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筒美京平 其の六

昭和歌謡_其の七十

昭和歌謡ポップスの神様 作曲家・筒美京平先生を偲ぶ(其の六)

『青いりんご』
野口五郎

 

新御三家のデビューの陰に、筒美京平あり!!

前回、なかにし礼の逝去に因んだ内容のコラムを載せました。彼が遺した大ヒット曲の作品群には、かりにも物書きの端くれである私の自意識を、大いに刺激する楽曲がいくつもありますので、数回にわたり、取り上げるつもりですが──。

その前に、筒美先生に関して、もう少し、ご紹介しておきたいエピソードがありまして。それは、野口五郎との【出会い】です。

新宿育ちで、小学校から青山学院で学んだ筒美先生は、かなりのお坊ちゃんで、幼稚園児の頃からピアノを習い、その腕前は、当時の歌謡曲系の作曲家の中では「図抜けて上手かった!!」のだそうです。

その事実を、不覚にも知らなかった野口五郎は、初めて新曲の作曲担当として、筒美京平を紹介された時の、オハズカシキ失敗談を、少し前、BSの歌謡番組の中で披露してくれました。

先生の自宅のピアノ部屋? で、「どんな曲を唄いたいの?」と先生に訊かれたそうです。生意気にも五郎は、さも僕は「ギターだけじゃなくてピアノも上手いんだ!!」と言いたげな顔で、ピアノを弾きながら、「唄いだしは【こう】で、途中、Aマイナーからコードを【こう】展開させて、【こう】続けて、どうのこうの」と、勝手な要求をしたのだそうです。

当時、五郎はまだ15歳。高校生になると同時に、『博多みれん』という演歌でデビューしたものの、まったく売れず、180度、路線をポップスに切り替えました。制作スタッフの本音として、作詞に橋本淳、作曲に筒美京平という、いしだあゆみの『ブルーライトヨコハマ』コンビに、起死回生の願いを込めたわけでしょう。

筒美先生は、たとえ若気の至りにしても、礼を失しすぎる五郎の言動に、腹を立てるどころか、前々回のコラムで取り上げたnokko同様、ニンマリ笑みを浮かべながら、「キミが唄いたいのは、こんなメロディかな?」と、あまりに流麗にピアノを演奏し始めたんだそうです。五郎は「腰が抜けるほどビックリした!!」……と。

こうして出来上がった作品が、野口五郎の名前を全国に知らしめた、ヒット曲『青いリンゴ』(昭和46年8月10日発売)です。オリコンチャートで14位を獲得し、レコードは20万枚以上、売れました。

♪~心 こころを しばりあい
二人 ふたりで 傷ついた
あれは あれは 恋のおわり
涙の初恋か
青いリンゴを 抱きしめても
思い出さえ 帰らない
涙 なみだの 海にいま
ぼくは 深く沈もう~♪

五郎は、前出の番組で、筒美先生の思い出に続いて、親友だった西城秀樹の縁(えにし)も語りだし、「今でもアイツを想うと、自然に涙がこぼれてしまう」と打ち明けていました。

「ワイルドな17歳」というキャッチフレーズを引っさげて、デビューした秀樹の、1発めのシングル曲『恋する季節』(昭和47年3月25日発売/作詞:麻生たかし(現・たかたかし))も、筒美先生の作品です。

♪~君と君とふたり 瞳を伏せながら
強く強く 熱いこころを 感じる
恋する季節には まだ早すぎるけど
今のうちに 確かめたいさ 何かを
雨の日の 日曜は 我慢できなくて
つぼみなら やわらかく 抱きしめよう
恋する季節には まだ早すぎるけど
決めているさ 愛する人は 君だけ~♪

作曲を依頼された段階で、オリコンのヒットチャートの上位、それも「願わくばトップ!!」に輝くことを【約束させられ】るのが日常業務──の先生ですが、残念ながら、この楽曲のレコード売り上げは、42位止まり。

五郎の実質的な〝再デビュー〟曲と、秀樹のデビュー曲、ライバル同士の真っ向勝負は、五郎に軍配が上がったんですね。これは、私も意外でした。その後の2人の【流れ】を考えると、圧倒的に秀樹の人気が上回る!! と思い込んでいたんですけれどね。デビュー当時は違ったんですね。

ついでに、【新御三家】のもう1人、郷ひろみのデビュー曲もチェックしましょう。昭和47年8月1日に発売された『男の子女の子』(作詞:岩谷時子)ですが、さすが〝ひろみ人気〟というべきか、オリコンチャートで、みごと8位に輝きました。

五郎は14位が最高でしたから、デビュー曲で、いきなりヒットチャートの【ベスト10入り】を果たしたのは、ひろみだけです。

♪~君たち女の子 僕たち男の子
ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ おいで遊ぼう
僕らの世界へ 走って行こう
幸福さがすのは まかせてほしいのさ
ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ 夢があふれる
一度の人生 だいじな時間

