾長に「ごくごく円満に」塾の経営業務がバトンタッチされた、……ことに表向きはなっていたのですが、これが、いやはや、そうではなかったんですね。

1月の半ばでしたっけか、前塾長が、私を含めて講師陣および生徒や親御さん全員に、

「突然のことで驚かれるだろうが、先日人間ドックを受けたら、あらゆる数値が悪すぎてドクターストップがかかり、私はしばらく静養に励みます」

そう、いきなり伝えて来たののです。

塾長を退く理由が〝こう〟であれば、当然、人間の心理として、「ってことは、病気がある程度快癒すりゃ、塾長は戻って来るのね?」と反応しますよね。実際、私もそうでしたし、多くの親御さんも前塾長にそう問い合わせたようです。それに対して前塾長は、「その可能性は残ってます」とかナントカ、それなりに明瞭に答えたのですよ。

ところが、これが大嘘だった! 重病なんてまっぴら嘘。本当は齢40になって、ま、さまざまな想いが交差した末、「もう塾経営は続けたくない!」、「今後は他の仕事をしたい!」だったそうな。

だったらその意志を〝そのまま〟ハッキリ、私たちに伝えりゃあ良かっただけのことなんだと、私は率直に思いますけれど、下手に姑息にも「重病だ」なんて触れ回ったものだから、話がややこしくなりましてね。前塾長の人柄に愛着のある親御さんは、「病気を早く治して、塾に戻って来て下さいね」ってな気分になりますわねぇ。

塾の経営業務を引き継いだ新塾長にしても、そんな空気が塾内にはびこりゃ、自分はずっと「しょせん腰掛けじゃん」と塾関係者全員に思われてしまって、そりゃ気分は愉快じゃないでしょう。実際はすでに妥当な金額で塾を「買い取った!」訳ですから。前塾長が舞い戻る可能性は100%、ゼロです。

そんな人間心理のいたって単純な在り様を、愚かしくも前塾長はまるで知らなかった、……ようでして。手前じゃ、塾経営を退くにあたって、さも「上手い言い訳を思いついた!」と独り合点したんだとか。私は事実を知らされた時、なんて愚かしい判断だろうと、呆れるのを通り越して哀しくなりました。

前塾長が企んだ姑息な「嘘」には、ほんの耳滓ほどの「納得しうる知性」も感じませんね。これが他の業種ならいざ知らず、仮にもまだ思考が柔らかい子どもたちが通う職場で、この手の「嘘」は一番の罪じゃないですか。そこに少しも慮りがない! という事実が、私には絶望的に哀しいのです。

長年塾生徒として通いながら、この春から有名大学の教育学部に通い、将来は「教師になりたい!」夢を追いかけつつ、学生講師としても「塾に恩返ししたい!」と嬉しいことを言ってくれる早苗チャン(仮称)は、今回の騒動を18歳の感情と思考で捉えつつ、

「ねぇ中先生(私のこと)……、山田(仮称)塾長もさ、自分は重病だって嘘をついたなら、墓場まで持っていく覚悟を決めなくちゃね。しょせん緩いよね、脇が」

と私にぼやいて、淋しげな笑みを浮かべたものです。そして、こう首を傾げました。

「でも中先生、……嘘って、何のためにあるんだろ? 私、今回のことで、ただガッカリさせられるのも癪なので、少し考えてみようかなぁ、と思ってね。嘘の存在理由を」
「嘘の存在理由? ……か。ふうむ、それは興味深いテーマだね。よっしゃ、俺も早速、考えてみよう」

──というわけで、

俺の前で唄うな!

今回は唐突ですが、次から次へと「嘘」にまつわる歌謡曲の一節(フレーズ)を、レコードやCDの発売年月日などは無視して、思いつくままに並べてみます。

これらはすでに還暦ハゲと成り果てた私の記憶に絡みついている、昭和(平成もちょこっと)時代の歌謡曲ばかりであり、カラオケファンにはお馴染みのヒット曲揃いでありますが……。しかし私は、あくまで歌詞の一部を皆さんに紹介したいだけでありまして、

まぁ、わざわざイヤミっぽくお断りすることもないのですが、唄っている歌手自体には、さして興味はありません。いや、むしろ「だいっ嫌い!」な歌手も入ってたりしますが、あしからず^^;。

♪~どうせ騙してくれるなら 騙し続けて欲しいのよ~♪

「嘘」をテーマに原稿を書こうと決めた際、真っ先に飛び出して来たのが、コレでした! カラオケファンにはお馴染み、昭和歌謡全盛期のスター歌手、バーブ佐竹の『女心の唄』(昭和39年12月発売/作詞:山北由希夫/作曲:吉田矢健治)ですね。

この歌はバーブのデビュー曲であり、250万枚を超えるミリオンセラー! 北海道は釧路出身、地元では流し歌手、上京して都内のナイトクラブで唄っているところをスカウトされた、一人の「歌に自信がある!」けれど、顔の造作には「かなり難がある(笑)」青年が、一躍スター芸能人に祭り上げられたのです。昭和40年の「第7回日本レコード大賞」の新人賞を受賞し、NHKの「紅白歌合戦」に4年連続で出場を果たしました。

