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平成三十年 立夏

2018年5月5日

紐育の傷あと

鬼子とアメリカ

911

現在進行中の案件の絡みで
2005年に発行された雑誌に寄稿した私自身の記事を再度読む機会があった。

北朝鮮・韓国首脳会議と中国・北朝鮮首脳会議が実施され、残るはアメリカ・トランプ大統領と北朝鮮・金正恩の首脳会議が行われようとするこの時に、感慨深い内容であったので、抜粋をご紹介しようと思う。

新しい記事ではないが、お許しいただきたい。

  ★  ★  ★

アメリカ人は、相手がアメリカ国民か否かに関わらず「あの人は何者か」とは聞かず「あの人は何ができるか」と問う。

その根底には、自由と平等からくる能力主義と個人の可能性を重視するというプラスの面の一方で、「あの人」の人種や民族、習慣、そして宗教といったバックボーンを尊重するという面では、些か配慮の欠ける部分が少なからず存在する。

実力主義の化身のような街ニューヨーク、さらに、その街のシンボルである世界貿易センタービルに狂信的イスラム教徒によってもたらされたテロは、この点において象徴的である。

人がキリスト教徒になるか、イスラム教徒になるかは、その人が生まれ育った環境によるところが大きい。

人は真っ新の状態から、宗教を選択し信仰するのではなく、人種や民族性からくる習慣として宗教を与えられる。

欧米で育った欧米人がイスラム教徒になったり、イスラム教圏の国に生まれた人がキリスト教徒となるのが稀なのはこのためである。

国民の90%が伝統的キリスト教徒であるアメリカは、我々が知らぬ宗教大国でもある。

2001年に行なわれた「あなたの生活にとって宗教は重要か」という調査では、イスラム教圏9カ国の人72%のイエスに対し、アメリカ人の86%がイエスと回答しており、キリスト教原理主義者と呼ばれる人の数も少なくない。

日本の徳川幕府の開府から17年後の1620年、自らを「聖徒」と呼ぶビルグリム・ファーザーズ一行を乗せたイギリスのメイフラワー号が、東海岸にたどり着いた頃から歴史は始まり、ネイティブ・アメリカンの土地を侵略しながら拡大した植民地は、1776年イギリスからの独立を宣言する。
その後、南北戦争の内戦を経て国政を確固なものとしてからは、超大国への道をひたすら走り抜けてきたアメリカ合衆国。

建国250年そこそこのこの国は未だ本当の挫折を知らない。

自由・民主主義という思想や制度を、地球の果てにまでも啓蒙するという大義を掲げ「世界の警察」という名のもとに貫き守り通してきた国。

他国からの侵略を経験したことがなく、欧州のような互いの侵略による血塗られた歴史を持たぬ国にとって、9・11テロは始めて経験する本土攻撃であった。

テロに端を発したアフガニスタン侵攻・イラク戦争以降で始めての大統領選挙は、アメリカの世論を二分し、イラン・イラク・北朝鮮をテロ支援国家「悪の枢軸國」と言い放ち、今回の戦争を決断したジョージ・ブッシュが僅差で再選を果たした。

第二次世界大戦時、日本もまたドイツ・イタリアと共に「悪の枢軸國」と呼ばれた経験を持つ。

今回名指しされた三国が、将来われわれ旧三國と同じような姿で、国際社会の一端を担っていることを願って止まない。

大統領選が終わっても、対テロ戦争の行方はまだまだ見えてこない。

アメリカが現在戦っている相手は、かつてアメリカ自らが生み育てた鬼子達である。

オサマ・ビンラデンしかり、サダム・フセインしかり、宗教が自らテロを生み出すことはないが、宗教や民族性、習慣、文化を踏みにじられた時、憎しみは生まれ、血が流される。

アメリカは、これ以上鬼子を増やしてはならない。

大義を手に、イスラム・アラブ世界に顔を突っ込んだときアメリカは「パンドラの箱」を開けてしまったのかもしれない。

ギリシャ神話のように、空いた箱から災いは四方八方に飛び散って、そのひとつがニューヨークに降りかかり、世界貿易センターという〝バベルの塔〟を破壊した。

ニューヨークはその烙印を背負い続けることになるだろう。

しかし、神話によると、パンドラの箱の中には、たったひとつ「希望」だけが残っていたという。

箱を開けたのがアメリカなら、かれらには「希望」を育むことを大義とする義務がある。

そして日本がアメリカの盟友を名乗るなら、共に希望の糸を紡いでいかなければならない。

「ただ一人への愛情は一種の野蛮である。それは全ての他の者を犠牲にして行われるからである。神への愛もしかりである/ニーチェ」『善悪の彼岸』

以上『2005年/SCENES新春号』より

  ★  ★  ★

2018年現在、オサマ・ビンラデンもサダム・フセインもいなくなったが、テロは無くなってはいない。

火種は未だに燻り続けている。

「悪の枢軸國」で残る北朝鮮は、旧ソ連が生み、中国が育てた鬼子である。

それがトランプという異質なアメリカ大統領との首脳会議に臨もうとしている。

プロセスはどうでも構わない。

両者が「希望」という名の理想のもと「最良の現実」を生み出してほしい。

編緝子_秋山徹