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令和元年 立夏

2019年5月6日

おもてなしの前に

お辞儀の作法ご存知ですか

礼儀作法

この時期には通年であれば、五月二日の雑節『八十八夜』と、五月五日の『端午の節句」とがあるだけなのであるが、本年は、四月三十日の平成天皇陛下ご退位「退位礼正殿の儀」と、五月一日の令和天皇陛下ご即位「剣霊等承継の儀」の儀礼があり、特別な年となった。

儀式のテレビ中継や、平成天皇陛下の過去の御幸の録画などを見ていて、日本人の〝お辞儀〟について考えさせられた。

海外の人から日本人特有の習慣として知られる〝お辞儀〟だが、しかし、どれだけの日本人が〝正しく〟〝美しい〟「お辞儀の作法」について知っているだろうかということである。

はたして何人の日本人が海外の人の前で正しい〝お辞儀〟を示せているか怪しいものだと思う。

特に、神社の鳥居を一礼もせずにくぐり、その真ん中を進んでいく人などは大いに怪しい。

本来、日本人は部屋を出入りするときには軽く一礼をするのが一般的な所作であった。

それは、我々が〝結界〟というものを強く意識する民族であるということだ。

部屋の中でも〝鴨居を踏まない〟〝畳の縁(へり)を踏まない〟など、これらも〝結界〟を意識したものだと思われる。

畳の縁を踏まない理由として、「床下から畳と畳の隙間[縁]から刀を突き上げてくる敵の攻撃より逃れる」武士の所作であるとする書物もあるが、畳が部屋に敷き詰められるようになるのは、乱世からかなり下った時代からであるので、この説は少し疑わしい。

自宅でも「部屋」「玄関」「門」と家を出るまでにも様々な〝結界〟がある。

ましてや〝他所様〟の御宅では一層である。

欧米人は玄関でコートを脱ぐが、日本人は本来玄関前でコートを脱いでから入るものである。

現在でも営業や打合せで相手方の会社を訪問する際は、入り口の前でコートを脱ぐのマナーとなっているので、ビジネス上でこれは守られているようである。

飲食店を出る前に「ごちそうさま」と声をかけるのも、調理に対する〝謝意〟と、結界を出るにおいて、後(店)に穢れを残さない挨拶であると思う。

以前の漫筆でも記した、日本人サポーターがサッカー会場の客席を清掃して帰るのも、この類であろう。

これらに比して、神の鎮座される神社と一般世界の〝結界〟の象徴である「鳥居」の前を一礼もなく通り過ぎるなぞは全くの禁忌なのであるが、存外かなりのお年を召した方にもその行為を多く見る事がある。

これに関しては、縁起を大切にする芸者衆などの花柳界の人たちの所作は美しく、赤坂「氷川神社」などの初詣の際に、出会うことがあるので一度ご覧になるとよろしいだろう。

では、〝お辞儀(=正しくは拝礼)〟にはどのような種類があり、その〝作法〟とはどのようなものなのか。

お辞儀の種類と参拝の作法

〈小笠原〉などの礼法の流派により多少異なるが、〝拝礼〟には「会釈礼」「敬愛礼」「尊敬礼」「最敬礼」の概ね4種類がある。

 拝礼の種類
「会釈礼」_軽い感じのお辞儀で目下の人に対する場合や部屋に入る時など、日常的に数多く用いる。
「敬愛礼」_気の置けないお客様や、仲間うちなど同格の人へのお辞儀。
「尊敬礼」_上司や年長者など日常生活において最も尊敬の念を示すお辞儀。
「 最敬礼」_神仏や天皇陛下、各国の国家元首など、最大級に畏敬を表す場合のお辞儀でそれ以外には用いない。

次は、立ってするお辞儀(=立礼)と、座ってするお辞儀(=坐礼)の作法。

 直立姿勢での拝礼―立礼
「会釈礼(=一揖/いちゆう)」_上体を15度傾ける。両手は直立の姿勢の手の位置から、やや前方へ移る程度で。視線は2メートル先の床面あたりに据える。
「敬愛礼」_上体を45度傾ける。両手は腿の中央あたりに移る
「尊敬礼」_上体を75度傾ける。両手の位置は、指先が膝頭に達する程度。
「最敬礼」_上体を90度傾け、背筋が床と平行になるようにする。尻を後ろに引かないようにする。

