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北原ミレイ

昭和歌謡_其の109

「2023年総括! 嗚呼……あちらも懺悔、こちらも懺悔」

『ざんげの値打ちもない』
by 北原ミレイ

『出世街道』
by 畠山みどり

怒涛の1年

 怒涛のような2023年も、残り10日ほどで終わります。

怒涛……。この2文字をキーボードで打ち込むと、反射的に40年前、まだ私がニチゲイの演劇学科の学生だった時分、他大学から招いた演劇学の大家の客員教授に、思いっ切り説教された〝あの日〟のことがフラッシュバックします。

ひょっとして、この話は前にも引用させていただいた気もしますので、詳細は省きますが、

要は【怒涛】だの【紅蓮の炎】だの、字面だけ見て〝意味ありげ〟な文字表現を、何かしらの研究をし始めた学生は使いたがるものだが、怒涛は「唸るほど荒れ狂って激しい勢いで迫り来る大波」が語源だし、紅蓮は「仏教の戒めの八寒地獄の7つめ。ここに堕ちた罪人は、異常に極度な寒さによって全身の皮膚が裂けまくり、肉も千切れまくり、真っ赤な鮮血が四方にほとばしる様子」が語源。

「語源のごとき状況に一度だって置かれたことがない、想像すら叶わない貴様らが、たんに『字面が恰好良いから」なんぞという理由で、不用意にレポートや論文などに用いることは、断じて許さん!」

でも今年を振り返ると、まずは天候……、まさに怒涛にふさわしい、あまりといえばあまりの酷暑でしたよね。お次はジャニーズ。芸能界の超の付くトップ企業の名称が、怒涛のエナジーによってこの世から消えました。さらにトップ劇団だったはずの宝塚も今、怒涛のエナジーによって〝消され〟そうです。日大のアメフト部も然り。

戦争も2つ、重なって来ましたね。去年の2月24日に勃発した、プーチン率いるロシアによるウクライナ侵攻は、なおも終決する〝兆し〟無し! ……に加えて10月7日、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が、いきなり! まさに怒涛のごとく始まりました。対するイスラエル軍もパレスチナ・ガザ地区の空爆を強め、双方、幼い子供たちを含む多数の人々が犠牲に。

いきなり! と書きましたが、はて中東戦争? 第3次の勃発は私が幼稚園児だった時分、第4次は小学5年生……だったかしら? え~と、まだ〝あそこ〟は揉めてるの? などと脳天気に構えていられるのは、それは100%、われわれ日本人が、現地よりはるかに離れた東(ひんがし)の海に浮かぶ、ちっぽけな島国の住民だからであって、〝あそこ〟の住民は敵も味方も常時、太古の昔から平和とは無縁の生活を強いられて来た……訳ですね。

師走に入り、政府首脳も怒涛のパニック状態ですね。自民党議員の政治資金パーティに絡むキックバックの問題……。安倍派議員の名前ばかりが報道されていますが、どうなんでしょ? 他の派閥だって野党議員だって、叩けばホコリが出るんじゃないかしら。

あっ! おっとぉ~、忘れるところでした。ビッグモーターズの、これまた前代未聞かつ悪辣な事件。創業社長による、あの謝罪会見……、あやうく私の記憶からフェイドアウトしそうでしたが、そうでした、怒りに震えた表情で何を言い出すかと思えば、「ゴルフを愛する人に対する冒とくです!」の発言から、まだ5ヶ月しか経てないんですね。

その後にさんざん公表された、いや正直「され過ぎ」た、ジャニー喜多川の性加害問題……、変態野郎が60年以上にわたって、しゃぶりまくってきた本数、もとい、美少年の数が、露悪的なほど際立ち過ぎまして、ビッグモーターズの悪行が可愛く思えて来ます。

何処(いずこ)もそれぞれ、過去ウン十年「当たり前に」行われて来た所業が、令和のコンプライアンスの基準に照らして 非難され、罵倒され、糾弾され、粛清されつつあり……ながらの、怒涛の師走、そして年越しです。

さぁて来年は、どんな1年になりましょうか?

コンプライアンスといえば、現在オンエアの、NHKの朝ドラ『ブギウギ』。笠置スズ子の生涯を扱っている話は、前回のコラムでも書きましたが。

ドラマの脚本家のインタビューがネットに載っていましてね。子供時代のスズ子が、同じクラスの仲たがいしている友達2人を「なんとかしたく」て、自分が仮病を使って……というシーン。

大阪が舞台ってこともありますが、まさに吉本新喜劇並みのドタバタな展開になって、すぐにシズ子の仮病、つまり嘘が発覚するわけです。私はTV画面を眺めながら、思わずゲラゲラ笑っちゃいましたが、全国のお茶の間の、結構な数の皆さんが、この嘘を「けしからん!」とNHKに投書をしてきた、と言うのです。

私は単純にたまげてしまいました。えー、ナニそれ? と。

そりゃ嘘は良くないですよ、嘘は。でもさぁー、子供がね、自分の損得抜きで、友達のために「何かしてあげたい」と本心から思って、悩んで悩んだ末に、仮病という一芝居を打った、……わけでしょ。たかだか〝それ〟だけのことを、コレっぽっちも微笑ましく受け止めずにさ、匿名署名は問わず、わざわざNHKに「けしからん!」と訴える……。そういう世の中は、本当に健全なのでしょうか?

