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いろはのい

きもの事始め 其の壱

きもの通と錯覚してもらうために

〝きもの〟と〝おきもの〟

結城紬の縞屋(地域問屋)の老舗「奥順」の奥沢社長によると、現在の日本のきものには、着る物の〝きもの〟と、滅多に着ることがなくタンスに置きっ放しの〝おきもの〟があるという。

前者の〝きもの〟は、観劇や食事、買物の時のカジュアルなお洒落着としての普段使いのきもの、これには結城紬や大島紬などを始めとする紬類や、夏場では麻の上布や縮類がこれに当たる。

後者の〝おきもの〟は正式な場である結婚式や披露宴、式典などにフォーマルウェアーとして着用する男性の紋付袴や女性の振袖、留袖、訪問着などがこれに当たる。

浴衣を除いて、一般に〝きもの〟といえば、後者の〝おきもの〟のイメージが強いのではないだろうか。

特に男性の場合、七五三か成人式もしくは結婚式でその機会がある程度で、これとて洋服であることも多い。
もっとも、昨今の成人式で見かけるチンドン屋みたいな紋付袴姿なら、洋服をお召しいただいた方がいくらかよろしい。

とまれ、特殊な職業か、もしくは余程のパーティー好きでもない限り、人生のうちでタキシードなぞ何回着るだろうか。

普段使いのお洒落着である〝きもの〟を推奨する「麻布御簞笥町倶樂部」では結婚式・披露宴、式典、葬儀はブラックスーツを着用し、どうしても〝おきもの〟を着たい場合は、レンタルで十分だと申し上げる。

まずは段階を経ていこうではないか、兎にも角にも普段着から始めることが肝心である。

洋服にしてから、毎日仕事でスーツやジャケット、オフにカジュアルを着こなしていても、タキシードやモーニングを着こなすことは難しく、ウェイターに間違えられるのがオチである。

ましてや、きものにおいては如何やである。

くつろぐための自宅きもの

そこでまずお勧めしたいのが、自宅でのきものである。

外出着の前に、まず部屋着としてきもの生活を始めてほしい。

勤めから戻って家庭ではジャージがわりに着てしまうのである。

〝和装礼賛〟で紹介している浅田次郎の文章のように、楽チンこの上ない。

ちょっと油断すると体型が一層崩れてしまうほどである。

素材は、〝ウール〟〝木綿〟〝ネル〟の既成きもので十分であるし、最近は〝デニム〟製というのもある。

これらの利点は、何より家庭の洗濯機でガンガン洗えるということにある。

しかも、ネット通販やデパートのきもの売り場で求めても、長着とポリエステルの角帯もしくは兵児帯あたりで3万円も出せば十分に揃えられる。とりあえず長襦袢は必要ないので、下着はステテコと綿の半襦袢、なければTシャツで構わない。

これらをジャージ同様ボロボロになる程、着倒していただきたい。

やがて部屋着のきものがボロボロになる頃、あなたの着こなしは、いっぱしの〝きもの通〟として完成されている。

どんなに高価な〝きもの〟でも、洋服同様、所詮は衣服であり〝着る物〟なのである。着た数に勝るものはない。

女性の着付けと違い、男のきものに技術は全く必要ない。ただただ馴れてしまうことである。

断言しても良いが、どんなに良質の〝きもの〟であっても、あなたが初めてきものを着て外出するならば、絶対にサマにはならない。

車の免許を取って、初めて乗る車がフェラーリだというのに近いかもしれない。

さて 〝部屋着きもの〟を克服したら_親爺よ、街に出よう

編緝子_秋山徹