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Char

昭和歌謡_其の99

「場末町育ちのロック歌謡の貴公子!」

『気絶するほど悩ましい』
by Char

 

アンタの後ろにチャーがいる

前回のコラムで取り上げた『時代遅れのRock’n’Roll Band』の演奏と歌声。全員が同い年(67歳)の(かつての)人気ミュージシャンばかり! ……その中に、アノCharの名前を見つけた時に、私は冗談抜きで自宅のリビングで、「うひょー、チャーだ! チャーだ!」と一人、幼子のようにはしゃいでしまいました。

……と言ったって、私は彼の専門分野のロック音楽の魅力など、ほぼまるっきり語る資格なんざ、ありません。が、彼の顔立ちの美しさの魅力なら、オハズカシナガラ、軽く数時間は語れちゃうでしょう。

幼少時代から洋楽のロックに〝バリバリ〟に心酔したCharが、明らかに「不本意ながら」でしょうが、所詮、ガキどものファンがキャーキャー騒ぐだけの芸能アイドル軍勢に混じって、1人、ロック歌謡のシングル曲を、それも「確実に売れる!」POPS系流行歌を書かせたら、超が5つぐらい付くほど凄腕の阿久悠大先生が作曲した楽曲をひっさげ、さまざまな歌謡番組に出演した時の、彼のキャラ設定は、まさに「ロック界の貴公子!」でしたからね。……そうなんですよ、Charの風貌は、貴公子そのものです。

ちなみにCharの方は、お母様が福島県出身で、開校したての福島県立女子医学専門学校(後の福島県立医科大)を卒業した「眼科と耳鼻咽喉科のお医者さん」だそうですから、まぁ、育ちの良さは間違いないでしょう。

あれは……、私がまだ今のカミサンと付き合い出す前の出来事ですから、軽く30数年は時代を遡ることになりますが、その当時の彼女と2人で、武道館にライブを観に行ったのです。

それが誰のライブだったか? まったく想い出せないのですが、おぼろな記憶で彼女が「なかなか入手できない貴重なチケットが2枚、偶然にGETできた!」みたいなことを口にしたような……気がします。ジャンルはロック系で、ひょっとすると海外のミュージシャンだったかも?

私は、今さら言わずもがなでしょうが、日本の歌謡曲は、とりわけ昭和に限らず大好きですけれど、バリバリ、ガンガンなロック系の音楽は、ハードロックはもちろん、パンクもヘビメタも何もかも、……は、昔も今もどうもわざわざ聴こうという気になれず、このライブも、彼女が嫌味なほどネチネチと「せっかく私が手に入れたんだよ~!」、「アンタと一緒に行きたくて、手に入れたんだよ~!」とやかましいほどうるさくて、仕方なく付き合ってあげたに過ぎません。

ライブの開演は18時ぐらいだったと思いますが、その前に、軽く腹ごしらえをしておこう、ってことになりまして、武道館の周囲で、それらしき店をふらふら探し歩いたのですが、私たちと同様のことを考えている連中ばかりだったのか、店内はどこも超満員。……が一軒だけ蕎麦屋が、かろうじて2人がけの席が2つ、縦に並んで空いていました。椅子は背もたれのない真四角なタイプでした。

私はホッとして、べつに蕎麦がどうしても喰いたいわけでもなかったですけれど、2つの席の、入り口から遠い方に腰かけました。と、……しばらくすると、私たちの後ろの席にも、誰かが2人、腰かけた気配がありました。そして私の真後ろの客が、何故かグイグイ背中を押し付けて来るのです。

少しの間、私は気にしない振りして、その背中の感触を〝そのまま〟受け止めてましたが、そのうち真後ろの客がググーッと大きく伸びをしやがって(笑)、私の背中に当たる〝圧〟が、常識じゃ考えられないほど強く感じられた……わけです。