昭和世代は「何事もイイ加減で、だらしがない」と、平成育ちの皆さんは思われるようですね。でも、言葉遊びのつもりはないですが、イイ加減は【良い塩梅の】加減ってこと、……と捉えれば、【良い塩梅】は決して悪いことばかりじゃないでしょう。〝たかが〟子供が演じた仮病に、イチイチ目くじら立てて騒ぎ立てるような、少しも寛容でない社会、その程度のことすら許せない社会は、人間が人間らしくいられる、最低限ギリギリ【良い塩梅】の生活環境をも、すでに逸脱しているように私には感じられます。

コロナ禍の足掛け4年を経て、年齢にかかわらず心を病んでしまう率が高まり、自殺者の数も、コロナ以前よりも「確実に増えている」理由に、あまりに不寛容な社会の空気! というのもありましょうね。

とはいうものの、昭和世代の「何事もイイ加減で、だらしがない」人間の、ジャスト典型な私は、令和のコンプライアンスの空気の中で生き長らえるべく、ジャニーズやら宝塚やら日大やらの粛清報道を他山の石とし、ひたすら懺悔、懺悔、懺悔……反省しっぱなしの日々を送っております。

ハイ? 何に懺悔してるのか? と。それは言えません。あまりに不謹慎きわまりない〝過去〟過ぎて、ここには記せませんが、

とにかく駄目な駄目な、どうしょうもなく駄目な私の〝過去〟です。私に関わった様々な皆さんに、はなはだ多大なご迷惑をかけ続けて来て、……今があります。

値打はあるか

この際ワタクシは、2023年の数え日(大晦日まで10日を切り、指で数えられる日々)に、阿久悠が作詞した、超有名かつ大ヒットした歌謡曲と共に、思いっきり懺悔させていただきましょう。

北原ミレイのデビュー曲『ざんげの値打ちもない』(昭和45年10月5日発売/作曲:村井邦彦/編曲:馬飼野俊一)です。

(※新旧の唄声比べ)

♪~あれは二月の 寒い夜 やっと十四に なった頃
窓にちらちら 雪が降り 部屋はひえびえ 暗かった
愛と云うのじゃ ないけれど
私は抱かれて みたかった

あれは五月の 雨の夜 今日で十五と 云う時に
安い指輪を 贈られて 花を一輪 かざられて
愛と云うのじゃ ないけれど
私は捧げて みたかった

あれは八月 暑い夜 すねて十九を 越えた頃
細いナイフを 光らせて にくい男を 待っていた
愛と云うのじゃ ないけれど
私は捨てられ つらかった

あれは何月 風の夜 とうに二十歳も 過ぎた頃
鉄の格子の 空を見て 月の姿が さみしくて
愛と云うのじゃ ないけれど
私は誰が ほしかった

そうしてこうして 暗い夜 年も忘れた 今日のこと
街にゆらゆら 灯りつき みんな祈りを するときに
ざんげの値打ちも ないけれど
私は話して みたかった~♪

久しぶりにこうして、すべての歌詞をキーボードで打ち込んでみて、いやぁ、改めて驚かされますが凄い歌詞ですね。それこそ今時のコンプライアンスでは、まず企画が通らないでしょう。

いや昭和45年当時でも、4番の歌詞……。レコーディングは済ませたものの、発売前に「待った!」がかかりました。レコード会社の幹部が、制作スタッフを呼んで「こりゃ、マズイだろ?」と。

まぁ、そりゃそうですよね。鉄の格子はイコール刑務所であり、3番の歌詞にある「にくい男を待っている」女が手に持つ「細いナイフ」は、決してリンゴを剥くため、なんかじゃなく、嗚呼、刺しちまったんだ、と。

致命傷だったか否かは「わからん」ながら、刑務所に収監された事実が、レコード購買者にわかってしまう。そりゃ「けしからん!」という訳です。

この曲の作詞をした頃、阿久悠は30歳。彼の出自は広告会社の企画マンで、すでにコピーライターや放送作家としてマスコミ業界で活躍していましたが、作詞家としては、まださほど著名でなかったこともあり、

おまけに彼の〝あの〟人相の悪さも手伝って「ざんげ……」の歌詞でしょ。音楽業界に、決して冗談ではなく、「阿久悠っていう野郎は、若い時分に人を刺して刑務所に入ってたらしいぜ」という噂流れたというんですね。阿久もまた、これを「あえて否定しなかった」と。広告屋の嗅覚として、「それも戦略だろう」と踏んだようなんですね。

ま、そういう〝裏〟事情も作用してか、『ざんげの値打ちもない』は、発売後たちまちオリコンのヒットチャートで、最高14位の大ヒットに育ちます。翌年には東映映画『ずべ公番長 ざんげの値打ちもない』(監督:山口和彦/出演:大信田礼子、渡瀬恒彦ほか)も公開されます。

それにしてもズベ公とは、嗚呼懐かしや(笑)! すぐに意味がお判りになる世代は、ギリギリ私たちぐらいまででしょうか?