正坐での拝礼―坐礼
「会釈礼」_両手は膝頭の両側面を押さえていながら、指先だけ軽く畳につける。上体を15度傾ける。
「敬愛礼」_会釈礼の手の位置から、自然に手首を折ってすべり出させ、指先が膝頭を少し出たあたりで止める。上体を45度傾ける。
「尊敬礼」_膝上に置いた手を、上体を曲げながら前方へすべらせ、75度傾けた時、視線が垂直に落ちたあたりに指先があるくらいが目安。手元を約15センチ、手先を約9センチほど開けるように両手をつく。
「最敬礼」_上体を、背筋が床と平行になるくらいに傾ける。尊敬礼の手の位置から上体を傾けるとともに、さらに前に進ませます。鼻の頭から垂直に落ちた線が、両手の人差し指の指先をつけた間に入るように、両手の指をつける。この際、肘を張らず、腰を上げぬようにする。

ではこれを基に、基本的な「神社の参拝」(概ね寺院も同じ)を紹介すると

まず鳥居や門をくぐる前に、会釈礼/一揖をする。
帽子を被っているときは脱ぐ。できるだけ鳥居の真ん中を通らないようにする。真ん中は神様の通る道である。
手水舎で手を洗い、口をすすいで神前に参る前に身を清める。
「手水の作法」左手を浄め—右手を浄める—左手に水を取り口を雪ぐ—最後に柄杓を立てて柄を清める
賽銭を賽銭箱に静かに入れる。
本坪鈴(鈴)/鰐口などを鳴らす。
拝礼を行う。

「拝礼の作法(=二拝、二拍手、一拝)」
まず拝殿/神前で軽く会釈礼(=一揖)。
最敬礼を二度繰り返すが(=二拝)、一度目で上体を起こす時は、直立まで起こさず、15 度くらい前傾したところでいったん止め、ふたたび最敬礼をし、二度目は直立姿勢に戻る。
〈神社によっては二拝のうち、前の礼を浅く、後の礼を深くする様に指定される場合もある。〉
両手を合わせて、肩幅くらいに開いて打ち合わす。これを二度繰り返す(=二拍手)。打ち合わせ方は、最初に合わせた手の右指先をひと筋ほど下げて、それから両手を開き、打つ。終わったら両手の指先をふたたび揃えてから下ろす。
〈出雲大社、宇佐八幡では二拍手ではなく四拍手で行う。〉
〈一般には拍手と一拝の間、もしく合掌のときに神仏への祈願などを行う〉
次に最敬礼。(=一拝)
最後にもう一度軽く会釈礼(=一揖)。

以上、神社によって違うこともあるが、これが基本的な参拝の方法である。どうだろう、この基本的なことでも皆さん、知っていること、知らないこと、があったのではないだろうか。

当たり前の話であるが、「礼儀作法」や「マナー」というものは、これらを杓子定規に守れば良いというものではない。

基本を知った上で、時と、場所と、場合によって、これらを使い分けることの方が難しく重要であり、それができて初めて所作は自分のものとなる。

例えば、天皇陛下の御幸や園遊会に際して、拝謁する全員が最敬礼をしていては時間もかかるし、そのスペースはないが、その場合でも、会釈礼や敬愛礼では不敬であり、最低でも尊敬礼が必要であろう。

しかし、皇居で行われる「閣僚任命式」などでは、正式な儀礼であるので、新任の閣僚は「最敬礼」で天皇陛下から認証を拝領しなければならないが、度々「尊敬礼」の角度の閣僚を見かけることがある。

ここに人としての立ち振舞いの品格というものが透けて見える。

これから国務を担うにおいて、お辞儀〝もどき〟で始められては困るのだ。

「OMOTENASHI」の前に我々日本人が知らなければならないものが、まだまだ沢山あるようだ

 

 

編緝子_秋山徹