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森昌子

昭和歌謡_其の五十六

はたして恐怖は、本当に欲望を制せるか!?

『春の岬』

性地巡礼

死ぬ以外 かすり傷だが
かすりキスにて 虫の息

5月のなかば頃でしたかね、最近、流行り言葉のようになっている「夜の街」にある、いくつかの店が、自粛期間中でありながら闇営業している、……という報道に因んで、ある風刺漫画家がネットに「作品」をアップしていました。

その「作品」の下に、キャプション代わりに載せてあったのが、上記の、じつに目にも耳に心地良いリズムの、見事に韻まで踏んだ日本語の24文字でしてね。私は読んだ瞬間、「うめぇこと言いやがる!!」と、結構な声で独りごちてしまいました。ふむ、こりゃ上手い!! と。

超売れっ子の芸人が、六本木ヒルズの駐車場にある「多目的トイレ」にて、もはや不倫とは言い難い、〝たった15分足らず〟の性衝動の放出!! を繰り返してきた、……んですってね。

たとえ自嘲交じりでも、「ヤリ盛り」「ハメ盛り」を仲間内に誇れるのは、十代のニキビ面したガキンチョか、良くて20代なかばまで。渡部は現在、47歳だそうじゃないですか。

そんなエレェー歳をこいてネ、かつ【あれだけ】の美人タレント(女優)を妻にしてネ、【あれだけ】の、本人がメイン司会の番組を、それもNHKから地方局まで、ずらずら~っと並びまくらせておいてネ、

よりによって「多目的トイレ」でピュッピュと栗臭い汁を飛ばしまくるこたぁ、ねぇんじゃないの!? と、仮にも官能作家・花園乱としましては、ですよ、その手の原稿を書きまくっていた当時を思い出しつつ、呆れているのですがね。

そりゃ、今時の感覚じゃあ、〝事件現場〟の「多目的トイレ」は、野次馬で〝3密〟状態になりますよね。私のカミさんが、TVのワイドショーを眺めつつ、私以上に呆れた顔で「これは聖地巡礼ならぬ、性地巡礼ね!!」と、うめぇことをヌカしましたが、皆さん同じ感覚を得たようで、スポーツ新聞の大見出しにも、TVのワイドショーのサブタイトルにも、『性地巡礼』が使われました。

「私ら家族は、昔っからあのトイレ、便利だからちょくちょく使ってましたけど、そこで、あんな不潔なことされたら、もう気色悪くて、使う気になりません」

とかなんとか、レポーターの取材を受けて、幾人もが【そう】答えています。──でも、不潔なのは渡部にとっても同じ感覚だったはずであって、

コロナ感染の恐怖、それも六本木ヒルズのような、不特定多数の観光客やら買い物客やらの老若男女が、世界中からドドドと群がってくるような、……感染リスクの超超高い!! エリアにある「多目的トイレ」を、いくらオノレの欲望のためとはいえ、そんな不潔きわまりない!! 出入りのドアにも床にも壁にも、便器にも便座にも排水のコックにも、ウイルス飛沫がひっ付きまくっているだろう場所で、よくもまぁ、脳天気に愚息がエレクトするもんだ、と、……、意外に潔癖症である私なんぞは、非肉抜きに感心しまくっています。

人間の業の肯定を、落語という大衆話芸の〝肝〟に据えていた、かの立川談志が、生前の高座で、ちょくちょく以下のごとく、明言していましたがね。

「業の肯定とは言うもののだ、オノレの欲望が、どれほど身勝手で破廉恥(はれんち)で衝動的であろうが、いざ背筋も凍る恐怖、命と引換えなほどの恐怖を前にすりゃあ、さすがに欲望は引っ込むぜ。つまり、欲望を制させるにゃあ、恐怖を与えりゃいいんだ!!」

ふうむ、渡部……、コロナは少しも怖くなかったか!? それとも、恐怖は十分すぎるほど感じていつつも、欲望を制せない。つまりは病気、それもすでに末期状態!! あるいは正真正銘のキ×ガイってことかしら?

それにしても現状、今この原稿を書いている【今】現在、日本全国の熱愛中のカップルは、どんなSEXに興じているのでしょう? いや、プレイの内容なんぞにゃあ、興味がないのです。そうではなくて、3密必至、濃厚接触以外のナニモノでもない性の営み、まぐわいを、皆さん、どう処しているのか? それが知りたいのです。

同じ部屋に同居している夫婦や、同棲中の恋人は別にして、──いや、毎日、顔を突き合わせている夫婦や恋人同士だって、100%「コイツが安全かどうか?」なんて、自室にウイルス検査キットでも常備していない限り、誰にも保証できないわけ、……でしょ?

ましてや、週末だけ一緒に過ごす2人、月に数回だけ一緒に過ごす2人、遠距離恋愛の2人……。ある程度の時間的隔たりを設けて、いざ恋人に会った際、数ヶ月前までは「ごく当然のこと」「当たり前のこと」として興じて来た、「愛しい人の体を抱き」「舌ベロンチョと絡める濃厚なキス」をし、「互いの性器を舐め合い、しゃぶり合う」などの行為を、心の底から「したくってしょうがない!!」と感じられるものでしょうか?

行為の最中、お互いの欲望を奔放にブチマケ終えるまで、ほんの僅かも、ほんのちょびっとも、コロナウイルスの感染の恐怖を、生理感覚によぎらせることは、ないのでしょうか?