映画の主題歌も北原ミレイが歌いましたが、可哀想なのは彼女です。〝これ〟がデビュー曲ですからね。

当時22歳。愛知県出身の彼女は、地元の高校を卒業後、プロ歌手を目指して上京し、ハマクラ先生こと作曲家の浜口庫之助の門下としてレッスンを重ねつつ、都内のナイトクラブで唄っているところを、スター歌手のおミズこと水原弘と、阿久悠に見出され、念願のデビューが決まったら、この歌詞内容ですよ~。

おまけに曲のイメージを守るため、阿久悠から「テレビ出演はもちろん、報道陣の前では絶対に笑うな!」とキツく命じられたそうで、後に彼女が、あちこちで語ってますが、「こんな曲を唄うために歌手になった訳じゃない! と、本気で泣くほど嫌だった時期があったのも事実」……だそうな。

今時の感覚でいえば、明らかに阿久悠を含めたレコード制作スタッフ全員、【かなり酷い】ハラスメント行為を彼女に働いた! ことになりましょう。

でも北原ミレイという歌手にとって、『ざんげ……』は、見事すぎるほどの看板ソングになりましたからね。

「今では阿久先生に感謝の気持ちで一杯です」と、数年前でしたか、BSの歌謡番組で、北原はしみじみと語っていました。

結局ジャニーズの問題も宝塚の問題も、現在、ビッグスターに成長した◯◯や△△にしてみりゃ、過去に「何か」があったにせよ、事務所や劇団に「育ててもらった感謝」の方が上回る訳で……、

北原ミレイも、もし『ざんげ……』がヒットしなくて、そのまま売れずに歌手を引退したとすれば、阿久悠の〝あの〟顔をテレビなどで眺めるたびに、猛烈に恨んだでしょうね。

それこそ、「細いナイフを光らせ」ながら。

おれの墓場は おいらがさがす

今年も皆さん、わが拙文にお付き合い下さいまして、ありがとうございます。大いに感謝いたします。

感謝ついでに、昭和37年、まさに私が生まれた年の、時期はちょうど今頃に発売されて、たちまちレコード枚数250万枚以上も売り上げた、畠山みどりの看板ソングの歌詞を載せておきましょう

『出世街道』(昭和37年12月20日発売/作詞:星野哲郎/作曲:市川昭介)

(※新旧唄声比べ。映像表記の発売年は間違いです^^;)

♪~やるぞみておれ 口にはださず
腹におさめた 一途な夢を
曲げてなるかよ くじけちゃならぬ
どうせこの世は 一ぽんどっこ

男のぞみを つらぬく時にゃ
敵は百万 こちらはひとり
なんの世間は こわくはないが
おれはあの娘の 涙がつらい

他人(ひと)に好かれて いい子になって
落ちて行くときゃ 独りじゃないか
おれの墓場は おいらがさがす
そうだその気で ゆこうじゃないか~♪

この歌が流行ったのは、ちょうど日本が高度経済成長の「波」に乗りかかった……季節ですね。でも、いつの時代も、上手く「波」を捉えられず、もがき苦しむ人たちはいます。畠山みどりの元には、特に全国各地で小さな工場を経営する社長から、来る日も来る日も直筆の手紙が届いたんだそうです。

従業員にまともな給料を払えず、女房子供は実家へ帰し、日夜、金策に励んでみても工場を維持できそうになく、いっそ電車に飛び込んで死んじまおう! と、……した時に、たまたまこの歌のメロディとともに、以下の歌詞、

男のぞみを つらぬく時にゃ
敵は百万 こちらはひとり

他人に好かれて いい子になって
落ちて行くときゃ 独りじゃないか
おれの墓場は おいらがさがす

を耳にすると、不思議と急にハッとなった、と。まるで憑き物が落ちたがごとく、再起するパワーが全身にみなぎって来た、と。

手紙の文面はどれこれも、似たような内容の感謝の言葉に溢れていたそうです。

畠山みどりは現在、84歳。まだまだ「お元気」な現役歌手ですが、ヒットに恵まれなくなって以降の彼女の生活を、この手の社長たちが「恩返し」とばかりに、こぞって支えているんですね。

翻って今年、あっちも懺悔、こっちも懺悔……、からの心機一転、事業の「立て直し」は、並大抵の労苦じゃないはずです。

でもね、「自分の墓場を自分で探す」心境にまで至ってないのであれば、なぁに、命まで取られることはないでしょう。

真っ当に真っ当に、それぞれが置かれた境遇で、立場で、やるべきことを、やるべき者が粛々と行う。

上記に挙げた関係者各位を含めて、……私も含めて、来る2024年が皆さんにとって、すこぶる「出世街道」になりますよう祈願しつつ、……良いお年をお迎え下さいませ。

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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