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令和二年 夏至

2020年6月21日

水に流せない

法と水の関わり

夏至

夏至_太陽の生命力が頂きに至り、夏となる。

シェイクスピアに『真夏の夜の夢 A Midsummer Night’s Dream』の作品があるように、欧州でも夏至は特別な日となる。

欧州各地で夏至祭が行われる。

日本の暦では、夏至の前後20日間が梅雨ということになっていて、曇り空のことが多いので、日本人は欧州ほど夏至を特別なものとしていないようだ。

東風は「こち」と詠めば春の季語となるが、「あいのかぜ」「あゆのかぜ」と詠んで夏の季語となる。
また、梅雨の頃に吹く湿気を含んだ南風(はえ)を〝流し〟とも呼び、九州では梅雨自体を〝流し〟と呼ぶ地域もある。
この〝流し〟と〝南風〟から、この時期の季語として「ながしはえ」というものもある。

梅雨に入ると同時に、我が家のコンピューター・iMACの調子まで湿って悪くなった。
作業中に突然落ちてしまう。
リスタートと初期化を繰り返して、どうにかダマシダマシ作業を続けている。

ご存知のように、リスタートと初期化には時間がかかる。
ただひたすらiMACの前で時間を潰すしかない。

この突然与えられた無聊(ぶりょう)の時間で、溜まりに溜まった読もうとして買い溜めていた本、読み直しをしたかった本を読んだ。

物事は考えようである。

この本を読むという時間を私に与えるために、iMACは調子が悪くなったと思えば、貴重な時間である。
と同時に、普段おのれが如何にコンピューターを使って無駄な時間を過ごしているかを痛感させられる。

必要な作業以外に、YouTubeを見たり、ネットの下らぬ記事を読んでいる。
FceBookなどのSNSにしても、やらなくても良いことにどれだけ時間を費やしているか。

以前、我々はスマートフォンや機械を使っているのではなくて、使われているのではないかという〝機心〟について記したが、いつの間にか私自身がその状態に陥っていることに気づく。

それが証拠に、iMACが動かなくなったときの心細さたらなかった。

コンピューターに使われ拘束されていた自分を腹立たしく感じた。

とはいえ、動いてもらわねば『麻布御簞笥町倶樂部』のサイトが立ち行かなくなるのも事実ではある。

これからは、iMACと一定の距離感を持って、資料や書物に目を通す時間を多く作らねばと心に誓ったわけである。

法と水

この思わず与えられた〝読書の時間〟に読み返した本の中に『部首のはなし』『部首のはなし2』(著者:阿辻哲夫/中公新書)がある。

「部首」から漢字を読み解くという内容で、興味深い話が多く。漢字と国語の世界の奥深さを教えてくれる書である。

その中で「法」の字の説明があった。

ご存知のように部首の「氵/さんずい」は、「水」を現す。
この部首を辞書/漢和辞典でひくときは、3画ではなく「水」の4画の部分を見ると小学校で教わった。

常用漢字1945文字の内、この「氵」の部首がつく漢字は109文字で、常用漢字の5%を占める。

当然、水に関連する文字がほとんどである。
「汗」「汁」「河」「池」「沢」「海」「波」「港」などなど—がある。

では「氵」が部首である「法」は、「水」といかに関わりがあるのか—

「法」の元々の文字は「灋」という形であった。
この字は「氵」と「去」、「灋から氵と去を除いた文字=タイと呼ばれる羊に似た動物」から成り立っている。

このタイという動物は、嘘をついている人間を角で突くという神秘的な能力を持っており、古代中国の神聖裁判において神獣とされていたという。

古代中国の裁判において、このサイの角で突かれた者は、嘘をついているので有罪となり、川に流されたという。

ゆえに、「灋」には「水」をさす「氵」があり、その後簡素化されて「法」となったと『部首のはなし』には記されている。

漢字の面白いところは、このように一文字が複数の要素から成り、その成り立ちに物語があることである。

この神聖なるタイという動物が、現代に存在していたらと思うのは私だけではあるまい。

狭小な考えの人間が作った「法」よりも、嘘を見抜く神聖な動物が審判を下す。

現在の為政者やそれに帰属するの面々を、タイの前に並ばせて川に流されない人間が何人いるのだろうか。

かくいう私も川に流されないという自信がない。

あなたは、いかがだろう?

 

編緝子_秋山徹