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太田裕美

昭和歌謡_其の95

都会チックな昭和歌謡の「凄い!」曲

 『九月の雨』

by 太田裕美

夏が逝き 9月の雨は冷たくて…

スミマセン。しばらくワタクシ事で、コラムの更新をサボらせてもらっているうちに、暦の上じゃ処暑を過ぎ、気温もグ~ンと下がりました。

8月27日の土曜日の都内の気温が33度でしたっけ。翌日は小雨模様ってこともあって、昼前の気温が25度! 一気に8度も下がると、私のように自律神経のバランスを崩しやすい人間は、てきめんに、鼻水やら皮膚の痒みやらアレルギー症状が出るのですが……。

たまげたのは蝉も、昨日まで喧しいほど鳴り響いていた鳴き声が、ピタリ!  と、もうね、100%綺麗さっぱり、わが家周辺から消えてしまったのですよ~。 こりゃ自律神経のイタズラじゃなく、ま、自然の摂理なのでしょうが。

私は眼の前の光景の、気色悪いまでの静寂に、大げさじゃなく衝撃を受けました。まったくもって違う世界へ足を踏み入れてしまったが如く、いまだかつて経験したことのない、けったいな感覚を味わわされたのでした。

例年、急に気候が秋めいて来ると、知らず淋しさや侘しさが胸中の奥からジワジワ込み上げてきて、なんともいたたまれぬ心境に陥るのですが、今年はちょい と、……いやかなり違います。

高崎市内の気温が40度に迫る猛暑の中、朝ドラのタイトルを借りりゃ「ちむどんどんする」=メチャ気持ちが湧き躍る! 毎日が続いたため、……なんですが ね。詳細は、ひょっとすると次回か、その先のコラムでご紹介出来るかも? しれませんが。

まぁ、とにかく久方ぶりに、がむしゃらにやり切った! 感を得た〝真夏の数週間〟だったため、祭りの喧騒の直後のアノ心持ちは強く宿ってはいるものの、 十年一日のごとくの、嗚呼また無為に夏が過ぎている……てなネガティブな情動 は、今年に限っては「一切ない!」のです。

私が9月に入ると決まって聴きたくなる昭和歌謡の名曲に、太田裕美が唄った 『九月の雨』(昭和52年9月1日発売/作詞:松本隆/作曲:筒美京平)があります。

この楽曲については、私が大好きなので、ひょっとして? 過去にも取り上げているかもしれませんが、ま、ダブるのを承知で書かせてもらいましょう。

昭和ポップスの、超が付くヒットメーカーである松本と筒美は、2人とも都会っ子も都会っ子、……私のように、場末育ちのクセしやがって「俺は都会人 だ!」と似非なプライドを振りかざす、どっかのハゲ茄子野郎とは、そりゃもう ね、悔しいほど筋金がまるっきり異なります!

港区は青山生まれで区内の名門「青南小学校」出身、中学からずーっと慶應義塾育ちの松本と、市ヶ谷生まれで小学校からずーっと青山学院育ちの筒美。嗚呼、……2人共とも、嫌味なほどの生粋な東京者(モン)のお坊ちゃんなわけです。

あまたある昭和歌謡の大ヒット曲のうち、ポップス歌謡の売れっ子クリエー ターは、筒美以外にも、すぎやまこういちに平尾昌晃、都倉俊一ほか、多く存在しますけれど、どの楽曲を書いても、すべてのメロディのイメージが〝掛け値なし!〟に都会を彷彿とさせる……のは、筒美先生が図抜け大一番でしょう。

加えて松本も同じくです。ガキの時分に(隣近所である)当時は何もなかった原宿や渋谷や西麻布界隈を「自転車で走り回った」と語る彼が綴る歌詞には、ごくさりげなく山手通りや公園通りや外苑前などの文字が飛び交います。

中原理恵のデビュー曲『東京ららばい』(昭和53年3月21日発売/作詞:松本 隆/作曲:筒美京平)を初めて聴いて、私を含め、似非東京者(モン)どもは 皆、ぶっ飛びましたもん。

