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小林亜星 その弐

昭和歌謡_其の七十八

追悼・小林亜星(令和3年5月30日逝去/享年88)──後篇

北の宿から/極(きわみ)ベスト50
都はるみ

ふりむかないで/ムード歌謡スーパーベスト
ハニーナイツ

 

「歌謡曲の作曲家」の顔

今回も、先ごろ88歳で亡くなった、作曲家・小林亜星の追悼をさせていただきます。

昭和のど真ん中、民放TV局の開局ラッシュに伴い、ベラボーな数のコマソン(CMソング)を創作し続けてきた亜星ですが、……はて、このコラムのテーマ、 歌謡曲の作曲家としては、どんな活躍だったか?

データを眺め渡しますと、他の著名ヒットメーカーに比べて、さほどの数の楽曲を遺しておりません。

いや、ハッキリ言って、先に冥界へ旅立った、平尾昌晃や筒美京平の両先生と比べてしまうと、亜星先生が可哀想なほど、いわゆる流行歌の【代表作】は少ないです。

つーか、おそらく皆さんが「あー、アレね!!」とすぐにお判りになる〝大ヒッ ト曲〟は、都はるみが歌唱した『北の宿から』(昭和50年12月1日発売/作詞: 阿久悠)だけ、……でしょう。

♪~あなた 変わりはないですか
日毎寒さが つのります
着てはもらえぬ セーターを
寒さこらえて 編んでます
女心の 未練でしょう
あなた恋しい 北の宿~♪

事実は【そう】なのですが、いやぁ、この楽曲は、バカが付くほど当たりました!! レコード売上の累計が140万枚超えの、立派過ぎるミリオン大ヒット。

その年の暮れの、各種「歌謡賞」レースも、すべてが金賞受賞。楽曲のみならず、都はるみが最優秀歌唱賞に輝きもしました。

・第18回日本レコード大賞・大賞
・第7回日本歌謡大賞・大賞
・第9回日本有線大賞・大賞
・第9回全日本有線放送大賞・大賞
・第9回日本作詩大賞・大賞
・第5回FNS歌謡祭・グランプリ&最優秀歌唱賞

まぁ、これだけ楽曲がお茶の間に浸透すれば、失敬な話、「小林亜星は、歌謡曲の作曲家とすりゃ、一発屋だ!!」ってな、やっかみ絡みの悪口も、みごと太っ腹(実際にかなりの肥満でしたが)の亜星先生にとっちゃ、屁でもなかったんじゃなかろうか? と、私は勝手にそう感じていましたけれど。

事実か否かはわかりませんけれど、亜星は【ああ】見えて、メチャメチャ気性が短気で怒りっぽかったそうで、本人と縁もゆかりもない私が、こんなところでイイ加減なことを書き散らしているのを、向こう岸で聴きおよび、

「てめぇ、このハゲ!! 誰が一発屋だ? 俺様はコマソンの帝王だったんだぞ?  俺が創った曲がバカ当たりしたからこそ、レナウンだって積水ハウスだって、 でっけぇ企業に成り上がったんじゃねぇか?」

などと、東京生まれらしきベランメェ口調で、吠えまくっているかも? しれません。スミマセン。謝りついでに、亜星先生、のちほど私は、他にも2曲!!  れっきとした歌謡曲の(私が信じる)名曲を、ご紹介しますから、許して下さいな。

さて『北の宿から』ですが、当時、歌手の淡谷のり子〝大先生〟が、この歌詞 を「あたし、貧乏クサくって、だいっ嫌い!! 辛気クサくって、だいっ嫌い!!」 と、テレビ番組に出演するたびに、平気で公言していましたね。

「着てはもらえぬセーターを、なぁ~んで編まなきゃいけないのよ? この歌の女、バッカじゃないの」

お馴染みの青森弁丸出しで、眉間にシワまで寄せて淡谷先生が訴えるのを、ブラウン管を通して何度も聴かされるうちに、私も、すっかり「その通りだ!!」と 感じるようになりました。

当然、作詞を書いた阿久悠の耳にも、この話が入りましょうね。

だから【あえて】行ったことなのか? 阿久は何かの雑誌に、『北の宿から』 の作詞秘話と題して、コラムを書いたのですが、

その内容が、かえって火に油を注ぐと言いますか、恥の上塗りと言いますか、 当時すでに〝巨匠の〟と形容詞が付くほど、音楽業界でブイブイいわせていたは ずの彼が、放っておきゃあいいのに、淡谷先生への言い訳にすらなっていない、 愚にもつかぬ文章を発表したのです。

「私はこの歌詞に、現代に生きる女の、自立した姿を描いたつもりだ。着てはも らえぬことが解っていても、『私はセーターを編みたい』という、強い意志を持つ女の姿を」

どこをどう曲解すれば、この歌詞を【そう】解釈出来るでしょうか? よほど の文芸評論家でもなければ、少なくとも全国のお茶の間の歌謡ファンは、この楽曲が巷のあちこちで流されまくっていた当時、誰一人として、阿久悠の屁理屈に 納得しなかったはずです。もちろん私も。

じつは小林亜星も、歌詞を受け取った当初、一般大衆と同じ気持ちになり、阿久悠ともあろう作詞家が――、淡谷先生同様、基本的には「演歌は書きたくない!!」と言い張っていた作詞家が――、自分を捨て去った男への未練たっぷりの、 ある意味「陳腐な演歌」となじられても、仕方ない歌詞を書いたことに、内心、 大いなる疑問を感じていたそうです。

