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令和八年 立春

2026年2月4日 ~ 2026年2月18日

身土不二

そうだ、羊羹作ろう。

緩い小豆羊羹

立春_古い暦では新春である。

新春を迎える前夜の二月三日と新春四日の日付が変わろうとする時、年の行き交うこの一瞬の隙間に、鬼などの魑魅魍魎や邪悪なものが悪さをしようと入り込むのを狙っている。そこで古来より日本では、魔を滅する豆(魔滅/まめ)を撒き、戸口に柊木にイワシの頭を刺して掲げた。今マンションで戸口に生のイワシの頭を掲げていたら、苦情が来ること必至だろう。

この追儺(おにやらい)をやる必要のない苗字の家がふたつある。それは、京の都で暴れていた鬼の酒吞童子を退治した「渡辺綱(わたなべのつな)」と「坂田金時(さかたきんとき)」にちなみ〝坂田〟と〝渡辺〟の氏を持つ家である。鬼はこのふたつの氏の家には恐れ近づかないとされた。両家の子供たちにとってはつまらぬことであったろう。しかし、先日のニュースでは、現在、二月三日に実際に豆まきをする家庭は二割程度だというから、豆まきを実体験する子供自体が居なくなってしまった。保育園や幼稚園ではまだ行なっていそうだが、どうなんだろう。

例年、親爺一人で豆まきでもなかろうと、豆まきの代わりに節分らしい飾り付け、室礼のようなものはやる。父親が趣味で彫った能面の般若面(鬼より怖い女面)と、内部にお多福が描かれた茶碗、柊木、スリコギ、豆を入れた枡といったところである。今年は趣向を変えて、赤い色が邪気を払う豆(魔滅)・小豆で羊羹を作ることにした。

以前、当時「分とく山」の総料理長だった野﨑洋光さんと料理動画撮影の合間に雑談していて、野﨑さんが「餡子なんか簡単だよ」「餡子ができれば、羊羹も簡単」と言っていたのがずっと残っていて、ほぼ隠居生活となった身の〝やるなら今でしょ〟ということで、野﨑レシピを頼りに作ってみた。

野﨑さんの言う通り、時間を手間と考えなければ、やることは少ない。小豆(300g)を軽く洗い、水から鍋にかけ、沸騰したら茹でこぼし、冷水にとる。再度鍋に入れて弱火で小豆の分量の5倍の水(この場合1.5リットル)でコトコト1時間弱小豆が柔らかくなるまで炊く。小豆が手で摘んで潰れるほど柔らかくなったら、小豆と同量のザラメ糖(300g)を入れて豆肌が見えるくらいまで再度コトコトと炊く。塩(5g)を加えて、かき混ぜた時に鍋底が見えるくらいになったら、さらに水飴(50g)を加えて馴染ませテリが出れば餡子の出来上がり。この時点で水分を吸収した餡子は約1キログラムになる。

この餡子を鍋に入れて水(400cc)とザラメ糖(100g)、水にといた粉寒天(5g)を入れて温める。寒天が溶けたら、水に溶かした粉ゼラチン(8g)を加えてさらに火にかけ、ゼラチンが溶けたところで型に入れて冷ませば羊羹の出来上がりである。

大豆のように前の晩から水に浸けておく必要もないので、小豆から餡子を経て羊羹まで四時間ほどの行程であろうか。この四時間が長いか短いか、人それぞれの立場・環境によって違うであろう。隠居状態のわが身であれば、台所で小豆をコトコト煮ている間、読みかけの本を片手にコンロの前に椅子を置いて、これを待つと言うのも、なかなか楽しい時間となった。

この度は四棹ほどの羊羹が出来上がった。羊羹にしては少し緩かったのがご愛嬌だが、自分で作ったものは愛着が加味されて美味しい。四時間の時給換算を除けば羊羹四棹で原価千円程度である。近隣のスーパーマーケットの、保存料と着色料に塗れた商品よりもよっぽど安く安全である。

毎食後せっせとお茶と共にいただく日々が続いている。

元編集者としての性で、小豆について少し調べていたら、二月十日が「世界豆の日」であるそうな。ほぉ、と業界団体「公益財団法人日本豆類協会」のHPを見ていると、豆類の自給率や輸入・生産・消費の動向が大まかに分かった。