♪~午前三時の東京湾(ベイ)は 港の店のライトで揺れる~♪

「おい、この歌の歌詞に出てくる東京ベイって、まさか、東京湾のことかい?」……冗談抜きに、そんな反応でしたね。

この感覚、平成以降生まれの皆さんには、まるで理解出来ないでしょうが、この楽曲がヒットしていた時代の日本人には、決してジジババのみならず若者連中ですら、東京湾を含めて湾岸を英語で【ベイ】と称する文化は、まったくと言って良いほど根付いてません! でしたから。

それを松本先生は、もうね、軽~く、ごく自然にね、とりたてて格好つけて 「そう」書くわけじゃなく、自宅周辺の日常風景を書いたら、ごく自然に「そうなっちまったんだもん」……みたいになるのです。

いやぁ、こりゃ蒲田駅前の下品なキャバレー通りの印象しか、記憶に濃厚でない私が、そもそも張り合う御仁じゃございません。

太田裕美という歌手は、まさしく超ヒットメーカーの松本&筒美ご両人の、秘蔵っ子中の秘蔵っ子で、デビュー曲の『雨だれ』(昭和49年11月1日発売)か ら、10曲目の『恋人たちの100の偽り』(昭和52年12月21日発売)まで、全楽曲、2人が作詞と作曲を手掛けています。

うち4曲目の『木綿のハンカチーフ』(昭和50年12月21日発売)、続く5曲目 の『赤いハイヒール』(昭和51年6月1日発売)……そして9曲目の、この『九月 の雨』の3楽曲は、太田裕美という歌手にとって、オリコンチャートの上位にラ ンクインした〝3大ヒット曲〟になります。

さて……太田裕美。

ナベプロ(渡辺プロダクション)のアイドル養成機関「スクールメイツ」に て、歌以外……の飛んだり跳ねたりも鍛えられ(たはず?)で、NHKの人気歌謡 番組「ステージ101」のレギュラーを長年、務めて来ましたから、彼女は、 れっきとしたアイドル出身です! ナベプロの同期は キャンディーズですからね。

当時のアイドル系歌手の中じゃ、音感も歌唱力もトップ級でしょう。通ってい た中学も高校も、上野学園の声楽科ですから、 クラシック唱法を含め、徹底して鍛えられているはずです。

……が、ハッキリ言って声質が良くない! これは当時の彼女のブレイクを知らない、平成キッズが聴いても、きっと「そう」感じるはずです。本人も何かに書いてましたっけ。声楽科のクラスメートに「変な声ねと言われた」と。

決して鼻詰まりではないのに、妙に甘ったるく鼻に〝引っかかる〟ような唄い方なんですね。

メチャ幼稚な印象の歌声に聴こえるので、正直、私は、彼女が『木綿のハンカ チーフ』で大ヒットをかっ飛ばした頃、巷のあちこちやテレビ、ラジオから、やたらに♪~恋人よ ぼくは旅立つ ~♪の歌声が流れて来ると、あまりの耳障りに うんざりさせられた記憶があります。

 

私は当時、中学生でしたが、音楽の時間だったか? 何かがきっかけで太田裕美の話題になり、私がいかにも馬鹿にした風に、「あんな幼稚な声の歌手、嫌いだ!」と言ったところ、今でも覚えています、本條雅子という名前のクラスメー トがいきなり、結構な声でこう、上から目線で諭されたのです。

「勝沼クンは、太田裕美のこと、何も解ってない! 彼女は凄い歌手よ。とにかく歌が抜群に上手い! 声だけで批判するなんて、あんたこそ幼稚だわ。アルバ ムを貸してあげるから聴いてごらんなさい!」

日頃から小難しい本を読んでいて、何かにつけてやたら理屈っぽく〝絡んで〟 来る彼女に、〝無理やり〟彼女が持っている太田裕美の最初のアルバム『まごころ』(昭和50年2月1日発売)を借り受ける格好になり……。