さすがに私はムカッ腹が立ち、わざと素早く背中を丸めるようにして前かがみになり、すると真後ろの客は、ややズッコケた仕草になるのを、実際に見たわけじゃありませんが、背中の気配で感じ、内心、吹き出しながら、前かがみの姿勢のまま、目の前の彼女に、
「ッたく失礼な客だよな! 俺の背中にグイグイ強く押し付けて来やがってさ」
言った途端、彼女の表情が、なぜかにわかに色めき立って、
「チャ、チャーだよ、チャー! アンタの後ろにチャーがいる!」
押し殺した声で私に告げながら、彼女の視線は、私を通り越して、その後ろに注がれています。
「え? え? チャーって、あのチャー!?」
彼女の興奮が私に乗り移りました。私は瞬間、どうしよう? どうしよう? 頭の中に幾つも???が浮かびました。何が「どうしよう?」か。……つまりは、この場で私がCharにいきなり挨拶し、「ファンです。握手して下さい!」と言おうか、どうしようか? 迷ってしまったわけです。
と、彼女はその私の異変を察したらしく、助け舟のつもりで小声で、
「トイレに行くふりをして、いったん席を離れて、遠くからチャーの顔、拝んだらどう?」
そうだ、そうしよう! 早速、私は彼女の助言に従い、席を立って、いったんトイレへ向かう振りだけして、途中でくるりと踵を返しました。
(嗚呼、正真正銘、ホンマもんのチャーだ!)
嬉しくなったのと同時に、先ほど、私の背中に自分の背中を強く押し付けて来られたことの不愉快さ、不快さなど、どこかへ綺麗サッパリ消えましてね。
代わりに、……むしろ、より長くCharの背中を、というより彼の体温を感じていたくなりまして。席に座り直すと、そーっと、そーっと、改めて私の方から背中をCharの背中に押し付けて行ったのです。
(嗚呼、今、まさにチャーの背中と俺の背中が、一体化している!)
馬鹿ですねぇ、本当に。書いているだけで、こっ恥ずかしさが募り、頬が赤らんで来ますが、当時、……まだ24歳でしたかね。その時の私は、時間にして30秒近く、Charの大きな背中から伝わってくる温もりを、私の貧弱な背中で目一杯受け止めておりました。
(もっと強く、チャーの背中を感じたい!)
そんな想いから、やや強めにグイッと背中を〝押し〟たんですね。……と、私の動きに合わせたかのように、Charの背中が急に離れてしまいましてね。
思わず後ろを振り向いたのと、Charが席を立ったのが、ほぼ同時。でも、うっかり目が合ってしまいまして。はずみに私が軽く会釈しました。それも、おそらくは気色の悪い薄笑みを浮かべていたことでしょう。
「ごめんなさい。だいぶ長いこと、あなたを背もたれ代わりに使っちゃいまして」
他ならぬCharが、優しげな口調と眼差しで、そう言ってくれたのです。
「い、いえ、こ、こちらこそ、スミマセン」
私が、猛烈にキョドりながら、ペコリと頭を下げると、Charは私と、斜め後ろにいる彼女の顔を、交互に見やってから、
「ごめんね。デートの邪魔しちゃったね」
ペロッと、Charは茶目っ気たっぷりな笑顔で、小さく舌を突き出しました。
うわぁ、まさに貴公子! 人たらし! この一連の、なんともウイットある仕草と台詞に、私はますますCharを好きになった……という次第です。

さて、ここから先は、少しは音楽の話をしなくちゃいけませんね^^;。

歌謡ロックというジャンル

音楽業界でCharの存在は、なんといっても、ギター演奏の超絶テクニックとともにありましょう。……でも、その辺りの話題は、私はほぼ無知ですので、ご興味ある皆さんは、ネットで検索なさって下さい。Charのロックミュージシャンとしての偉業に関して、膨大な数の情報が見つけられると思います。

以下は、彼の、あくまで「ロック歌謡」の歌手としての情報です。

昭和51年6月、『NAVY BLUE』という自分で書いた曲に、ヤマハのポプコン出身の天野滋が歌詞を付けた楽曲で、キャニオン・レコードからシングルレコードを発売しました。これがCharのソロ歌手デビュー! ってことになるのですが、まったく売れなかったようですね。

このセールスの結果を、Charおよび関係スタッフがどう感じたのか? は解りませんが、ちょうど1年後の昭和52年6月25日に発売、当時すでに超売れっ子のヒットメーカーとなっていた、作詞家の阿久悠が歌詞を書いた『気絶するほど悩ましい』(作曲:梅垣達志)は、オリコンの週間チャートで12位を獲得するほど売れました。

 

♪~鏡の中で 口紅をぬりながら
どんな嘘をついてやろうかと 考えるあなたは
気絶するほど悩ましい

ふり向きながら 唇をちょっと舐め
今日の私はとてもさびしいと 目を伏せるあなたは
気絶するほど悩ましい

ああ まただまされると思いながら
ぼくはどんどん堕ちて行く

うまく行く恋なんて 恋じゃない
うまくいく恋なんて 恋じゃない~♪

これに味を占めたのか? 続く3枚めのシングル『逆光線』(昭和52年12月10日発売)も阿久悠が歌詞を書き、Char自身が曲を付けて発売。これも売れてオリコンチャートの23位をGET! さらに翌年の昭和53年3月25日に発売された4枚めのシングル『闘牛士』も、同じく作詞:阿久悠/作曲:Charのコンビでヒットを飛ばしたのです。

 

 

この『気絶するほど悩ましい』『逆光線』『闘牛士』と流れていく3部作の「ロック歌謡」の楽曲がヒットしてくれたからこそ、Charの名前が、バリバリのロック音楽マニア以外の、……まぁ、つまりは私のような歌謡曲ファンにも知れ渡ることになりましょう。

当時の、特に幼少時代から洋楽の〝本場の〟ロックに洗脳、感化された世代のミュージシャンたちの大半は、判で押したがごとく日本の〝ダサい〟流行歌=歌謡曲なんざ、「あんなモン、音楽じゃねぇ!」とばかりに、頭から毛嫌い、愚弄していました。

