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細川たかし

昭和歌謡_其の九十

昭和の記憶は、セピア色なんかじゃない!!
   NHKの朝ドラ「カムカム・エヴリバディ」と歌謡曲(後編)

 『心のこり』 by 細川たかし

朝ドラの時代考証は?

(※前編から続く)

前回のコラムで記した通り、私がウダウダ・モタモタ・ヒーヒー・屁垂れな 〝様々〟をヤラカシている間に、NHKの朝ドラ「カムカム・エヴリバディ」の ストーリー展開が、あまりといえばあまりに乱暴!! さも雪崩が起きたがごと く、一気にダダダ……とタイムワープしてしまい、すっかり時代が〝かなり先〟へ進みまくってしまいました。

現在の主人公の「ひなた」は、「るい」こと深津絵里と「ジョー」ことオダギリジョーの間に生まれた、一人娘なのですが……。彼女の誕生日は、番組設定上、 昭和40年4月4日です。

私がまだ、さほど〝ウダ・モタ・ヒー〟に没入する直前、……2月4日金曜日に立春を迎え、暦だけは春到来になった〝当日〟の朝のことです。ドラマの進行 は、昭和51年の夏あたり。「ひなた」は11歳、小学5年生になっていました。

誰に似たのか? 口だけ生意気にも達者で、言うこととやることが〝まったくチグハグ〟な「ひなた」が、夕食時、両親とともにお茶の間の卓袱台を囲み、21 型(だそうですが)のテレビ受像機をチラ見している……というシーンです。

映像は無しでしたが、私の耳に飛び込んで来たテレビの音声は、なんと、TBSの超の付く人気番組、ザ・ドリフターズ出演「8時だよ全員集合」のエンディングシーンだったのです。

♪~ババンババンバンバン あっ、ビバノンノン~♪

ドリフのヒット曲『いい湯だな』(昭和42年6月10日発売/作詞:永六輔/作 曲:いずみたく)を、出演者全員ならんで口ずさみながら、加藤茶がお決まりの台詞、「宿題はちゃんとやれよ~!!」「寝る前は歯をみがけよ~!!」を、テレビの前の視聴者(全国の子どもたち)に呼びかける……。我々世代で知らないヤツは、おそらく1人もいないでしょう。まさかNHKの朝ドラで、「8時だよ全員集合」が紹介されるとは、思いもしませんでした。

「へぇー、やるじゃん、NHK!!」と、思わず口走ったも束の間。お次は翌日の設定ってことでしょう。フジテレビ系、超の付く人気アニメ「サザエさん」のテーマ曲が流れましたよ~。

朝ドラの演出史上、まったくもって前代未聞!! 担当プロデューサーが、どう NHKのお偉方を説得したのか?私は知りませんけれど、このチャレンジ精神 〝だけ〟は、素直に評価します。

しばし後、山口百恵の『禁じられた遊び』(昭和48年11月21日発売/作詞:千家和也/作曲:都倉俊一)の唄いだし、♪~怖くない アアンアン 怖くない~♪  が、私の耳に聴こえて来ました。さらにキャンディーズの『春一番』(昭和51 年3月1日発売)の唄いだし、♪~雪が溶けて 川になって 流れて行きます~♪  も聴こえて来ました。

いわゆるドラマの〝時代考証〟というヤツで捉えれば、『春一番』はドンピシャリなのですが、昭和51年の夏休みに、巷のあちこちから聴こえてくる、百恵 チャンのヒット曲というならば、3年前に発売された『禁じられた遊び』は、もはや、あり得ない!! ですね。

この年の6月21日には、百恵チャンみずから「ぜひ書いて下さい!!」と懇願して制作された、阿木燿子の作詞&宇崎竜童の作曲『横須賀ストーリー』が発売されてますからね。この楽曲は、がらりと大きくイメチェンを図りたかった百恵 チャンみずから、阿木と宇崎に〝直訴〟して楽曲を創ってもらった……経緯があるのです。

狙いは見事に的中!! たちまち大ブレイクし、レコードは70万枚近く売れまくりました。

♪~これっきり これっきり もう これっきりですか~♪

〝この〟唄い出しのメロディと歌詞が、たちまち流行語になったくらいですか ら、もちろん「ひなた」だって、夏休みの間、おそらく鼻歌でさらりと唱えちゃうくらいに〝馴染んで〟いるはずです。3つ年上の私も、そうでした。

朝ドラの演出の狙いとして、劇中で頻繁に、令和4年現在の感覚からすれば、 〝はるか昔〟にヒットした歌謡曲──をBGMがわりに流す目的が、「1発でその 時代の空気を掴む!!」であるならば、2月8日の回で視聴者に「聴かせにゃあならん」楽曲は、『横須賀ストーリー』でなきゃ嘘でしょう。そうでなきゃ、当時をよくご存知の皆さんには、しっくり〝耳にフィット〟しません。