聴きましたよ! 中に、シングルデビュー曲の『雨だれ』が入っていて、確か にこの楽曲のアンニュイなメロディの印象に、私はけっこう惹かれました。

……でも、この時はまだ、だからと言って、太田裕美って歌手の「凄さ」など、 少しも理解できず、「本條って大げさな女だな」と感じただけでした。

『九月の雨』の世界観と職人芸

それから数年後、私は高校1年生になりましたが、ある日、蒲田駅前商店街の 有線放送から 以下の歌詞とメロディが流れて来て、思わずハッ! となり、しばし、その場に佇んでしまったのです。

♪~車のワイパー 透かして見てた
都会にうず巻く イリュミネーション
くちびる噛みしめ タクシーの中で
あなたの住所を ポツリと告げた

September rain rain 九月の雨は冷たくて
September rain rain 想い出にさえ沁みている
愛はこんなに辛いものなら
私ひとりで生きていけない
September rain 九月の雨は冷たくて

ガラスを飛び去る 公園通り
あなたと座った 椅子も濡れてる
さっきの電話で あなたの肩の
近くで笑った 女(ひと)は誰なの?

September rain rain 九月の雨の静けさが
September rain rain 髪のしずくをふるわせる
愛がこんなに悲しいのなら
あなたの腕にたどりつけない
September rain 九月の雨の静けさが

季節に褪(あ)せない心があれば
人ってどんなに倖福(しあわせ)かしら

ライトに浮かんで 流れる傘に
あの日の二人が 見える気もした

September rain rain 九月の雨は優しくて
September rain rain 涙も洗い流すのね
愛が昨日(きのう)を消して行くなら
私明日(あした)に歩いてくだけ
September rain 九月の雨は冷たくて
September rain 九月の雨は優しくて~♪

すぐに私は、冒頭の「車のワイパー 透かして見てた 都会にうず巻く イ リュミネーション」と、サビの「セプテンバー レインレイン 九月の雨は冷たくて」を覚えてしまい、鼻歌で口ずさんでいました。

マイナー(短調)な曲調なのに、テンポは妙にアンパーで洒落ているし、ベー ス音が終始、♪~ダーンダタッタ、ズドントトン ダーンダタッタ、ズドントト ン~♪のリズムを刻み続け、音の上がり下がりの振幅がメチャ激しいのに、「透き通る声質の女性歌手」は、見事に美しく唄い上げている! 私はいっぺんで、 これを唄う歌手が好きになりました。

……まさか〝それ〟が、私が毛嫌った「幼稚な歌声」の太田裕美と、同一人物だ とも気付きもせずに。

数日後、歌声の正体も楽曲のタイトルも判りました。早速、商店街のレコード屋で『九月の雨』のシングルを購入し、自宅でさんざん聴きまくりました。

この楽曲ね、編曲も筒美先生自身が手掛けてるんですけども。まず前奏の〝いきなり〟の音の入り方に、リスナーは度肝を抜かされます。

チェンバロ風?の楽器の音色、それもかなり〝乱暴〟に鍵盤を叩く……音色が、 高音域から低音域へ「素早く下りて」来た、……と思う間もなく、オーケストラの 〝ゴージャス〟な演奏が被さり、サビの部分のメロディをリスナーに印象付けておいて……、唄い出しの ♪~車のワイパー~♪ につながるのです。

なんとまぁ、職人芸と言いましょうか、私なんざ、見事に前奏の段階で、意識がすーっと『九月の雨』の世界観に引きずり込まれました。

太田裕美が唄いだしてからも、主旋律のメロディに絡みつく、編曲の巧みなテクニックが「これでもか!」と披露され、あの手この手とリスナーの耳が鷲掴みにされます。

そして決定的なのが、2コーラスのサビの直後の、サウンドアレンジ! 〝こ こ〟を知らせたいがため、今回は歌詞をフルコーラス分、すべて紹介しました。

♪~季節に褪(あ)せない 心があれば
人ってどんなに 倖福(しあわせ)かしら~♪

サビの直後、あまりに唐突に、前奏とは裏腹、音色が一気に「低音域から高音域へ」急ピッチにズリ上がって行く……〝仕掛け〟を8小節だけ、筒美先生は設定 したのです。このメロディの劇的な変化は、当時の、アイドル系のポップスでは まず「あり得ない!」ぶったまげな芸当です。

