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アントニオ古賀 美空ひばり

昭和歌謡_其の四十五

「早口言葉」歌謡曲(後編)

『お祭りマンボ』VS『クスリ・ルンバ』

お祭りマンボ

関西を代表するビッグスターが笠置シヅ子ならば、関東を代表、いや日本を代表する、超の付くビッグスターは美空ひばり!! と言い切って、誰からも文句は出ないでしょう。

『買い物ブギー』の大ヒットから2年後、天下の〝お嬢〟はマンボで、歌謡界の大先輩、笠置シヅ子に勝負を挑みました。

『お祭りマンボ』(昭和27年8月15日発売/作詞&作曲&編曲:原六朗)の登場というわけですが、この楽曲は、地名や品名を連呼する歌詞にはなっていません。つまり、落語の「言い立て」とは異なります。……が、〝お嬢〟は、持ち前の滑舌の良さをふんだんに活かし、「早口言葉」のごとく歌詞を、アップテンポなメロディに乗せて、みごとにこの楽曲を、自分のモノ=ひばり節に仕立て上げました。

♪~私の隣のオジサンは、神田の生まれでチャキチャキ江戸っ子
  お祭り騒ぎが大好きで ねじり鉢巻き そろいの浴衣
  雨が降ろうが ヤリが降ろうが
  朝から晩まで お神輿かついで
  ワッショイワッショイ ワッショイワッショイ
  景気をつけろ 塩まいておくれ
  ワッショイワッショイ ワッショイワッショイ
  そーれ それそれ お祭りだ~♪

♪~そのまた隣のオバサンは 浅草育ちで ちょっぴり美人で
  お祭り騒ぎが大好きで 意気な素足に しぼりの浴衣
  雨が降ろうが ヤリが降ろうが
  朝から晩まで おかぐら見物
  ピーヒャラピーヒャラ テンツクテンツク
  おかめと鬼が ハンニャとヒョットコが
  ピーヒャラピーヒャラ テンツクテンツク
  そーれそれそれ お祭りだ~♪

この楽曲が「お見事!!」なのは、〝お嬢〟のようなトップ級の歌手に、お祭り野郎さながら、1コーラス、2コーラス……4コーラスまで、やたら「ワッショイワッショイ!!」と早口に熱唱させた、その直後、
がらりとテンポを抑え、意地悪なほど曲調もムーディに、♪~お祭り済んで 日が暮れて~♪ と、【宴のあと】の悲惨な現実を、リアルに告知させるところですね。

綺麗サッパリ「火事で全焼、風呂場の焚き木と化したわが家」、「盗人(ぬすっと)に入られ、一文無しになったわが家」……を前に、途方に暮れるチャキチャキの江戸っ子どもに、〝お嬢〟は、あえて冷たい口調で、

♪~いくら泣いても かえらない
  いくら泣いても あとの祭りよ~♪

ほんのわずかな同情の片鱗も示さず、ミモフタモナク脳天気なお祭り野郎どもに、世の中の〝当たり前の〟道理を説いて、おしまい。「おあとがよろしいようで」チャンチャン!! てなわけです。

いやぁ、ゾッとするくらい、シュールでしょ? 気がちっちぇ~私などは、『お祭りマンボ』をカラオケで唄うたびに、「いけないいけない、浮かれていては」と、わが身の脳天気ぶりを反省させられますからね。

クスリ・ルンバ

人間、慣れぬ反省を強いられると、たちまち不安になり、夜、眠りが浅くなり、熟睡できなくなります。それが続くと、通称〝ミン剤〟と呼ばれる睡眠導入剤なぞを、薬局で買ってきたりして……。

人間、半世紀以上も生き恥をさらし続けりゃあ、頭のてっぺんから肛門の襞(ひだ)の締りまで、あっちもこっちもガタが来て、十全じゃあなくなるものです。私の場合、目の老化がヒドくてですね。

眼科に定期的に診てもらっても、機能的にはどこも悪くない。「でも調子悪いですよ」と訴えりゃあ、歳の頃ほぼ私と同年輩、昔はさぞ美人だったろうなぁとおぼしき、その【使用済】のサンプルのような女医が、感情のこもらぬ声で、

