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稲垣潤一

昭和歌謡_其の五十九

妄想男のヰタ・セクスアリス(前編)

『ロング・バージョン』

童貞喪失譚

前回、ロス・インディオスの女性ボーカル、シルヴィアによく似た年上女性、居酒屋「黒ちゃん」のママとの、甘酸っぱいだけでは済まない!! いや、実際は【それ】で済んだものの、一歩、間違えば、それこそ「夜の街」の危険、それも、ひょっとすると命に関わるトンデモナイ危険を、無理やり体で「味わわされた」られたかも???な、ちょうど私が二十歳=「大人の男」になりたてホヤホヤの時分の実体験を、オハズカシながら披露させていただきましたが──。

オハズカシついでに、その2年後、大学4年当時の「ほぼ実話」も、ここに晒(さら)してしまいましょう。

以下の話は、私の懺悔録とも言うべきものでありますが、──若気の至りなどで済ませてしまって、人道的に良いのか? という、なかなか厄介な問題をも孕んだ、でも、文芸ジャンル的には、じつにまっとうな(笑)、ヰタ・セクスアリス(性の履歴書)ってなことになるはずです。

11月6日に、22歳の誕生日を迎えた私は、なんとしても「【今年中】に童貞とオサラバしなくちゃ!!」と、すでに卒論を3分の2ほど書き上げながら、そのことばかり考え、妄想しておりました。それも、出来りゃあ「Xmasイブの夜に果たしたい!!」……と。でも暦は師走に突入し、こりゃ自力じゃ無理だな、と悟ったため、大学の同期の悪友Fに相談したのです。

「お前の彼女の友達で構わないから、すぐに1発ヤレそうな女を、紹介して欲しい!!」

コイツは、人間の出来に難があり、教養の欠片もねぇ無粋な野郎でしたが、何故か【中途半端】な女には、よくモテるのです。【中途半端】? つまり、ルックスもファッションセンスも、オツムの出来も、すべてが【中途半端】という意味です。だからと言うわけでもありませんが、Fに過去、彼女をどれほどの数、紹介されようとも、少しも羨ましくないのです。

同期には、もう1人、じつに女に良くモテる、悪友Kもおりまして。コイツの連れて歩く女は、ことごとく私が即座に「ヤリたい!!」と感じるほど、童貞の私から観て、まさに【完璧】でした。何度、Kがヤリまくり、精を放ちまくった後で良いから、「その子とヤりたい!!」と妄想したか知れません。妄想は、いつしか私の貴重なズリネタに変換しましたが。

私が相談相手として、【完璧】な女とヤリまくれるKではなく、【中途半端】な女とばかりヤリまくっては、すぐに仲間に吹聴して歩く、軽薄千万なFを選んだのは何故か?

当時の私の答えは、はなはだ下劣です。Fが付き合う【中途半端】な女の友人であれば、きっと同じく【中途半端】だろうし、高嶺の花に相違ない【完璧】な女の友人よりも、「すぐヤレる!!」率は、はるかに高いだろうと、姑息にも、そう判断したからです。

とにかく【中途半端】でも規格外商品でもいいから、ナサケナイくらいに「女と一発ヤリたかった!!」ですねぇ。

予想通りにFは、私の頼みを気安く引き受けてくれまして、その時にヤリまくっていた彼女に頼んだのか、数日後には1人、「お前にピッタリの女を連れて行くぜ」……てな展開になり、

師走なかばの夜、Fと彼女、その親友、プラス私の4人は、新宿は住友ビルの中にある、窓外の眺めが抜群な、そのわりに【学生値段】の洋食屋で、Wデートを楽しむことになったのです。 

「最後の1発」のつもりが、いつか気付けば……

楽しんだ? ううむ、これは嘘かな。初対面の、私がXmasイブに【1発ヤル!!】だろうはずの相手は、これがですねぇ、笑っちゃうほどに【中途半端】だったもので、飯を喰いつつ、酒をあおりつつ、頭の中で「どうする? どうする?」という【?】が無数に飛びまくるんですね。要は、まったくもって100%、いや300%、顔立ちも体型も「俺の好みじゃない!!」のです。

……しかし、今、これを書いていて、じつに失敬千万な野郎ですねぇ、私は。彼女の気持ちなんて、はなから想定にない!! んですからね。今時なら間違いなくセクハラで、糾弾&SNS炎上でしょう。トンデモナイ男性本位の、女性差別&蔑視の感覚に相違なかったわけです。

彼女の本名が、じつは某超超有名なシンガーソングライターと同じ、という【おまけ】と、彼女の父親が、某超超有名な化粧品会社の常務、という【おまけ】が付きまして、

前者はスルーするにしても、後者には、これまた下劣にというか、貧乏人根性炸裂で、(ふむふむ、実家が金持ちのお嬢様なのね!!)と、いささか内心ニンマリしてしまいまして……。【それ】がなけりゃ、さすがに彼女に「ごめんなさい」して、ここから先の話は【あり得なかった】でしょうに。