続いては、昭和歌謡ではないですけれど、このCDが発売されて巷のあちこちで、歌とメロディを耳にする機会が増えた際、何故か、歌詞の内容に強く惹かれてしまったのです。

「どうせ……」の台詞は、歌謡曲ばかりか、安っぽい恋愛小説やドラマに、掃いて捨てるほど使われていますよね。でも、ある意味、男に骨の髄まで惚れてしまった女の、けなげな本音でありましょう。

お次は、

♪~なるべくなら なるべくなら 嘘はない方がいい
嘘は言わない そう心に決めて
嘘をつき続けて、俺生きている~♪

この歌は……ホントはね あんましね 紹介したくないです。理由は? だいぶ前のコラムにも書きましたが、まぁ、私がコイツを好きではない! という……。長渕剛が平成5年9月22日に発売した『RUN』(作詞&作曲:長渕剛)です。

この曲は、彼(長渕)自身の懺悔に私は感じます。いろいろな意味で…。特に歌詞のこの部分ね。

『RUN』が流行っていた頃、まだ親父が生きていましてね。門前仲町にある、カラオケスナックにしては店内がかなり広かった印象の『ちゃんねる80』……。親父が馴染みにしていた店でした。

歌好きのマスターとママのご夫婦には、大層お世話になりましたけれど、お店はまだ健在でいらっしゃいますかね? と、試しにネットで検索してみましたら、いやぁ、まだありました。どうやらご夫婦共々、お元気なようで、なによりです。

店の場所は移転したような??? ハッキリと「ここじゃない!」と断言するには、あまりに遠い記憶になりますけれど、……でも富岡八幡宮のトイメンじゃなかったことだけは、確かです。すげぇなぁ、ネット時代は。たちどころに「ハイ、どうぞ!」と求めている答えが呈されるのですから。
https://fukagawa-web.com/wpfuka02/members01/channel80/

ただ失礼ながら、このお写真、随分とお古いようですね^^;。お2人とも、親父や私が足を運ばせていただいた頃のお顔をされますから(笑)。もちろん私もまだ三十路を越えたばかりで、髪の毛もフサフサとはお世辞には言えないながら、数十年後に〝こんな〟禿げナス頭になろうとは、想像もしていなかったはずでね。

この当時……平成の初旬の頃は、親父がまだ風俗やサラ金の看板屋(サンドイッチマン)になる前でして、京橋の外れにある、高速道路のトンネル内の空気汚染の数値測定を一手に扱っている……とかいう会社に勤めていました。親父と会う時はもっぱら月島の小料理屋「ゆたか」(ここも親父の馴染みでしたけれど)で軽く呑んで喰って、タクシーで門仲の「ちゃんねる80」ってコースでした。

店に入って、瓶ビールを1本…2本を飲み干すタイミングで、親父は酒をウヰスキーに変え、私に「おい、ぼろぼろを入れろ!」と命じます。内藤やす子の『想い出ぼろぼろ』(昭和51年9月1日発売/作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童)のことなんですけれど。

続いて「じゃあ俺も!」という時に、私は『RUN』を唄いました。初めてこれを親父に聴かせた時、私の歌声の巧拙は脇へ置いておいて……。長渕みずから書いた歌詞内容に、親父がケチをつけたのを、今でもよく覚えています。

「おい、紳(私の名前)、こんなつまらん歌、俺の前で唄うな! 酒が不味くなる」

これに私は単純に反発し、「大嘘をつきまくって来た親父の人生の、応援歌みてぇなもんじゃねぇか」
洒落たつもりでニヤついたところ、親父の表情がにわかに険しくなり、

「応援歌? こんなチンケな歌詞がかい? ケーッ、冗談は貴様の顔だけにしやがれ! イイか、紳、流行歌の歌詞にはな、出来の良し悪しはともかく、おしなべて人間の喜怒哀楽に絡む情動の何かしらを、ひょいと掬い上げてあるんだよ。そいつを小粋なメロディに載せて歌手が唄う。聴く大衆はてめぇの人生が良きにつけ悪きにつけ、歌詞のどこかにてめぇの日常に因む何かしらを見出し、時に安らいだり、口ずさんで泣いたり、……それが流行歌の価値だ。なのに、どうだ? 『嘘をつかないとほざいた口で、平気で嘘をつく』……そンなこたぁ、しごく当たり前じゃねぇか。誰もが知ってることを、わざわざ歌詞にして何が面白い?」

親父は物書き崩れの広告屋でしたから、この手の分析は酔いどれながらも達者でしたねぇ。いや、酔えば酔うほど理屈が際立って来るような? そんな面倒臭さがありましたっけ。片や、まだ齢30+幾つの私には、親父のまさに『RUN』論のココロを、薄っぺらい感覚でしか理解し得なかった気がします。今なら実に「その通りじゃん!」と感じますが。

その点、バーブ佐竹の歌、♪~どうせ騙してくれるなら 騙し続けて欲しいのよ~♪ ……だなんて、まさに歌謡曲の歌詞を借りなきゃ口ずさめない心情ですよね。

あれを唱え、あれを!