「老化よ老化。老眼なんだから、仕方ないじゃない」

さも自分に言い聞かせるがごとく、ぼそりとつぶやくのです。

医者になんぞ期待している場合じゃない!! と、若い頃からサプリメントオタクだった私は、ネット情報で「目に効く!!」と書かれているモノは、たいがい試してみました。ブルーベリーにビルベリー、銀杏葉エキスにローズヒップ、ルテインにゼアキサンチン、アスタキサンチンなどなど……。誰かが「効果あり!!」と勧めてくれりゃあ、違う誰かが「まるで効かない!!」と叩く。ネットの書き込みなんてもんは、しょせん無責任極まりません。

ネットの登場の、はるかはるか昔、大阪万博が開かれた翌年になりますかね。その当時だって薬局の店内には、「ゴホンと来たら龍角散!!」やら「咳・声・喉に浅田飴!!」、「クシャミ3回、ルル3錠!!」など、もっともらしい宣伝文句が掲げられ、頭痛薬、胃腸薬、風邪薬、解熱剤、栄養ドリンク、などなど……あまたの市販薬が、所狭しと並んでいたはずです。

中には、いかにもアヤシゲな名称の薬も混じっています。○○ナトリウムやら××マイシンほか、病院の調剤室でしかお目にかかれない【ような】な薬品が、一般に売られていたり……。

「いったいコレ、何に効くんでっしゃろ?」

幼い頃から健康オタク、薬オタクの私は、別段具合が悪くもないのに、昔も今も、ドラッグストアに行くたびに、「ちょいとコレ、試してみようかしらン」てな気分になったりしましてね。

そんな私をオチョクルような歌謡曲が、この当時、発売されまして、そこそこのヒットを飛ばしました。

前回のコラムで取り上げた、古典落語『金明竹』に出てくるチンプンカンプンな品物の名前……同様、レコードが発売当時に、一般の老若男女が「よく知っている!!」はずの、さまざまな市販薬の名前を、ズラズラ、タラタラ並べただけの歌詞を、これまた皆さんお馴染みの『コーヒールンバ』のメロディに乗せただけ。

ただ【それだけ】の楽曲が、何を間違ったか(笑)? ヒットしちゃったんですねぇ。こんな珍妙な出来事は、長い昭和歌謡の歴史でも、この1曲だけでしょうねぇ、まず間違いなく。

かの古賀政男大先生の門下である、アントニオ古賀が昭和46年(1971年)11月21日に発売した、『クスリ・ルンバ』(作詞&作曲:Jose Manzo Perroni/訳詞:不詳)という楽曲です。

アントニオ古賀の名前を聴きますと、昭和歌謡マニアなら、ほぼ反射的に『その名はフジヤマ』(昭和36年(1961年)発売/作詞&作曲:Chucho Navarro/訳詞:みナみカズみ)と、この『クスリ・ルンバ』を挙げるでしょう。というより、歌手としてのヒット曲は、その2曲しかありません。(※2曲もあれば、昭和歌謡史的には、とても凄いことなんですがね^^;)

前者の『その名はフジヤマ』は、日本通としても知られる、世界的に有名なラテン音楽のバンド、トリオ・ロス・パンチョスが、昭和36年に来日した際、「お土産」と称して制作されたものです。アントニオ古賀は、バンドに認められて、日本人の歌手を代表してカバー楽曲を吹き込んだ、という経緯があります。

かれこれ60年になる長い芸能生活の中で、正直、彼は歌手としての実績よりも、ラテン系のクラシックギターリストとしての腕前の方が、数倍、もとい、ウン十倍も有名です。古賀政男の弟子のうち、歌手としてではなく、ギターリストとして輝かしい活躍をしたのは、アントニオ古賀に加えて、あと1人、女優、山本富士子の亭主だった山本丈晴ですかね。

