命のトライアングル
連載の弐
多機能で鈍感な器官
命の営み「入れて出す」
前回記事では、かみ合わせの不調和が頭痛、肩こりなどの大きな要因となり、ひいては身体の健康の良し悪しに大きく影響することについて言及しました。そしてこのような認識が広く世間に浸透し違和感のないコンセンサスを得ているものの、かみ合わせの不調和が、なぜ身体症状につながるのかという具体的な話がなかなか聞こえてこないと疑問を述べました。
今回からは、「かみ合わせの身体への影響の仕方」を体系的にできるだけわかりやすく述べていきたいと思います。
そこでまず、「健康な命の営み」について考えます。
健康な命の営みとは、「入れて出す」という単純な循環が滞りなくうまく行われている状態です。
・入れる=吸気(息を吸う)、摂食
・出す=呼気(息を吐く)、排泄、発汗
命の営みとは、たったこれだけのことであり、健康の源は「入れて出す」という単純な循環が滞りなくうまく機能することです。しかしながら、この循環を滞りなく行うためには、いまだ謎に満ちた人体のすべてと、それを連携し機能させるさまざまなシステムを総動員する必要があります。そして、この入り口に当たる器官は、口と鼻しかありません。両手の人差し指と親指を合わせてつくった三角形だけで、呼吸のための鼻と摂食のための口がすっぽりと収まります。つまり命の源がこの狭い範囲だけに存在します。これを「命のトライアングル」と呼びます。
この「入れて出す」の入り口の主要機能を担っているのが口なのです。
口は知れば知るほど面白い
では、口という器官について考えます。
皆さんは口について考えたことがあるでしょうか。筆者のような口腔のプロでない限り、今まで口を意識したことなどはないでしょうし、それがごく普通だと思います。
しかし知れば知るほど、口というのは非常に奥が深く面白い器官です。
口の働き:食べる、しゃべる、呼吸する、物を掴んだり保持する、噛みついて攻撃する、表情をつくる(口を「へ」の字にして不満をあらわしたり、口角を上げて喜びを表すなど)、愛情行動(キスをするなど)
働きだけでもこれだけあります。ほかの器官に比べると、本当に多岐にわたっていることがすぐにおわかりいただけると思います。
また、ご飯を口に入れ、とんかつをかじり、たくあんを入れ、みそしるを啜り、もぐもぐと咀嚼しながら、その中に混じっていた髪の毛一本をより分けて口から出し、残りを飲み込むという、まさに神業を行う器官です。現在の科学の粋を集めてつくったロボットでもこのようなことはできません。非常に繊細な機能をこともなく行うのですが、普段はまったくといって良いほど意識に上らない鈍感な器官でもあります。
この口を常に意識しなければならない不調和があるとしたらどうでしょうか。たとえば、靴の中に小石が入った状態で歩いていて、しかもその靴を脱ぐことができない状況とでも言えば良いでしょうか。
この小石となり口の不調和をもたらす、特に大きなストレス源となるのが「かみ合わせの不調和」なのです。
つまり、身体の健康は口の健康が支え、その口の健康に良くも悪くも大きく影響するのがかみ合わせなのです。
次回から、さらに口の健康とかみ合わせという視点で掘り下げていきたいと思います。
歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
林歯科
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1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。