「同じ『嘘』がテーマなら、あれを唱え、あれを! ほら……山口洋子が目をかけた色男が唄ってる、ほら……あれだ、あれ!」

親父が「あれ!」を連発した楽曲は、中条きよしの大ヒット曲、タイトルはそのものズバリ『うそ』(昭和49年1月25日発売/作詞:山口洋子/作曲:平尾昌晃)です。

「あれにはな、銀座のホステス上がりの山口洋子にしか書けない、嘘の真実がある。男の愚かさを吸いがら1つで描きやがって、あの女はてぇしたもんだ」

♪~折れた煙草の吸いがらで あなたの嘘が わかるのよ
誰かいい女(ひと) できたのね できたのね
あー 半年あまりの 恋なのに
あー エプロン姿が よく似合う
爪もそめずに いてくれと 女があとから 泣けるよな
哀しい嘘の つける人~♪

さして唄いたくもないのに唄わされた私……。この歌は若い頃からちょくちょくカラオケで唄っていましたから、今更、歌詞がどうの、などと考えてみたこともありませんでしたし、この時も、親父が言わんとするココロなんぞに、さしたる興味も湧きませんでした。

……が、今なら実にリアルに解ります。中条きよしの『うそ』には、結婚をチラつかせて女を抱いた男の〝哀しい嘘〟が描かれているのはもちろんですが、それだけじゃない。

たった煙草の吸いがら1本から、男の嘘を見抜いてしまう女という生き物の怖さ! 「だから世の中の殿方よ、お気をつけなさいませよ」という、山口洋子流の警告が歌詞に描かれていたんですね。

もう1曲、最後に紹介しておきましょう。これもタイトルに「嘘」が入った楽曲ですが……『うそよ今夜も』(昭和56年発売/作詞&作曲:六ツ見茂明)

♪~好きさ 大好きさ あなたがいちばん好きさ
うそよ うそうそよ そんなこと みんなうそよ
うそじゃないんだよ あなたのすべてが好きさ
うそよ うそうそよ そんなこと みんなうそよ

愛は言葉じゃないと わかっていても
信じたい 甘えたい いついつまでも

好きさ 大好きさ あなたのすべてが好きさ
うそよ うそうそよ 死ぬほど 好きさ~♪

「恋愛なんて、しょせん男と女の騙し合い。騙された方が負けであって、潔く手前の負けを認めて、ひと晩自棄酒呑んで、ハイおしまい。それが大人の流儀だ」……ってなことを書いたのは、作家の藤本義一でしたっけ。それが真っ当な答えかどうかなんて、私にもわかりませんけれど、『うそよ今夜も』の歌詞には、そのあたりを心得ているはずの〝大人〟の男と女、それぞれの本音が描かれているように感じます。

こちら(↓)は、去年の映像。ロス・インディオスの結成60周年のライブですって。

いやはやリーダーの棚橋さん、御年85ですよ~。グループ結成は昭和37年ですから、私が生まれた年ですね。そしてグループの2大〝看板〟ソングである『コモエスタ赤坂』と『知りすぎたのね』のレコード発売は、昭和43年ですからね。

私が生まれた年から、ずーっと現役! 先に記したムード歌謡全盛期のグループの中で、令和の現在も、結成期のメンバーを3人残して活動を続けているのは、唯一ロス・インディオスのみです。その事実だけでも素晴らしいですね。声も、まだまだ十分にイケますし。

……と、そこまで書いてから、詳しく調べましたら、どうやら今年中に、棚橋さんを含めて3人のメンバーの「高齢を理由に」、今後のグループの活動を中止した上で、「ロス・インディオスの名前と楽曲を後世に残してゆきたい」ため、現在、日本歌手協会を通じて公式にメンバーを募集している、とのことです。ここに挙げた映像が、図らずも棚橋さんの唄い収めになりました。

さてさて、冒頭の、早苗チャンと言葉を交わした「嘘の存在理由」について、……残念ながらまだ「これだ!」という答えを導くに至っておりません。スミマセン。

例の「口腔科」ドクター・林に言わせりゃ、実に明瞭でしょうね。

「バカっ! 存在理由もナニも、最初から嘘をつかなきゃイイだけのことだろ。正直に誠実に、真っ当に毎日を過ごせば、嘘が入り込む余地などねぇじゃんか」

ま、おっしゃり通り。……ではありますがね。多くの皆さんにとって、それがなかなか難しいのも本音でしょうね。

♪~嘘は言わない そう心に決めて
嘘をつき続けて、俺生きている~♪

嗚呼、今回の原稿を書きながら、途中で気付いてしまったのですが、……やっぱり、長渕の書いたミモフタモナイ、親父が「俺の前で唄うな!」と私をドヤした、この一節を締めくくりにして、「嘘」の世界から抜け出しましょう。

皆さん、くれぐれも「嘘」にはお気をつけ下さいませ。

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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