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我がエロス 其の弐

2017年11月18日

アッ、見られた!

ヰタ・セクスアリス②

十歳_悲しみの廊下

三歳のイケナイ遊びから七年ほど経って、私は小学四年生になっていた。
この時分の男の子は、そろそろ〝性〟というものにオボロげな興味を持ち始める頃である。
特に、どうやら女の子には〝生理〟というものがあり、それは男の子には秘密であるらしい、というなんだか漠然とした話題が飛び回り、それに関して誰一人として確かな答えを持つ者もいないという状態に、われわれ男の子の頭には〝?〟マークが浮かびまくっていた。

何事にも単純な私は、女の子のことであるから母親に聞けばわかるだろうと、ストーレートに聞いてみた。
母親は険しい顔をして「そんなこと知らなくて良い」とニベもなく取り合ってくれない。

そんな小学四年生の時、私の性器に毛が生えた。

玉のところに四本くらいの細い縮毛がチョロチョロと生えている。
体育の時間の前、着替えをしている時に「生えちゃった」と仲の良い友達に見せた。
「おーい、秋山のオチンチンに毛が生えてるぞー」
と、友達が大声で叫びクラス中の男の子が私を取り囲んだ。
私は再びパンツを下ろして申し訳程度に毛の生えている玉を見せた。
「へーっ」
「ほーっ」
と、皆から驚きとも羨望ともしれぬ声が上がり、中には触らせろと、か細い毛を引っ張ろうとする不届きな奴もいる。
下の毛が生えている友達はクラスの中に一人もいないようだった。

この話がクラスどころか同学年の男の子の間に広まり、他のクラスからも「見せてっ!見せてっ!」とやってくる。
お調子者の私は、請われるまま彼らにトイレでパンツを下ろして見せていた。
公立の小学四年生の男の子というのは能天気で幸せな人種である。
みんなにとって「秋山のオチンチンに毛が生えた」は一大事であった。
何度も見にくる物好きもいる。

あまりにみんなが度々くるので、いちいちトイレまで行ってパンツを下げるのが面倒くさくなった私は、辺りを見回して先生や女の子がいなければ廊下でもどこでもズボンのチャックから引っ張り出したオチンチンを見せるようになった。
そしてだんだん廻りを気にするのが大雑把になった。

そんなある日、私が密かに恋心を抱いていた街中の学校から転校してきたばかりの愛しのS子ちゃんに、その場を見られてしまった。
S子ちゃんは「なに、この変態!」という目で私を睨みながら、ゆっくりとその場を立ち去った。
「よりによって!」
「違うんだS子ちゃん(——何も違わぬが)、こいつらが見せてくれというから——」
と、声に出して言えるわけもなく、廊下の真ん中でズボンからオチンチンを出したまま呆然と立ち尽くす私がいた。
その時、S子ちゃんと一緒に歩いていたクラスの女の子が、担任の先生に告げ口をした。

職員室に呼ばれ「廊下の真ん中でチンチンを出して何をやっとるんだお前は!」と叱られた。

正直に下の毛が生えてそれを友達に見せたら、他のクラスの皆んなが見に来たので仕方なく見せていたと話した。
先生は大笑いしながら軽く拳固を喰らわせて、私を職員室から解放した。

あれから五十数年の年月が経ったが、S子ちゃんが私に向けた以上に心底軽蔑した目を私は知らない。

我が生涯で忘れえぬ悲しい出来事のひとつである。

編緝子_秋山徹