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平成三十年 冬至

2018年12月22日

知足の戒

年の瀬に足るを知る

節供

二十四節気の「冬至」といえば柚子、上生菓子でいえば柚子羹である。

冬本番を迎えるこの時期、「冬至」の日は一年の中で昼間の時間が一番短くなる。

日本人は昔から寒さが堪え始めるこの「冬至」の日に、柚子を浮かべた柚子湯に入って体を芯から温めたり、カボチャを食べた。

古くより柚子は万病に効くといわれ、そこから「冬至」に柚子湯に入り無病息災を願うという習慣が生まれたという。『柚子羹』は、冬至にちなみ柚子の果汁で作られた菓子である。

また、「冬至にカボチャを食べると、中風にならない」と言われ、栄養満点のカボチャを食べることで、冬に不足しがちな栄養を補い、中風(脳卒中による手足の麻痺)を防ぐと伝えた。

厳しい時候を迎えても、柚子湯に入り、柚子のお菓子やカボチャをいただいて、巡り来る四季の到来を慶び、また愉しむ、これが古来より日本人の智慧である。

暦の上で、江戸幕府によって定められた式日に

五節句(1月7日〈人日/若菜〉・3月3日〈上巳/桃〉・5月5日〈端午/菖蒲〉・7月7日〈七夕/乞巧奠〉・9月9日〈重陽/菊〉)があり、それぞれお供えする食物の節供(せちく)がある。
本来、御節料理とは、節句ごとに供される食物/節供のことであったが、いつからか正月の節句料理を指す言葉〝おせち〟となった。

節供には
人日の〝花びら餅〟〝七草粥〟
上巳の〝白酒〟〝菱餅〟〝ハマグリの吸い物〟
端午の〝粽〟〝柏餅〟
七夕の〝素麺〟
重陽の〝栗〟〝菊酒〟〝*茄子〟
また「雑節」の春・秋の彼岸の〝牡丹餅〟〝お萩〟、十五夜や十三夜の〝月見団子〟夏越し大祓えの〝水無月〟などなど_がある。
茄子もカボチャ同様「九日(おくんち)に茄子を食べると、中風にならない」と伝えられる。

このように、昔の日本人は、季節の決まった日に菓子を供し、花を飾って四季の移ろいを楽しんだ。

ほんの少しの贅沢で日々の生活に変化をつけ、日常にたった少しの彩をつけるだけで人生は豊かになる。

日々の普段の「ケ(褻)の日」と、ささやかななる「ハレ(晴れ)の日」とを設けて、ほんの小さな楽しみ、小さな幸福というものが、実は人生を潤すことを知っていた。

そう、古来日本人は、「足る」=〝身の丈を知り、その範囲内で十分に人生を楽しむこと〟を「知って」いたのである。

知足の戒/我唯足るを知る

「知足」は、仏陀の言葉を遺した『遺教経』の修行者の守るべき八つの徳目のひとつとして記されている。

八徳目は
「小欲/多くを望まない」
「寂静/静かなところに住む」
「精進/勤め励むこと」
「不忘念/法を守り忘れない」
「禅定/心を乱さない」
「修智慧/智慧を修める」
「知足/足るを知る」
からなる。

この『遺教経』に「知足」は

「知足のものは貧しといえども富めり、不知足のものは富めりといえども貧し」
〈足ることを知る者は、たとえ貧困であっても心が満たされており安らかである。しかし、足ることを知らない者は、どんなに裕福であっても心が満たされず、常に不安である〉と示されている。

この教え「吾(われ)唯(ただ)足るを知る」を意匠として表したものを、京・龍安寺の茶室蔵六庵前にある徳川光圀寄進の「蹲/つくばい」に見ることができる。

この真ん中の四角形の穴を〝口〟と見立て、その四方に〝五〟〝隹〟〝疋〟〝矢〟を配置して「吾唯足知」とした意匠は、料理の小鉢の底に描かれていたりして、日常で目にした方も多いだろう。

龍安寺の「吾唯知足」の蹲(つくばい)

この「知足」と全く同じ意味のことを、違う言語で発言して、世界を唸らせた人が地球の裏側にいる。

世界で一番貧しい大統領のスピーチ

その人は、南米の国ウルグアイ第40代ホセ・ムヒカ前大統領である。

2012年、ブラジルのリオデジャネイロで国連主催の環境に関する国際会議、通称「リオ+20」が開催された。この時スピーカーとして壇上に立ったムヒカ前大統領のスピーチは、環境や資源の表面上の問題ではなく本質を語たり、これを伝えたメディアにより、瞬く間に世界中に広まり、多くの共感を得た。

このスピーチは、日本でも『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ/汐文社2014年刊』というタイトルで絵本が発行されるほど話題となった。

ホセ・ムヒカ大統領へ

編緝子_秋山徹