そんな中で、ほぼ同時期に、Charより2つだけ兄貴分の桑名正博(※彼が率いるバンド「ファニー・カンパニー」通称ファニ・カンは、すでに関西ロックの音楽シーンにおいて、超著名な存在でした)が、バンドが解散され……、

ソロ歌手として、バリバリのロックンロールの楽曲ではなく、親しい音楽仲間が誰しも「冗談じゃねぇ!」と唾棄したはず! の歌謡POPS=ロック歌謡ジャンルの歌手として、作詞:松本隆&作曲:筒美京平という、このコラムでも何度も取り上げた、ぶっちぎりの売れっ子クリエーターご両人の作品『哀愁トゥナイト』で、ロックを知らないお茶の間の老若男女にも、桑名の、これまたCharにひけをとらぬ端正な顔立ちが知られておりました。まさにCharが生粋の東京者(モン)の貴公子ならば、桑名は生粋の大阪者(モン)の貴公子でありました。

 

Charは、勝手な推測ですが、この桑名の活躍を横目に、自分の現在、そして未来の〝立ち位置〟を思い描いたんじゃないでしょうか。ネットでChar関連のデータを探ると、当時の彼の発言として、「好きなロックで世に出ることは、日本の音楽の現状では難しいと考えていたので、ロック歌謡の曲でソロ歌手デビューすることは、決して嫌ではなかった。むしろ、その方向で自分の存在を広く知らしめたいと考えた」……という印象だったようですね。

ま、Charの本音はともかく、

私が初めてテレビ画面で彼の、その貴公子然とした端正な顔立ちと、彼特有の、実にふわっと滑らかに高音域へ跳ね上がる、エロスをも感じさせるほどの魅惑の歌声に接したのは、まだ14歳、中学3年生だったと記憶しています。

TBS系列で夕方から生放送される「ぎんざNOW!」という、せんだみつおが司会する月曜~金曜のバラエティ番組がありまして、人気コーナーの「しろうとコメディアン道場」には、関根勤や小堺一機、竹中直人ほか、のちに超売れっ子の芸人や俳優になる皆さんが出場してましたし、〝あの〟矢沢永吉も、ソロ・デビューする前のロックバンド「キャロル」として番組に出演し、生演奏を披露しています。

Charも、番組で生演奏する大勢のミュージシャンの1人でした。私が学校から帰って来て、毎日の習慣でテレビのスイッチを入れて「ぎんざNOW!」を観ると、たまたまその日にCharが出演してくれましてね。『気絶するほど悩ましい』(だったと思いますが)を熱唱したのです。たちまち私は、彼の気品あふれる顔立ちと歌声に魅了され、ファンになりました。

この時にですね、Charと一緒に番組出演し、彼のバックでドラムを叩いていたのが、辻野リューベンという、これまた実に実に愛くるしい顔立ちの美少年! ほどなくリューベン&カンパニーというバンドを組んでデビューしましたが、楽曲ジャンルとすると、本格的なロックサウンドというよりは、Charのソロデビューと同じくロック歌謡でしたね。その後、数年も経たないうちにリューベンの名前を聽かなくなりました。今も彼はミュージシャンとして、どこかで何かの形で活躍しているのでしょうか?

戸越銀座の貴公子

つい最近、私はネットでCharが書いたエッセイを〝拾い〟ました。

ミュージシャンの書く文章って、どうして皆さん、こうも達者なのでしょう。ジャズピアニストの山下洋輔しかり、ピアニストの中村晃子しかり、坂本龍一しかり……。マニアックな御仁ですと、近田春夫という存在もご存知でしょう。近田が長年、週刊誌に連載している音楽コラムは、かなり毒もあり、ユーモアもあり、業界関係者からも注目される読み物です。

近田に負けず劣らず、流暢な筆さばきのCharのエッセイによると、冒頭に記した彼のお母様が眼科&耳鼻咽喉科を開業したのは、品川区の戸越銀座だそうで、その場所は彼の実家でもありますから、Char自身、戸越銀座で生まれ育ったことになります。

ご存知のない方に補足説明しますと、戸越銀座は品川区にありまして、わが故郷の蒲田とはまた町の景色がちょいと異なりますが、いわゆる場末の味わいが色濃い住宅地。加えて活気のある商店街の賑わいが、わが故郷の蒲田に隣接する梅屋敷商店街とともに、昔も今も有名……なんですがね。

Charが戸越銀座出身と知って、私は武道館近くの蕎麦屋で、背中合わせの関係になってしまった以上に、胸がときめいてしまいました。

理由は? 私の両親が二人とも、戸越銀座からほど近い大井町に生まれ育ったという事実。加えて私が今、入試の小論文など文章指導をしているちっぽけな塾が、戸越銀座の、ざっくりと隣町にあるという事実。……えっ、それだけ? ハイ、それだけです(笑)。

たったそれだけのことなんですが、私の勝手な妄想として、かつてウン十年前に背中に感じた温もりとともに、「嗚呼、俺はCharと通じている!」と感じられるのです。ストーカーの心理と似て非なる感覚、いや、ストーカーそのもの! かもしれませんが^^;。

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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