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平成三十年 小雪

2018年11月22日

スローな食材

スローフードはスペイン広場から

収穫に感謝する新嘗祭

本日22日「小雪」の翌23日は「新嘗祭/にいなめさい」である。

その年に収穫された新穀を食すことを「新嘗」という。

新嘗祭はその年の穀物の収穫を、神と自然に感謝するもので宮中でも儀式が行われる。

初冬は、秋の実りに感謝する祈りの季節である。

最近、料理に関する動画収録の手伝いをさせてもらっているため、食について考えることが多い。

別に歌を詠むわけでもないのだが、季語でも、ついつい野菜や食材にまつわるものが気になる。

初冬の代表的な季語に『大根』があり、下のように「松尾芭蕉」の句にもいくつか大根を詠んだものがある。

菊の後 大根の外 更になし
身にしみて  大根からし 秋の風
もののふの 大根苦き 話哉
鞍壷に 小坊主乗るや 大根引 ※大根引→土から引き抜くことから大根の収穫の意

その呼び名に「コン」という音がある食物が健康に良いという。
大根、牛蒡(ごんぼう)、蓮根、昆布などがそれである。
なかでも大根は「常に食うべし」といわれる。

かつて農村部では晩秋から初冬にかけて、軒下に大根の葉を干して保存食とした。その葉は干菜(ほしな)とよばれ、味噌汁の具などに使うほかに、風呂の湯に入れるとポカポカと体が温まるため、冬場にはこの〝干菜湯〟と呼ばれる湯に入ったという。

先日、くだんの大根を丸ごと一本使った調理を収録した。
大根の葉から皮にいたるまで全てを使って「ぶり大根」「鰈おろし煮」「ふろふき大根」「豚大根炒り煮」の4品が作られた。

これらを作られたのは『分とく山』の野﨑洋光調理長である。料理も素晴らしかったが、野﨑さんのお話が特に面白かったのである。
4品のうち特に、普段は棄てられてしまう大根の葉と皮と、豚肉を使った「豚大根の炒り煮」は見事なものだった。

調理は簡単だ。

・冷たいフライパンに、食べやすい大きさに切った(4cmほど)豚バラ肉を敷く。
・ゆっくり焼いて豚肉の脂が出たところで、一旦豚肉を出す。
・同じフライパンの中に、小口切りにした大根の葉の根元を入れ、次に皮を入れ豚肉の脂で炒める。
・大根が透き通ったら、ざく切りにした葉先の部分を入れ、醤油を垂らして軽く炒め、フライパンに蓋をして蒸す。
・大根の葉がしんなりしたら、先ほどの豚肉を戻し醤油をかけて軽く炒め、最後に七味をかけて皿に盛り付ける。

以上、調理はたったこれだけである。油は豚肉の脂、調味料は醤油と少量の七味だけである。

これで、白いご飯にあい、何より酒の肴にもってこいの一品となる_実際、熱燗にはこの上なかった。
これだけシンプルな調理法でも、野崎さんが作られたものと、自作のものは断然味が違うのだが_

この料理に関して、野崎さん曰く
「大根の皮と葉には、中身の十倍栄養素があります。これを捨てるなんてもったいない。大根の皮と葉を食べていれば、酵素のサプリメントなんて呑む必要ないんですから」
「旬の食材をいただくには、調味料なんてたくさん使う必要ないんです。醤油だけで十分です」

大根の皮と侮るなかれ、なかなかどうして大した滋味・滋養のある食材である。

早速作ろうと考え、近所のスーパーや八百屋を廻ったが、葉先が切られた大根ばかりで、ようやく銀座の百貨店の食品売り場で葉つきの大根を見つけたが、高い大根を買う羽目になった。
後日、神楽坂を歩いていたら、立派な葉付き大根が百円で売っていた。
都内も地域差があるんだなと、妙に感心した。

スローフード

私がイタリアを訪れ出した30年前、時を同じくしてスローフード運動がイタリアで起こっていた。

時間をかけて作られた、安全で滋養のある旬の食材を旬の時期に、ちゃんと調理して、ゆっくり味わおうという趣旨ではじまったもので、運動の拠点がピエモンテ州のエズに置かれて、それが、やがて世界中に広まった。

SLOW FOOD LOGO

この運動と直結するのかどうかわからないが、『スローフード』という言葉の語源について私が聞いた話は

「ローマのスペイン広場前(映画『ローマの休日』で、オードリ・ヘップバーンがジェラートを食べた階段があることで有名_現在は階段でジェラートを食べることは禁じられている_)のある商店が店を畳むことになった。その跡に『マクドナルド』が出店を計画したのである。これにはローマっ子、およびイタリア人が怒った。イタリアを代表する観光地の前に、アメリカのドギツイ色合いの看板で有名なファースト・フード店が出店を計画するとは何事だ。美食大国イタリアにとってあんな食べ物を出す店が、ローマのシンボルのような場所に出店することは屈辱以外の何物でもないというわけだ(_もっともである)。この住民の激しい運動により、『マクドナルド』は出店を断念した。これによりファースト・フード→ジャンクフード、これに対し、真っ当に調理された食べ物→スローフードとして、この言葉が生まれた」

というものである。当時この『スローフード』の誕生プロセスを聞いて、ああイタリアらしい愉快かつ毒のある言葉だなと面白く思ったものである。

そんなイタリアのスローフードを代表する食材が、北東部エミリア・ロマーニャ州モデナにある。

バルサミコへ

編緝子_秋山徹