クラシックギターの世界には、アンドレス・セゴビアという神様のような演奏家がおりまして、セゴビアが独自に編み出した「セゴビア奏法」という演奏テクニックは、あまりに難解で、容易に真似など出来ません。……が、アントニオ古賀は、セゴビア本人に認められ、日本人で唯一「セゴビア奏法」を会得したという、まさに〝超凄腕〟のギターリストなんですよ。

その彼が、どういう経緯で、『クスリ・ルンバ』などという、昭和歌謡の楽曲としては、はなはだキワモノ、言葉が過ぎるならばコミックソングをレコーディングするに至ったか? 私にはよくわかりませんけれど……、

一部の噂では、この楽曲が発売された昭和46年、ひさびさに歌手・アントニオ古賀としてヒット曲に巡り会えた嬉しさもあってか、けっこう本気で「この曲で大晦日の紅白に出たい!!」と願っていたようですね。結果は、みごと落選。「歌詞の内容が、NHKの倫理規定に抵触する」そうで。

まぁ、当然といやぁ、当然でしょうね。山口百恵の「真っ赤なポルシェ」がNGなのに、最初から最後まで、市販薬の名称を連呼するだけの歌詞が、歌番組で、それも生放送の「紅白歌合戦」で全国に流せるはずがありません。

♪~アリナミン エスカップ オロナイン パンビタン
 オロナミン グロンサン ルピット チオクタン
 アスパラ サモンポリック ロイヤルゼリー
 リポビタン ルル エース パンシロン マミアン ベンザ
 マスチゲン マムシゲン アクロマイシン キャベジン
 新グロモント コルゲンコーワ クロロマイセチン
 アリナミン エスカップ オロナイン パンビタン
 オロナミン グロンサン ルピット チオクタン
 アスパラ サモンポリック ロイヤルゼリー
 リポビタン ルル エース パンシロン マミアン ベンザ~♪

ふうむ、……困りましたねぇ。こりゃ芸がなさすぎる!! いくらレコードが発売された当時、一般的に「かなり売れた」市販薬だとしても、加えて、そのうちの過半数が、現在でもドラックストアで買えるくらいメジャーな薬品だとしても、その名称をズラズラ並べ挙げただけじゃあ、正直クスリとも笑えません。……と、駄洒落の1つも漏らしたくなります。

それでも『クスリ・ルンバ』は流行りました。その理由の1つは、おそらく、この楽曲のアレンジが絶妙だから、じゃないですかね。

原曲はもちろん、皆さんご存知の『コーヒー・ルンバ』です。日本では1961年に西田佐知子、1992年に荻野目洋子がカバー楽曲を発売し、共に大ヒットしましたけれど、2つの楽曲のアレンジはまったく異なります。歌謡曲の流行り廃(すた)りには、編曲アレンジャーの仕事ぶりが大きく作用するわけでしょう。

さらに『クスリ・ルンバ』に関しては、アントニオ古賀の声質が、じつに伸びやかで、アッケラカンとしているのも、ぎりぎりのところで、この楽曲をコミックソングとして成立させるに十分な〝条件〟になっている!! ……ように、私は感じます。

じつは私、子供の頃からアントニオ古賀の、歌声とギター演奏のファンだったり、します。理由は、私の高校時代でしたかね? 彼がNHKの3チャンネル(教育テレビ)、現在のEテレで長年放映されている、「ギター教室」の講師を務めていたのです。

毎週かならず、その番組を鑑賞し、肝心のギター指導よりも、途中の雑談タイムの際、時おり披露してくれるラテンギターの演奏に、すっかり魅せられました。その当時、私はアントニオ古賀という人が、古賀政男の愛弟子であり、歌手としても〝ちゃんと〟ヒット曲を持っている実績など、知る由もありませんでしたけれど。

まぁ、とにかく『クスリ・ルンバ』が、歌謡曲としてはもちろん、コミックソングとしても〝屁垂れ〟であるにせよ、アントニオ古賀というギターリストは、世界に誇るべき逸材ですので、昭和歌謡史を振り返る際、お忘れなきよう願います。

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

 

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