ハイリスクなブリッジ
連載の拾八
元に戻らぬ削った歯
歯にも平均寿命があります。かなり個人差が大きいのですが、一番短いのは6歳ごろ生える奥歯の第一大臼歯です。45歳を超えたあたりから、歯周病などで失うことが増えてきます。歯を失ってしまった場合は、その部分をそのままにせず、入れ歯やブリッジなどで補うことになるのですが、両隣の歯を削って被せる、高リスクのブリッジが主流です。
ほとんどの歯科医は、無条件でブリッジを選択し、患者さんにも当然のように説明し、装着しています。
他院の治療ですが、ブリッジを装着したことで歯根ごと抜けてしまったケースがあります。左上の第二小臼歯をなんらかの原因(おそらく歯周病)で失い、その部分を4本のブリッジで補っていました。通常は3本で済むところ、1本増やして4本ブリッジにした理由は不明ですが、3本より4本のほうが治療代はかかります。これは自費のブリッジなので、30~50万円はしたと思われます。
ブリッジ部分だけを観察すると、セラミックが使われており、かなり精密にできています。これを制作した歯科技工士は、確かにブリッジづくりの技術は高いと思います。しかし、歯根ごと抜けてしまい、この患者さんは左上の臼歯4本をいっぺんに失ってしまいました。
これは決してレアケースではありません。前歯でも奥歯でも、ブリッジごと抜けてしまうことはよくあります。その理由はさまざまですが、噛み合わせの調整が不十分であることは、共通した大きな問題点です。ご紹介したケースのブリッジにも、噛み合わせの調整をした痕跡がほとんどありませんでした。
奥歯4本分の噛み合わせを正確に再現することは、ほぼ不可能です。それだけに、装着に際しての噛み合わせ調整は高度な技術が要求されます。微妙な調整の過不足でブリッジが揺さぶられたり、咬合圧の過負担などが歯周病を誘発し、歯そのものには問題がないのに、歯根ごと抜かざるを得ないことになってしまいます。
ブリッジに限ったことではありませんが、歯の治療には、噛み締めや歯ぎしりなどの習癖や、糖尿病など歯周病リスクの有無と、その対策がなされていなければなりません。
特にブリッジは両隣の健康な歯を削るのですから、単に歯の数合わせで済む問題ではありません。一度削った歯は二度と元に戻せません。
1本義歯を作る技術の欠如
そもそも、歯が抜けてしまった場合の治療に関して、選択肢がほぼブリッジのみという現状がご紹介したようなケースを引き起こしています。1本の歯が抜けた場合は、その部分だけを補う取り外し可能な1本義歯を選択するべきです。
こうした提案をすると、頭から否定する歯科医がいますが、彼らに共通するのは、まともな1本義歯がつくる技術がないことです。歯科医は、安直にブリッジを選択せずに、両隣の歯を削ることのリスクを厳しく見つめて、安全な1本義歯ができないことを猛省すべきです。
ご紹介したケースも、はじめに1本義歯を選択していれば両隣の歯の寿命は違っており、患者さんの生活の質も、経済的な負担も違ったものになっていたはずです。
すべてのブリッジが同じ末路をたどるわけではありませんが、リスクの少ない治療を第一選択にするべきです。筆者自身、右上に1本義歯、右下に2本義歯を入れて快適に使っています。
歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
林歯科
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1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。