アアアア 青空に アアアア 陽が光る
明るい風の中 髪をなびかせて
GO GO GO GO

ほほえむ女の子 みつめる男の子
ヘイヘイヘイ ヘイヘイヘイ 愛の雨降る
一度の人生 だいじな時間~♪

この楽曲が流行っていた頃、私は9歳でしたかね。でも、子供心にも、「つまんない歌詞だなぁ」と感じたものでした。

でも、今こうして改めて読み、その【つまんない】歌詞が、越路吹雪のマネージャーでもあった、岩谷時子によるものだと意識すると、同じく岩谷が手がけた、一連の加山雄三作品に通ずる、明るくポジティブな青年(少年)の息遣いが、行間に滲んでいるようにも受け取れます。

その息遣いがより強くなり、歌詞にもメロディにも、若き雄のフェロモンが濃厚に絡みつく……印象の楽曲が、ひろみの5枚目のシングル曲『裸のビーナス』(昭和48年6月21日発売)です。

同じ岩谷&筒美コンビの作品で、ジャケット写真が、ひろみの全身ピンナップでした。その効果もあってか、レコードは売れに売れ、オリコンチャートの(最高が)2位!! 惜しい、1位には届かず、でした。

♪~どうしたの ついて来ないのかい
お陽さまが 見てるだけだよ
眩しいな 君を見ていると 恋をしたくなるよ

青い海 波間には うす紅の さんご礁
夏の光を浴びて ほほえむ君こそは
可憐な 裸のビーナス
眩しいな 君を見ていると 愛を告げたくなる~♪

職人音楽家

まだ少しも手垢にまみれていない、全国のどこかにいる〝ただの〟少女&少年を、あくまで歌詞の力1つ&メロディの力1つで、超ビッグなアイドル歌手に育て上げる!! 日々、その【仕事】に全力を注いできた筒美先生。

芸術音楽家ではなく、職人音楽家、それも〝プロ中のプロ〟の職人であることに、作曲家仲間の誰よりも強いプライドを持ち続けてきた筒美先生。

同業者の間では、新曲のチェック魔としても有名だったようで、自分の孫ほど若いミュージシャンの楽曲にも、常に強い関心を寄せていたんだとか。関ジャニが司会の音楽番組内で、先生の弟子を自称する、作曲&編曲家の武部聡志(高橋真梨子や松田聖子の編曲)が披露したエピソードは、こうです。

ある時、平成ポップスの人気バンドの新曲について、武部は先生に「あのメロディ、キミが書いたの?」と訊かれ、「いえ、彼らの曲は、常に自分たちです。アレンジは僕が担当しましたけど」と答えたら、「ふうん」とつぶやいた後、思案げに数秒、間が空き、クスッと笑いながら「僕が書いた曲みたい」と告げた……んだそうです。

よしもとの芸人の藤井隆は、意外にも、作詞:松本隆&作曲:筒美京平の楽曲をレコーディングしている事実を、上記の番組内で、別の若手編曲家が明かしてくれました。このエピソードも、「職人音楽家・筒美京平」を物語るに十分な内容です。

松本&筒美両氏が立ち会いでレコーディングを行う、という状況に、スタッフはみな、神経をピリピリさせていたのですが、当の藤井は、それを知ってか知らずか、スタジオブース内で、何回か歌唱チェックを重ねる中で、思わず、つぶやいたそうです。

「う~ん、ここの歌詞、メチャ唄いづらいなぁ」

巨匠2人が座るソファの、斜め前の椅子席で、この光景を目の当たりにした編曲家は、瞬間、冷や汗が出て、後ろを振り向けずにいたらしいですが、

筒美先生、あくまで気安い口調で、「隆クン、書き直してあげなよ。歌謡曲の歌詞は、唄いやすいのが基本じゃない?」

スタッフ全員がシーンと静まり返る中、松本は、かなりムッとした口調で、「そうね」とつぶやいてから、その場を立ち去り、レコーディングはいったん休止。翌日、松本は、藤井が「唄いづらい」とぼやいた箇所はもちろん、1コーラスすべての歌詞を、書き換えて、スタッフに手渡した、……んですって。

松本隆も、筒美先生と同じく、プロ中のプロの「職人作詞家」ということでしょう。仲間と言えども、業界の先輩である筒美に諭され、熟練クリエーターとしての意地を見せつけた!! わけですね。いやぁ、鳥肌が立つほど凄い【実話】です。

松本&筒美コンビの楽曲のうち、私が「これぞ、プロ中のプロの仕事だ」と感じる1曲に、カネボウのキャンペーンCMソングでもあった、桑名正博の『セクシャルバイオレットNo.1』(昭和54年7月21日発売)があります。オリコンチャートで、3週連続1位に輝き、レコードの売上枚数は、累計で60万枚を超えました。

今回のコラムの〆に、この歌詞を載せておきます。

♪~うすい生麻に着換えた女は
くびれたラインがなお悲しいね
ファッション雑誌を膝から落として
駆けよる心が たまらないほど

フッ・フッ・フッ 色っぽいぜ
男と女の長い道程
もう俺は迷わない
You make me feel good
Sexual Violet Sexual Violet
Sexual Violet No.1

情熱の朱 哀愁の青
今、混ぜながら 夢の世界へ
あー そこから先は
You make me feel good
Sexual Violet Sexual Violet
Sexual Violet No.1

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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