「おぉ、どうだい? お前ら、なんかお似合いのカップルなんじゃねぇの?」

宴もたけなわ、Fは、けっこう酔いどれた眼差しで、無責任なことを口走りました。

「ウン、そうね、アタシも今、同じこと、思ってた。ねぇねぇ、付き合っちゃいなよ、○○○!! 勝沼さん(私です)、すっごくイイ人だからさ」

Fの彼女の台詞も無責任。【イイ人】もなにも、まだ数回しか会ったことないし、タイトな話なんか一度もしたことねぇだろうが!! と突っ込んでやろうかとも思いましたが、自分がその時、ひそかに抱いていた、本音の下劣さ、破廉恥さを想えば、Fや彼女の無責任ぶりを、わずかに皮肉る資格もありますまい。

結局、私は、Xmasイブまで「カウントダウン5つ」に迫った、緊急を要する状況下であることと、金持ちのお嬢様のわりには、不思議と少しも【それ】を鼻にかける素振りのない、いかにも〝おっとり〟した印象に、ほんのちょっと惹かれた……んでしょうね。それも、紛れもない本音です。

店内に、当時流行っていたニューミュージック系の楽曲が、BGMがわりに流されていまして、私の耳に、やけにムーディで艶っぽく、聴きようによっては〝エロい〟前奏が、にわかに絡みついてきました。男性歌手が、いかにも甘い声で唄い上げる歌詞が、これまた、じつにじつに〝エロい〟。

♪~約束しないと責めて
泣き疲れた姿勢のままに
いつか軽い寝息の君は
急にあどけない顔して

さよなら言うなら今が
きっと最後のチャンスなのに
想いと うらはらな指が
君の髪の毛 かき寄せる

コピーのシャガール 壁に
白いシーツ 素肌に巻いて
君はあの日 遊びでいいと
酔った俺の手を つかんだ

シングルプレイのつもりが
いつか気付けば ロング・バージョン
似たもの同志のボサノヴァ
ちょっとヘビィーめな ラブ・ソング~♪

そう感じているのは、私だけじゃないようで。

「あー、これこれ、俺、ハマってんだ、最近。稲垣の声ってスケベだよなぁ。顔は、まず女にモテそうもねぇのに(笑)」

Fがメロディに合わせて鼻歌で口ずさむと、彼女は下品に大口を開けて笑った直後、「タイトルも歌詞も、もろエッチだよね。でもアタシ、この曲、なんか、わかる。こういうことって、あるじゃん、男と女には」……しみじみ告げたのでした。

私は当時、今ほど歌謡曲に〝洗脳〟されていませんでしたから、この楽曲のタイトルが『ロング・バージョン』(1983年11月1日発売/作詞:湯川れい子/作曲:安部恭弘/編曲:井上鑑)であることも、稲垣潤一という歌手が発売した、6枚目のシングルであることも、まるで知りませんでした。

後に、私にとって『ロング・バージョン』は、カラオケで最も「唄いたい!!」曲の1つになりましたし、私が、♪~ロング バージョン~♪の【バージョン】のフレーズを、わざとネイティブな発音っぽく巻き舌で唄うと、カミサンが決まって「ヤラしい!! 下品!! ダサい!! やめて!!」の4連発の台詞を発し、強権でカラオケを消去する……という、夫婦ならではのパフォーマンスを演じるようにも、なりましたがね。

ただ、童貞だった私が、この楽曲の〝エロさ〟について【無知】だったか? というと、さにあらず……でした。これには私の生い立ちが深く関わってきましょう。このコラムでは何度も記しました通り、母方の実家が、場末町の駅前の、まさに「夜の街」そのもの、【18禁】オンリーの環境のど真ん中にありまして、小学校の低学年時代、そこに預けられた私は、無意識のまま、やたら「夜の街」の営みについて、耳年増になってしまったんですね。未経験のまま、妄想だけはイッチョマエに成長、いや性長した──のです。

店内にたまたま流れた楽曲が『ロング・バージョン』で、歌詞も初めて聴いたわけですから、正直よくわからない。でも、メロディ全体が、どのフレーズを取っても、淫情をそそるように構成されていること。Fの彼女が、「アタシらは、とっくに経験済みよ」と言わんばかりの、訳知り顔で吐いた、「こういうことって、あるじゃん、男と女には」の台詞……。この2つのデータを結びつけた時、不思議な事実なのですが、楽曲のタイトルが【そう】である意味が、リアルに【解って】しまったのです。

