1. HOME
  2. ブログ
  3. 平成30年
  4. 放送禁止歌というふもの

放送禁止歌というふもの

昭和歌謡_其の十二

唄わせない公共放送

放送禁止歌

前回、お色気歌謡について書かせていただきました。
ご紹介した楽曲の中に、「NHKでは、まともに唄えない」作品がいくつか入っておりました。

まともに唄えない? つまり原曲の歌詞のままでは、国民から受信料を頂戴して番組を制作している……という建前の、日本放送協会=公共放送の電波に流せない、わけですね。

流行歌の歌詞で、一番何が引っかかるかといえば、固有名詞、それも著名企業が生産する「国民の誰もが知っている」商品名ということになります。

有名なエピソードでは、山口百恵の超ヒット曲『プレイバックPart2』(1978年5月1日発売/作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童/編曲:萩田光雄)の歌詞に出てくる ドイツ車の高級車【ポルシェ】。

♪〜緑の中を走りぬけてく 真っ赤なポルシェ〜♪

紅白に出場した際は、♪〜真っ赤なクルマ〜♪ に変更させられていましたね(笑)。

お次は懐かしい、東京12チャンネル放映の、お色気アクションドラマ『プレイガール』で女ボスを演じていた、沢たまきの看板ソング『ベッドで煙草を吸わないで』(1966年4月15日発売/作詞:岩谷時子/作曲&編曲:いずみたく)……で引っかかったのは【シャネル】。

♪〜甘いシャネルのためいきが 今夜も貴方をまっているのよ
ベッドで煙草を 吸わないでね〜♪

NHKの番組で唄う場合は、♪〜甘い香りの〜♪ に修正。

さて皆さん

固有名詞が、特定の商品ではないにもかかわらず、日本人のほぼ半分、いや世界各国の人々のほぼ半分の持ち物だからこそ、NHKはもちろん、民放各社の電波にも、「絶対に流せない!!」という楽曲が存在しました。

ムード歌謡グループのハニー・ナイツが歌唱した、『オー・チン・チン』(1969年6月25日/作詞:里吉しげみ/作曲:小林亜星)……(^_^;)。

 

♪〜チンチンつまんでオシッコで 雪に名前を書いたっけ
オーチンチン オーチンチン あのチンポコよ 何処行った〜♪

ここまで歌詞の中で連発されると、ポルシェをクルマに変えるような、簡単な処理では済みそうにないですねぇ(笑)。だいいちタイトルからして、即ブー!! NG!!

もっとも、この手の楽曲は、製作者側も、ほぼ確信犯的な覚悟と意志をもって、「わざわざ」そういう歌詞内容の作品を、真剣に創るのが常でして、

放送禁止になろうがなるまいが、どうだってよろしい部分も、水面下で多々あったことでしょう。

「この曲は、当時、どうしても世の中に発表したかった。平和ボケしている国民の、度肝を抜かしたいという、カンフル剤的な意味もあったし、昔の男連中は、空き地の片隅を見つけちゃあ、伸び伸び、堂々と、みんなで競い合って立ちションベンしたもんだ(笑)。古き良き時代への郷愁めいたものもあってね」

作曲を担当した小林亜星が、このようなことを、何かのインタビューで語っていました。

しかしですよ。

この楽曲の歌詞を眺めながら、いたって下らないと思いながらも、ふと不謹慎な疑問がよぎりました。

全世界のほぼ半分の人々の持ち物であるはずの、チンチンやチンポコは、基本的には放送禁止の用語に該当しながらも、その単語が歌ではなく、番組内の【気さくな会話】の中で【ついうっかり】飛び出した場合、さほどうるさく言及されないようでして。

ところがこれが、逆の【ほぼ半分の人々】の持ち物となると、他ならぬ私も、ついうっかりとは口にも文字にも出来ません。

いや、文字の場合は、昔も今も「決してNGではない」という声も一部であるようですが、私は、花園乱名義で書いたエロ小説の中で、あえて記す場合、オマ×コ、オ×コなどと伏せ字にしておりました関係で、「大丈夫だよ」と言われても、つい神経を遣ってしまいます。何故なのでしょう? 同じ持ち物なのに(笑)。

「明らかな女性蔑視、差別ではないか!!」と、自民党の野田聖子や社民党の福島瑞穂あたりが、超党派で手を組んで、国会の場で問題提起する……ようなことは、過去も現在も、おそらく未来永劫、起こりえないでしょう。

出演禁止

唯一、そんな世の中の不合理に、喧嘩を売るがごとく(当人には間違っても、そんな意識はなかったでしょうが(笑))、生放送中に禁断の4文字を叫んでしまった、あっぱれな女性アイドル歌手がいらっしゃいました。松本明子です。

