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健康寿命に歯は命

連載の31

「使える入れ歯」が健康寿命を延ばす

逼迫する医療費

人生100年時代」という言葉がよく使われるようになってきました。実際に日本人の平均寿命は伸び続けており、女性の平均寿命は84.17歳(2016年)となっています。

政府では、2007年に日本で生まれた子供については、107歳まで生きる確率が50%もあるとする研究結果などを踏まえて「人生100年時代構想会議」を立ち上げて、超長寿社会に対応できる政策のグランドデザインを検討しています(人生100年時代構想会議)。

この背景にあるのは、高齢者に使われる社会保障費の増大と、少子化による財源の縮小にほかなりません。

2017年の国民医療費は43兆710億円で、そのうち65歳以上の高齢者にかかった医療費は25兆9515億円と全体の60.3%を占めています。平均寿命が延びればそれだけ高齢者人口は増えるので、医療費もその分増加します。

一方、出生率の低下で少子化は定着し、年金や医療費など社会保障費を負担する現役世代は一向に増えません。そこで、元気なお年寄りに働いてもらおうというのが、人生100年時代構想会議の本音です。

働くかどうかは別としても、高齢になっても健康でいたいというのは万人の願いです。しかし、下図で示すように平均寿命と健康寿命には男性が約9年、女性が約12年のギャップがあります。健康寿命とはWHO(世界保健機関)が提唱した指標で、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間です。この「寝たきりや認知症など介護状態の期間」は、「不健康期間」とも呼ばれています。平均寿命は延びていますが不健康期間は縮まってはいないのが実情です。この不健康期間が、国民医療費の6割を使っている原因となっています。

「自分の口で食べる」ことが健康寿命の第一歩

歯も歯ぐきも老化します。個人差はありますが、年齢が上がるほど平均喪失歯は増えてゆきます(下図参照)。しかし、歯は失っても入れ歯などで補うことが可能です。歯の老化は個人差が大きいので、比較的若いうちから歯を失ってしまう人もいれば、いくつになっても自分の歯が多いという人もいます。仮に歯を失ってしまっても、“使える入れ歯”を装着すれば、噛む能力に遜色はほとんどありません。

高齢になっても健康でいるための基本は、「自分の口で食べる」ことです。栄養補給だけならばほかの手段でも可能ですが、よく噛んで自分の口で食べる栄養摂取にはかないません。美味しいものを楽しく食べることは、精神的にも良い効果がありますし、なんといっても老後の大きな楽しみのひとつでもあります。

寝たきりだった93歳の高齢者が、入れ歯を入れて「自分の口で食べる」ようになったことで、栄養状態が改善されるとともに体力がつき、やがて歩けるようになり、介護認定も4から2になった例もあります。「自分の口で食べる」効果はとても大きいのです。

また、よく噛むことで脳が活性化され、認知症の予防になるとも報告されています。

筆者の歯科医院でも、重度のめまいで介護が必要だった80代の女性が、使える入れ歯に変えたところ、めまいが消失し、介護なしにひとりで出歩けるようになった例や、頭痛、偏頭痛、肩こり、手足の冷えなどの軽減、なかには薬を飲んでいても高かった血圧が正常範囲まで下がった人もいました。

いずれにしても、“使える入れ歯”を手に入れた人は食事へのストレスが減り、旅行に行けるようになったとか、集まりに出かけるようになったなど、生活自体が前向きで活動的になり、表情も明るくなります。「自分の口で食べる」ことは、間違いなく健康寿命の質の向上につながっています。

ただし、“使える入れ歯”を手に入れることは、大変難しい状況であるのも事実で、入れ歯治療に自信を持って取り組んでいる歯科医や歯科技工士は、残念ながら少数派です。

“使える入れ歯”を手に入れるポイントは、労力を惜しまず歯科医院を訪れ、よく説明を聞くこと。さらに、自ら入れ歯を使っている歯科医師ならば、より一層、患者さんの身になった治療を行っていることでしょう。

筆者自身、できるだけ自分の歯を残したいと思いつつも喪失歯があり、現在は部分入れ歯を使い何不自由なく自分の口で食べています。しかし、将来的には加齢とともに失う歯が増えるであろうことは、自然の摂理と受け入れています。

健康寿命を延ばすには、自分の歯を残すことも大切ですが、それ以上に失った歯を補う〝使える入れ歯〟でいつまでも「自分の口で食べる」ことが重要なのです。

 

 

歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
林晋哉の新刊

林歯科
〒 102-0093 千代田区平河町1-5-4 平河町154ビル3F
https://www.exajp.com/hayashi/

 

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