巷のどこかに、「最愛の女のお前とまぐわい、結果、お前からコロナウイルスを移されたとしても、それはそれで本望だ!!」と公言して憚(はばか)らない猛者は、はたして実在するのでしょうか?

死ぬ以外 かすり傷だが かすりキスにて 虫の息

♪~風邪をひいてる 私をだいて
ぼくにうつせと 唇よせる~♪

私が中学を卒業する時分でしょうかね、こんな唄い出しの歌謡曲が、〝ちょこっと〟流行りました。タイトルは『春の岬』(1977年12月1日発売/作詞:杉紀彦)。歌唱は、19歳になったばかりの森昌子。編曲を担当した竜崎孝路の腕も光り、演歌歌手である彼女の楽曲のわりに、前奏から意外なほどアップテンポでしてね。それに応える風に、都はるみの生みの親、市川昭介が紡いだメロディも、じつに小洒落た青春ポップスに仕上がっています。

♪~風邪をひいてる 私をだいて
ぼくにうつせと 唇よせる
ああ… 夕焼けの岬には
かもめと私とあなただけ
別れるんじゃないわ 夢があるから
あなたは あなたは街へ行く
若さがわるい 若さがわるい
波に青春 くだけそう~♪

森昌子自身、かなりのお気に入りだったようで、ライブのオープニングを『春の岬』からスタートさせることも「かつては多かった」と、ネットの音楽情報に記されています。

問題は、この歌詞の冒頭です。いやぁ、もちろん私だって解りますよ~。大好きなキミが、風邪に苦しんでウンウン唸っている。その姿が可哀想でたまらなくなり、「咳も鼻水も熱も、キスと一緒に俺に移しちまって、お前は早く楽になれよ」などと口走ってキミの唇を奪った、……という、作詞家・杉紀彦センセイ(※菅原洋一&シルヴィア歌唱のデュエットソング『アマン』ほか、ビッグ・ヒットも多数!!)流の愛情描写だということも。

でもネ、冗談でも【こういう】台詞を平気で吐ける野郎は、たいがいが軽佻浮薄、気分が変わりゃあ、同じく平気で【風邪を移させてまで愛した】キミを置き去りにし、「自分の夢を追いかけたくなった」とかナントカ、愚にもつかぬ戯言をほざいて、ある日、突然いなくなっちまう、……と相場が決まっております。

残されたキミは、♪~若さがわるい 若さがわるい~♪ と、こちらも愚にもつかぬ戯言をつぶやいて、泣きじゃくるしかない!! んですね。

いやいや、私が問題にしたいのは、正直そのことじゃあなくて、……ですね。この楽曲が、ちょくちょくTVの歌謡番組やら、地元の商店街の有線放送などで流されるようになった頃、私は衛生観念的に、野暮を承知で「ウエッ、俺はまっぴらゴメンだい!!」と、冗談抜きに、それも、かなり強烈に感じたものです。

同時に、残念ながらか? 当然ながらか? まだ、ベロチューどころか、軽くほっぺにチュッ、の経験もない、童貞も童貞のセンズリ小僧だったからこそ、

「どんな風にキスを交わすと、風邪が移るのか?」
「ほんのちょっと唇と唇を重ねただけでも、移るのか?」

馬鹿馬鹿しくも真剣に悩んだものでした。その数ヶ月後、某新聞の朝刊に、次のようなコラムが載ったのです。投稿者は、都内に住む30代の看護婦、……だったと記憶していますが。

「少し前に、森昌子さんが発売したシングル曲の『春の岬』ですが、メロディはとても素敵なのに、歌詞に出てくる主人公の【僕】は、いくら恋人を愛するとはいえ、相手が風邪を引いているのを承知で、キスをせがむなんて言語道断、不衛生きわまりないです。たかが風邪と思われましょうが、されど風邪。いつ何時、症状が悪化して重篤な肺炎に移行することもあるのだと、作詞をする方も、よく理解していただきたいです」

世の中には、私以上に野暮天もいたもんですね。それも、1人や2人じゃない!! このコラムは、すぐに、今で喩えるならネット拡散、〝炎上〟したようでしてね。嘘かホントか知りませんが、森昌子は、ことNHKの歌謡番組において、『春の岬』の歌唱を自粛させられたんですって。

あれから40年以上の月日が流れました。私自身、森昌子という歌手に、さほど興味がないにも関わらず、やけに『春の岬』の歌詞の冒頭のフレーズだけが、しっかりと自意識に絡みつき、消えることがありません。

数ヶ月前から日本人は、いや全世界中の人類は、コロナウイルスの感染の恐怖という、共通の根深いトラウマをかかえ、外出時は常時マスク着用、他者との3密接触を避けたソーシャルディスタンス。帰宅時は手洗いとうがいと、携行備品の消毒を怠らない!! とする新しい生活様式が、なかば義務化された印象が強いですね。

そんな【コロナ新時代】ともいうべき渦中で、まさか流行歌の歌詞にすることは憚られましょうが、どこぞの熱愛中のカップルの行動として、

♪~コロナに感染(かか)った 私をだいて
ぼくにうつせと 唇よせる~♪

そんなクレイジーなYOU-TUBE動画が、出来りゃあ実況中継が、巷に1つぐらい存在しても、今時おかしくないんじゃないか? と、冗談抜きで、そう妄想する、梅雨寒の今日此頃であります。

死ぬ以外 かすり傷だが
かすりキスにて 虫の息

末尾ながら、皆さん──、くれぐれも欲望に負けませぬよう、それも【臍(へそ)から下】の欲望に負けませぬよう、心より祈念いたします。

 

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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