さらに2回ほどドラマが進行し、2月10日に放映された〝お話〟の、ちょうど真ん中あたり? のタイミングですから、時代設定は、前のシーン同様、昭和51年のまま──と思いきや、そうじゃない!! のです。

布団にもぐったまま、なかなか起きてこないことに焦れた、母親の深津絵里が娘の部屋に駆け込んで、「ひなた!! いつまで寝てるの!? 早く起きなさい!!  学校に遅れるでしょ!!」と、無理やり起こされた「ひなた」は、なんとまぁデカイ(笑)!!

ほんのひと晩、寝込んでしまった間に、あろうことか「ひなた」は18歳!! 思春期真っ盛りの高校3年生(高校2年生の3月という噂も)になっておりました。ちなみに子役からキャストもがらりと変わり、元AKBの人気〝おバカ〟アイドル出身、今や〝実力派〟若手女優の1人だそうな、……川栄李奈が演じています。

いやはや、なんとも、「カムカム・エヴリバディ」の脚本家(50代半ばの売れっ子女流作家)は、〝この手〟の、あまりにも乱暴な〝時間経過〟処理に、いささかの躊躇もないんでしょうね。ひょっとして「これが私の芸風よ~」とかナントカ、自惚れていたりして。だとすれば、少なくとも私は彼女を〝買い〟ません。

成長を見守りたかった‼︎

一番たまげたのが、12月23日の回でした。前日の回で、「ひなた」の母親の 「るい」は小学1年生になり、入学式を迎えるのですが、同時に何故か、実母と 悲劇的な離別を体験するのです。

「明日の回は、いったいどうなるの?」&「まだ幼い『るい』は、これから先、 どうやって生きて行くの?」などなど、翌日の朝、全国の朝ドラ愛好者は、誰しも悲しみと不安を胸に抱えつつ、主人公母娘の〝その後〟に注目したはずです。

ところが、──ですよ。〝翌朝〟の「るい」は、なんとまぁ、あろうことか、いきなり、実年齢49歳の深津絵里に替わっていた!! のですよ~。

おまけに郷里の岡山の実家を、単身、飛び出した「るい」こと深津絵里は、大都会である大阪の繁華街の真ん中で、ナニをとち狂ったか? いかにも安っぽい ミュージカル仕立てで、陽気に踊りまくるのです。

??? 私はテレビ画面に向かって、思わず吠えてしまいました。「なんじゃあ~、こりゃ!?」と。

視聴者のうちの、特に私を含めた中高年層の皆さまが、幼い子供だった「るい」の〝その後〟を「見守りたい!!」という情動を、一切無視!! 一切スルー!!  しまくりやがって、「コノヤロウ、てめぇ~、こりゃいくらなんでも、乱暴過ぎるんじゃねぇのかい?」と、さすがに啖呵の1つも切りたくなりつつ、時代は、かる~く20年ほど過ぎ去ったようで……。

昭和40年代の半ばに突入!! と相成りました。

私は、前にもどこかで明記しました通り、昭和37年生まれですから、ちょうど 一番遠い記憶と重なる〝ような〟光景が、この日の回から連日続くことになりまして、現在に至ります。

時代は、昭和ど真ん中。敗戦から20数年を経て、まさに高度経済成長の真っ只中ですから、巷のあちこちから、〝その時代〟に流行った様々な歌謡曲がBGMがわりに聴こえて来ます。

昭和39年の(1回目の)東京オリンピック開催時は、まだ庶民にとって高嶺の花だったテレビ受像機も、数年後には、日本じゅうのお茶の間の隅で、当たり前のように存在を〝主張する〟ようになります。

ま、昭和歌謡マニアの私は、毎朝、ドラマの進行を気にかけながら、劇中で頻繁に流されるヒットソングに合わせて、たいがいの楽曲を唄いまくることになりまして。それはそれで楽しい……のですがねぇ。

でもね、マニアであるからこそ、余計に気になるのですよ~。いつの時代に、 どのタイトルの楽曲が発売されて、どれだけのヒットを飛ばし、われわれはどのくらい覚えたか?(覚えさせられたか?) 自分の、日増しに衰え行く記憶の襞を、無理やり掻き回しつつ、

「この歌が流行った時は、確か……俺は、隣のクラスのT村N子に告白して振られたんだっけな」

気恥ずかしいニタニタ笑いを浮かべ、甘酸っぱい郷愁に駆られたい!! わけです。この体験を可能にするためには、ドラマ演出上の、いわゆる〝時代考証〟と いうヤツがしっかりしている、……ことが前提になりましょう。