私は長いこと、〝ここ〟で転調したとばかりに思っていました。何度聴いても、正直、よくわからないのですが、どうやら転調ではなく、あまりに急ピッチに音域が、サビの部分の一番高いキー=「September rain」の【レ】と同等、い や、ひょっとして、もっと高いキー? までピーン!とズリ上がるので、転調し たげに聴こえただけ……のようですね。

しかし、この急ピッチなキーの変化に、太田裕美は少しも臆することなく、当 たり前に歌唱を「付いて行かせて」います。

ま、おそらくは彼女なら「この程度のメロディを軽くこなせる!」との、筒美先生の判断があればこそ、こんな難曲を平気で〝アイドル上がり〟の歌手に唄わせたのでしょうが。

(いやぁ……太田裕美って、確かに凄い!)
中学時代の本條の言葉が胸に突き刺さります。
幼稚なのは太田裕美ではなく、ハッキリと私だったんですね。

ただ、……還暦ハゲ親父になった私は、あえてもう1つ、加えさせていただきま しょう。

(『九月の雨』のメロディ譜とアレンジ譜を書いた筒美先生は、やっぱ凄い!  メチャメチャ凄い!)

職人芸であれば、松本隆も負けてません。私が長いこと主宰していた「昭和歌謡を愛する会」の中でも、ちょくちょく「オソルベシ、松本隆!」的なネタは紹介して来たのですが、……【九月の雨】の歌詞では、やっぱり〝この〟部分。

♪~さっきの電話で あなたの肩の
近くで笑った 女(ひと)は誰なの?~♪

「あなたの【肩の】」なんですね。あなたの【隣】でも【横】でも、ましてや 【前後】じゃ無いんです、あくまで【肩の】なのです! いやぁ、これはなかな か単純には〝出ない〟表現です。松本先生が、良い意味で日本語を「弄んでいる」証拠みたいなもんで、同業者はきっと「チッ、やられた!」と悔しがったん じゃないでしょうかね。

【隣】よりも【横】よりも、2人の距離の近さを感じさせますし、ひょっとし て彼氏の【肩】に顎を載せてるかも? そんな光景を、おぼろであれ、ハッキリであれ、リスナーは妄想しますでしょ。まさに、松本隆の日本語マジックです。

【私】が電話をかけた時点で、電話口に出た彼氏の【肩越し】に、私の知らない【誰かさん】がいる。この【誰かさん】の表現も、歌唱上は「ひと」ですが、 字面は【女】でしょ(笑)! 十分なほど【私】の心情がにじみ出ています。

私の知らない「ひと」の気配が、電話口から濃厚に伝わって来て……、おそらく 「ひと」は、クスッと笑ったのでしょう。それを「私」は耳にします。

この笑み……、言わずもがな、「私」は大ショックでしょうが、「ひと」の側に立ちゃ、まず間違いなく〝わざと〟じゃね?ってわけです。

愚かな彼氏は、「ひと」の〝わざと〟なクスリ笑いにより、まだまだキープしておきたい! はずの【私】に浮気を悟られ、内心「ちょーヤベ!」と感じなが ら、受話器を握りしめている……はずです。

そして、現時点じゃ遊び感覚のウエイトが強いはずの「ひと」に、恋人のはずの【私】は強引に追いやられ、……さぁて、この先、どんな怒涛の修羅場が待って ますやら???

嗚呼、いつの時代も、こと色(エロ)恋が絡むと、決まって男はアンポンタンで、女の意志は岩よりも硬く強靭です。

ひたすら降りしきる、九月の「冷たい雨」は、「私」にはとても優しく、傷つ いた心を洗い流してくれる。そして……。

♪~愛が昨日(きのう)を消して行くなら
私明日(あした)に歩いてくだけ~♪

浮気性な彼氏なんざ、とっとと捨てて、「私」はあくまで前向きに、気持ちを ポジティブに、明日=秋本番の季節……への道を1歩1歩、進んで行く。

(ううむ、やっぱり松本先生も凄い メチャメチャ凄い!)

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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