ふうん、なるほど。だから【ロング】なのか!! きっぱり別れたいなら、ヤラなきゃいいのにさ。やっぱヤリたくなっちゃうよね、普通は(笑)。最後に【もう1回だけ】ヤッてから、本当のさよならをしようって……。でもね、下手にヤッちゃったから、あ~あ、寝た子が起きちまってさ。1回だけじゃ済まなくなっちゃった!! 『もう1回、ヤろ。これがホントに最後。お願い!!】……どっちが言ったか? 2人同時かもしれない。結果的に、またヤッた。こりゃ【ロング】にもなるよな(笑)。別れるつもりの女に、耳元で『ここから先は、遊びでいいよ』なんて、吐息まじりに言われ、腕を掴まれりゃ、嗚呼……男はダメよ。こりゃ【ロング】も【ロング】、長引くに決まってる。そして知らず、2人はズブズブ、ドロドロの深い沼に堕ちて行くのよね。自力では、とても抜け出すことが叶わない沼に」

かりにも官能作家の季節を経てウン十年、すでに禿げナス頭になった【今の】私なら、これぐらいのことは、口からでまかせ、ほざきまくるでしょうが、

さすがに当時は、理屈は【解って】いても、童貞は童貞ですから、うまく言葉に表せません。

……ので、「ふうん、なるほどね!!」と、かなりのしたり顔でほざいたところ、即座にFが、「笑わせるない!! おめぇにわかるわけねぇじゃん。ディープキス1つ、したことねぇ、お前がさ」と、周囲に聞こえるほど大声で言われたのです。

「バ、バカ、恥ずかしいこと、でかい声で言うな」

たしなめましたが、時すでに遅し。お嬢様は、明らかに顔を赤らめ、でも、あろうことか「私も……同じです」と、あり得ない告白をしてくれたのです。黙ってりゃイイものをね。コイツぅー、やけに素直な女だな。それとも単なるバカなのか? 当時はまだ、【天然】とかいう言い得て妙なフレーズなど、存在していませんでしたから。でも私、この件で図らずも次第に、お嬢様に興味を持ちだしたことだけは、確かでしょう。

それにしても、Fの彼女が発した、「こういうことって、あるじゃん、男と女には」の台詞……。妄想的には十分に【解って】いるはずの【こういうこと】を、目の前の、このお嬢様を実験材料に、とにかく【1発ヤッて】、具体的にどういうことになるのか? にわかに【解り】たくなりました。

無性に、その想いが滾(たぎ)りだした時、現金なことに、【中途半端】だとコキ下ろした彼女との【あんな】こと、【こんな】ことが、おぼろな〝エロい〟映像を伴って、次々と自意識に絡みつき、場違いにも勃ってしまいました。

結果、私とお嬢様(F美)は、正真正銘「お付き合いします!!」と、Fと彼女の前で誓わされたのです。

Fは洋食屋を出る間際、私に、「ここから先は、俺たちが気をきかせてやるよ」と耳打ちし、さっさと彼女と2人、どこかへ消えました。気をきかせるが笑わせます。自分たちが、早くどこかで「ヤリたい!!」だけのはずですから。 

序章 Prologue

一方の私とF美は、薄暗い地下道を新宿駅へ向かい、並んで歩き始めました。黙ったままで……。他にやることが見つからなくて、私はなにげなく彼女の手を握りました。彼女も素直にそれを受け入れて、F美は照れ隠しでしょうか、つないだ手を、やや強く振り回したのです。

釣られて私も、一緒になって手を振り回すと、F美が、ふいに、私に告げるというよりも、自分に言い聞かせるがごとく、ぽつりと、

「私、誰かと恋人同士になるの、生まれて初めてなんです。なんか奇跡っぽくて、嬉しいなぁ」

それを聴いた私は、(恋人? Xmasイブに「1発ヤリたい!!」だけの【コイツ】が、恋人? そんなはず、ないんじゃね?)と、胸の内で自問自答したものの、K子が、いかにも無邪気げに発した【奇跡っぽい】という台詞の、言葉の響きに、ひときわ新鮮な感動をおぼえたのです。

(奇跡か……、そうか、俺たち、奇跡なのか!!)

なぜか堪らなくなり、私はF美を壁際まで引っ張ると、一応、周囲に人気(ひとけ)がないのを認めた上で、F美の唇を奪いました。すぐさま、ぎこちないのを承知で舌を差し入れて……。彼女は少しの躊躇(ためら)いなく、それを受け入れ、ひとしきり濃厚なキスの味を堪能しました。

(おいF、ざぁーみやがれ。ディープキスなんて、簡単じゃねぇか!!)

胸の内でさかんに吠えながら、生まれて初めて自分の口腔内に受け入れた、やたらに動き回る軟体動物の感触、──よりも、彼女の舌にまとわりつく大量の唾の温かさ、ねっとり蕩(とろ)けるようなジューシー感に、しばし酔いしれたものでした。

こうして、私のヰタ・セクスアリスは始まりましたが、こりゃ本当に【1発ヤル】までには、まだまだ長い道のりでしょうね。

ってなわけで、続きは後編。

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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