今回の「カムカム・エヴリバディ」は、天下のNHKが伝統的に誇るべく、朝ドラの演出とは思えぬほど、何故か、何故か、〝それ〟が、はなはだ適当だったり、……するのです。

まぁ、一夜にして時代を20数年、平気で〝すっ飛ばしちゃう〟脚本家とのコンビですからね。深津絵里の娘の「ひなた」が、一気に18歳になった2月10日の回では、窓の外を走る車が「まさかまさかのプリウスだぞぉ~!!」と、数名の奇特な御仁がネットに書き込んでいましたっけ。ちなみに、トヨタ自動車が製造&発売、世界初の量産ハイブリッド専用車の、初代プリウスが発売されたのは、平成9年です^^;。

ドラマは〝今〟、昭和58年の夏という設定ですからね。私はすでに21歳、大学 3年生になっていました。

「ひなた」の自宅のテレビ画面は、朝ドラつながりという意味では「大いにあり!!」なのでしょうが、橋田壽賀子脚本の朝ドラ「おしん」を映し出していまし た。記念すべき「おしん」のスタートは、昭和58年4月4日ですから、この〝時代考証〟は正しいです。

問題は先に記した、キャストチェンジした直後の、川栄李奈演じる高校3年生の「ひなた」が、母親に無理やり起こされた際、寝ぼけ眼で、プリウス以上に 「超あり得ねぇ~!!」台詞を口にしたこと──です。

「あっしには関わりないことでござんす」

懐かしいですねぇ。フジテレビ系で放映された人気テレビ時代劇、「木枯し紋次郎」の主役、中村敦夫演じる紋次郎の決め台詞が、〝これ〟でした。当時、こ の台詞は流行語になったくらいですから、「ひなた」が口にしたところで驚くには当りません。──が、しかし、「木枯し紋次郎」の放映は昭和47年です。10年以上も経った日常で、〝これ〟を口癖にする輩は、まずいませんよ~。

「ひなた」より3歳年上の私は、大げさではなく、猛烈に思考が混乱しました。彼女の成長期は、まさしく私の〝それ〟と、ドンピシャリ寄り添うわけでして。特に私の場合、当時にヒットした歌謡曲の、大げさに言えば1曲1曲に、それぞれ固有な思い入れもあったり、します。

それを、昭和45年あたりからの〝丸々10年間〟の芸能文化を、ザックリと乱暴 に、かつ破廉恥に、「ま、こんな程度の〝懐メロ〟を流しておきゃあ、イイんじゃね?」とばかり、十把一絡(じゅっぱひとからげ)にされて紹介されると、 正直、腹が立つのを通り越し、絶望的な想いに駆られます。

嗚呼、昭和は遠くになりにけり、か。……と。

わたしバカよね

嘆いてばかりいたんじゃ悔しいので、どっこい昭和野郎のすかしっ屁(やたら に臭いだけ!!)とばかり、ザックリと乱暴に、私が考える、昭和時代のど真ん中 〝丸々10年間〟を象徴する意味で、「こんな程度の〝懐メロ〟でイイんじゃ ね?」と感じる楽曲を1つ、紹介して、今回のコラムを終えたいと思います。

昭和50年というと、敗戦後30周年の節目の年で、わが日本人の大先輩方が〝あれほど〟辛酸をなめ、飢えと戦い、苦労して苦労して〝国のかたち〟を取り戻そ う……と、政治家も財界人も、ひたすら経済の成長にばかり重きを置きました。そのおかげもあってか、確かに驚異的な復興力により、高度経済成長の波に乗りまくり、物質的に豊かな世の中になった〝実感〟を、日本人の多くは持ちました。 もちろん、子供だった私もね。

しかし反面、カネにもならん文化教養面を〝ないがしろ〟にする傾向が強くなり、……結果、どうなったか? 戦後生まれの若者どもはもちろん、老いたる連中も含めて、日本国民が総じて「バカになった!!」のです。オツムのネジが緩くなり、脳の中身が軽く薄っぺらくなったのです。

まさに【バカの時代】の到来──を、みごとに鋭く捉えたのが、作詞家のなかにし礼です。彼の手で、まさに昭和50年という時代にふさわしい、【バカ】な国民 に向けて「お前らバカじゃん!!」と罵るかわりに、歌手に「わたしはバカです」 と告白させる歌謡曲を書いたのです。