若い世代の皆さんはご存じないかもしれませんが、私ら世代では、これはトンデモナク大きな事件でした。リアルタイムで番組を観ていましたからね。

1984年のことでしたかね。フジテレビの人気深夜番組『オールナイトフジ』の1周年記念と、同系列のラジオ局・ニッポン放送の人気番組『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』の10周年記念を、共同で祝おうというスペシャル番組がありました。

松本は、前年の1983年にデビューしたばかり、まだキャピキャピのアイドル歌手。そのウブな彼女のことを、売れっ子上方落語家である鶴光が、芸人特有のサービス精神から【イジった】んですね。悪気はなかったでしょう、きっと。

「ワイはなぜか、いまお前が付き合っている彼氏の名前を知っている。ワイに公表されたくなければ、カメラに向かって、例の四文字を叫べ。そしたら許したる」

松本はああ見えて(どう見えるんだ(笑)?)、かなり真面目で賢い女の子です。実際に想定される彼氏がいたようですが、それ以上に、その場の空気、つまりは、スタジオにいる、ほとんどの人間が【期待している】だろう気配とやらを、敏感に察知してしまったわけですね。

(ここで、私ごときがつまらない言動をし、フジテレビの人気番組の出演者やスタッフに恥ずかしい思い、嫌な思いをさせたくない!!)

当人に聴いたわけでもないですが、おそらく、その時点での彼女の心模様は、そんなところだったのではないでしょうか。

ある意味、サービス精神においては、鶴光の上前をハネるぐらいの芸当をやらかしかねない、彼女の天性の【才】が、おかしな方向に暴発しまして、

…………口走ってしまったのです。叫んでしまったのです。

年若い女の子、それも芸能プロダクション最王手、ナベプロこと渡辺プロ所属の【売出し中の】アイドル歌手が、「オ×ンコぉ〜!!」と、それもごていねいに2回続けて。

番組関係者に恥ずかしい思いをさせる代わりに、本人が思いっきり恥ずかしい思いをし、哀れ松本明子は、翌日以降、しばらくの間、綺麗さっぱり【消え】ました。

数年後、彼女をバラドルの道に引っ張って【復活】させたのは、ナベプロの盟友、中山秀征だったそうですが、人生の成り行きなんて、正直わからないものです。

結果論になりましょうが、松本の芸人並みのサービス精神は、現在にいたってもなお、さまざまなバラエティ番組でみごとに発揮されていますけれど、かりに【あの晩】何事もなく、アイドル歌手のままでいられたとしたら、どうでしょう? かなりの確率で、とっくの昔に売れなくなり、芸能界は引退、「あの人は今」の出演者の常連組にされている可能性が高いですね。

松本のデビュー曲のタイトルは、『♂×♀×Kiss(オス・メス・キス)』(1983年5月21日発売/作詞:森雪之丞/作曲:後藤次利)というのですがね。ううむ、なにやら意味深だと思われませんか(笑)? 彼女が破廉恥なスキャンダルをしでかしたから、そう感じるだけかもしれませんが、

♂、♀、Kissとくりゃ、お次はチ×コ、マ×コ……と、相場が決まってるじゃありませんか。あら? そんなことはございません? こりゃまた失礼いたしました。

などと、お下劣なオチをつけて喜んでいる場合ではありませぬ。

本題に戻って、放送禁止の歌謡曲。固有名詞やらエロい歌詞が理由での措置ならば、まだ話はわかるのです。

問題は【そこ】ではなく、理由がまったくわからぬまま、NHKおよび民放連の方針だの、さらに上の官憲の方針、さらにさらに政府の方針とやらで、ほぼ強権的に公共の電波に【乗せられない】歌謡曲も多々ある、という事実です。

そしてオソロシイのは、強権を発動する側は、いつの時代も、決してその本性を表さないところです。あくまで私たちに【自主規制】を強いる方向で、巧妙に巧妙に、ひたひたひたと、私たち一般市民には一切、気付かれないようにして、権力の網の目を張り巡らせるのです。

そして、いざ気づいた時には、すでにがんじがらめ。もう右にも左にも一切身動き取れぬよう、憲法によって、国民すべてに平等に保証されているはずの「表現の自由」を奪ってしまう……。

ことは歌謡曲にとどまりません。小説、映画、ドラマを含めた放送番組すべて、演劇、ゲームなど……、私たちが自由意志で何かを発する媒体すべてに、【自主規制】という名の監視の網をかけてきます。

「いや、そんな大げさな(笑)。あまりに被害妄想すぎるよ」

そう受け止めていられるうちに、何とかしないと、大変なことになりますよ〜、とだけは、ハッキリここに記しておきます。

大多数の皆さんが、「そりゃ、どう逆立ちしたって放送禁止だろ?」と考える、禁断の4文字ごときでギャーギャー騒いでいられた【あの頃】は、まだ、今よりはもう少し、幸せな世の中だったに違いありません。

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

 

関連記事

メールマガジンの登録

最近の記事

おすすめ記事

昭和歌謡/過去記事