特に2番の歌詞に出てくる ♪~あなた死んでもいいですか~♪ に触れ、 「おっかねぇ女だなぁ。こんな歌、俺がどんなメロディを工夫したって、売れりゃあしないだろうな」と。

でも、歌詞を持って帰って、サビのメロディを創ろうとし、改めて歌詞をじっくり読んでみて、亜星はギョッとしたそうです。

ずっと【女心の未練でしょうか】と、疑問形で描かれていると、勝手に思い込んでいたものの、あらら?【か】が無い!! 【でしょう】と肯定しているわけ ですね。

つまり、歌の主人公の女は、自分でちゃんと【未練だ】と解り、【着てももらえぬ】ことも解り、――すべて承知の上で、「でも、あえて、やっている!!」

これこそが、阿久の言う【現代を生きる女の自立】なのか!? と悟り、「背筋がゾッとしたよ」と。同時に、「こんな、おっかねぇ歌、これまで誰も流行歌として創らなかったから、こりゃ売れるぞ!! 大ヒットするぞ!!」と予感したんですって。

ふうむ、話が深いような、浅いような(笑)、……私の評価は、昔も今も、淡谷先生と一緒、変わりませんけれどね。

コマソンの帝王の歌謡曲

さて、お次は約束通り、私だけが「昭和歌謡の名曲である!!」と信じて疑わな い、小林亜星の作曲作品を2つ続けて、ご紹介します。

1つは、『北の宿から』同様、都はるみが歌唱した『東京セレナーデ』(昭和 57年発売/作詞:たかたかし)です。

残念なことに、さして売れませんでした。……が、カラオケファンの間では、令和の現在でも、結構、人気の楽曲です。メロディの進行的に、誰もが唄いやすいんですね。

亜星は、はるみに書いた両方の楽曲について、彼女がレコーディングする際、 1つだけ指示を出しました。

「僕がはるみチャンに書いたメロディは、あえてジャズ的なアレンジに仕上げた ので、得意のアノ【こぶし】は絶対に回さないように。スキャットする感じで、 軽く唄ってちょうだい」

この逸話は、じつは私も知らなくて、亜星の死後に放映された追悼特集の中 で、生前に彼が出演していた番組にて、彼みずから「ヒットの秘訣」と称して披露してくれたものです。

『北の宿から』の時は、はるみも、その歌唱法に戸惑いを感じた印象が強いで すが、7年後に発表された『東京セレナーデ』は、確かに、都はるみの全曲集の 中で異質なほど、【こぶし】を回さず、軽~く唄っています。それがジャズっぽいかどうか? は、聴く人の感性にお任せしましょう。

♪~夜霧が流れる 狸穴(まみあな)あたり
咲く夢 散る花 拾う恋

(中略)

昨夜別れた あの人と
どこか違う 爪あとがしみる

捨てた煙草を ヒールの底で
踏めば砕ける

虹もはかない 虹もはかない
東京セレナーデ~♪

今回のラストソングは、ムード歌謡のコーラスグループである、ハニー・ナイ ツが歌唱した『ふりむかないで』(昭和47年発売/作詞:池田友彦)。

この楽曲は、歌謡曲として知らなくても、昭和のど真ん中世代の皆さんにとっ て、エメロン「クリームリンス」の、TVCMで使われた曲だといえば、 「あー、アレね!!」となりましょう。

後ろ姿だけしか【わからない】若い女性を追いかけて行き、ポンポンと肩を叩 き、「何かしら?」と振り向いた顔が、美人だと「大当たり!!」で、ブスだとすぐに「ごめんなさい」と告げる。……今時のコンプライアンスでは、明らかに放送 禁止、いや、企画すら通らないはずです。昭和は良い時代でした。

CM自体は昭和45年に制作されましたが、あまりに全国のお茶の間で話題にな り、〝ぢゃんとした〟歌謡曲として、6番までの歌詞を、シングルレコードに収録しました。

1番の歌詞で東京を描いたあと、2番から順に、登場する地名が【北→南】へ と下がっていく……。ご当地ソングの形式を取っていまして、実は72番までの歌詞が存在し、レコーディングも済ませたのだとか。

やはり餅屋は餅屋。コマソンの帝王こと小林亜星は、こういう趣旨の楽曲だ と、やたら〝乗る〟んですね。

以下、1番&2番の歌詞と、めったに紹介されることがないはずの、72番の歌詞を、載せておきます。you-tubeの音源に合わせ、よろしければ、皆さんも追悼がわりに歌唱なさって下さい。冥界で、〝デブっちょ〟先生も喜びます から。

♪~泣いているのか 笑っているのか
うしろ姿の すてきなあなた
ついてゆきたい あなたのあとを
ふりむかないで 東京の人

ポプラ並木に ちらつく雪が
あなたの足を いそがせるのか
しばれる道が 気にかかるのか
待って欲しいな 札幌の人~♪

誰が唄うか 安里屋(まさどや)ユンタ
灯ともし頃の つぼ屋町
仏桑花(ぶっそうげ)に似た すてきなあなた
恋してみたいな 那覇の人~♪

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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