この楽曲の大ヒットにより、ほかならぬ私も、何かにつけ「嗚呼、俺ってバカだよなぁ」と感じるたびに、つい……その歌詞をメロディに乗せて、鼻歌で口ずさんでしまう習慣が出来上がってしまいました。

♪~わたしバカよね おバカさんよね~♪

今や、演歌界の大御所……なんでしょうねぇ。私はコレッポッチも〝買い〟ませんが、細川たかしのデビュー曲『心のこり』(昭和50年4月1日発売/作曲:中村泰士)の歌詞の、冒頭の部分です。

(※こちらの動画は、デビュー当時、まだ初々しい細川たかし)
https://www.youtube.com/watch?v=ryyH8v4YxNs

(※こちらの動画は、〝ズラ疑惑〟真っ盛り、今の細川たかし)
https://www.youtube.com/watch?v=1VnLx0B58Y0

この楽曲ね、昭和歌謡史上、ナニが画期的か? 歌詞の一部に【バカ】が入る 流行歌は、ムード歌謡で、森雄二とサザンクロスがヒットさせた『意気地なし』 (昭和51年発売/作詞:高畠じゅんこ/作曲:中川博之)なども実在しますが……。

前奏が終わってすぐの唄いだしで、歌手みずからが「わたしバカよね おバカさんよね」と宣言してくれちゃう楽曲は、まぁ、おそらく、これ一曲!! でしょ うね。

それくらい、なかにし礼の書いた歌詞は、当時はもちろん、現在でも衝撃的で して……。

♪~私バカよね おバカさんよね
うしろ指 うしろ指 さされても
あなた一人に命をかけて
耐えてきたのよ 今日まで

秋風が吹く 港の町を
船が出てゆくように
私も旅に出るわ 明日の朝早く~♪

正直、理由はさて置き、生理的に私は、細川たかしが大嫌いなんですが、歌い手は関係なしに、『心のこり』の歌詞とメロデイの見事なマッチングは、一度聴いたら忘れられない!! 嫌でも記憶に絡みついて、ついつい何か〝やらかす〟たび、〝しくじる〟たび、つくづく「俺ってバカだなぁ」と嘆きながら、条件反射のごとく、決まって口から突いて出るのです。「♪~わたしバカよね~♪」……と。

「ひなた」も、私同様、年がら年中、何かしら〝やらかし〟ます。常に〝屁垂れ〟です。いつも「どうして私って、いつまでたってもバカなんだろう?」と嘆き、彼女とは、のちに恋仲になる〝大部屋〟俳優の彼からも、当たり前のように 「お前って、正真正銘のバカだな!!」と罵倒されます。

でも「ひなた」は、一応、すぐに反省だけはするのです。反省だけは……。そんなところも、私に似ています。

だったら彼女の心情を代弁する意味で、BGMがわりに奏でられる歌謡曲は、 百恵チャンやキャンディーズのヒット曲ではなく、細川たかしの『心のこり』でしょうがよ~!! 「ひなた」も、私同様に鼻歌で、「♪~わたしバカよねぇ~♪」 を口ずさんでいて当然じゃないですか。

「カムカム・エブリボディ」の脚本家、ディレクターほか、NHKの朝ドラ班の皆さん、ひょっとして、明日……いや、来週あたり、「ひなた」は鼻歌で、♪~ わたしバカよねぇ~♪ を口ずさみますでしょうかね? 昭和歌謡の大ファンとし て、いや、「ひなた」と同じ時代を生きた、どっこい、昭和の生き証人の還暦野郎として、冗談抜きに〝そのシーン〟を切望!! いたします。

と、書き終えて原稿を〆るつもりでいた、翌日の朝の回では、昭和59年の2月1日発売、吉川晃司のデビュー曲『モニカ』(作詞:三浦徳子/作 曲:NOBODY)が流されましたよ~。

さらにその翌週、ついに昭和時代を〝軽~く〟見限り(やがって)平成の世の中に突入!! 米米CLUBの『君がいるだけで』(平成4年5月4日発売/作 詞&作曲:米米CLUB)が流されて……。

あまりに時代の〝すっ飛ばし〟方が、身勝手なまでに急速しすぎて、もはや 〝今日〟の回が、実際に昭和の何年、平成の何年を描いているのか? 私自身、 イイ加減、追いかけるのに疲れてしまいました。

こうなったら、今の私の皮肉な興味は、以下の通り(でしかない!!)です。

来る4月9日放映の最終回までに、いったい平成何年まで、時代を〝すっ飛ば す〟つもりなのか? ひょっとしてドラマのラストぐらいは、ストーリー的に昭 和○年に〝戻す〟のか? その時、劇中に流される歌謡曲は何か?

オソルベシ、朝ドラ「カムカム・エヴリバディ」!!

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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