小豆の自給率は68%で、国内生産量が圧倒的に多いのが北海道であるが、日本全体の作付面積は平成元年から28年までの間に1/3に減ってしまったという。輸入先の第1位は中国で第2位がカナダ。ここ数年はカナダからの輸入量が増加して、今や中国と同量に近い小豆が輸入されているという。原因としては、中国での餡子の国内需要が急激に伸びて輸入価格が高騰していること。日本由来の小豆を栽培しているカナダの品質が好まれること。これまで中国産との価格差が大きかったものが中国産の価格高騰で価格差がなくなってきたことにある。昨今の中国との危うい関係からすれば、品質も良く価格差も無くなってきたカナダ産の小豆が多くなることは、食品安全保障の面からも歓迎すべきことだろう。輸入小豆のほとんどは、製菓メーカーの餡子に使われる。

次に大豆であるが、こちらは自給率7%と危機感を感ぜずにはいられない。

日本人の大豆の年間需要量は約356万トン(2003年度)だが、この内わずか約26万トンしか国内で生産されず。その国内産大豆のほぼ全てが食品用として利用されている。食品用とは豆腐、納豆、味噌、醤油、煮豆などであるが、食品用大豆全体の自給率は20.6%(2023年3月現在)でしかない。商品別では、 豆腐27%、納豆21%、味噌・醤油は12%となっている。輸入大豆の約70%である239万トンは油用として利用される。こめ油を除く主要な植物油においては、原料の99%以上を海外に依存している状態であるという。(下図参照)

輸入先は、アメリカが約70%、ブラジル約20%、カナダ約10%で中国は1%に留まっているのが救いか。

ビールは豪州、麦焼酎はカナダ

豆類ではなく穀物であるが、小麦と大麦も調べてみた。

麦の全体的な自給率は、2021年度の農林水産省の試算で、小麦が17%、大麦・はだか麦を合わせた自給率は12%となっている。主な輸入先国は、アメリカ、カナダ、豪州の3か国

小麦であるが、原材料として使用される種類は、小麦粉の種類・用途に応じて異なる。小麦粉の種類は、たんぱく質の含有量によって強力粉(パン用)、準強力粉(中華麺や餃子の皮)、中力粉(うどん、即席麺、ビスケット、和菓子)、薄力粉(和洋菓子全般、天ぷら粉)デュラム・セモリナ粉(パスタ)等に分類される。

大麦には主に「二条大麦」と「六条大麦」、「はだか麦」の3種がある。それぞれ二条大麦( 主にビールや焼酎の原料)、六条大麦( 主食用の麦飯や麦茶など)、はだか麦(主食用や味噌の原料)はだか麦の自給率は約80%と高い。大麦の主な国内生産地としては、ビール用二条大麦の主産地である栃木県や佐賀県、福岡県が挙げられる。ビール用大麦は23年に国内で4万2000トン(麦芽ベース)が生産され、輸入量は47万3000トン(同)に上る。
平成28年度の農林水産省のレポートでは、麦焼酎はカナダ産大麦が主で、ビールはオーストラリア産、麦茶はカナダ産、麦味噌は
国内産と大まかに分類されている。

大変、大まかであるが異常が小豆・大豆・麦類の自給率等の現状である。小豆は約70%が国産で賄えているので、安心とはいえないが率を上げる方法はあるであろう。問題は大豆である。日本独自の食文化を支える豆腐・納豆・味噌・醤油の原材料である大豆自給率が20%というのは危機的状況である。また、輸入大豆の大半を占める植物油に関しては、少しでも日本人消費者の意識改革をして米油に転化していくというのでは、あまりに規模が違いすぎるのか。小麦については、戦後の日本人の食生活の大きな変化が色濃く反映されているように思われる。パンや即席麺、ビスケット、パスタは日本人の体に合った健康的な食事であるかどうかを見直す必要性があるだろう。オーストラリアの麦が不作でビールが、カナダで不作で麦焼酎と麦茶が値上がり、気楽に飲めなくなる可能性が大きい。

気楽な能天気親爺は、安直に思う。日本人がこれまで長きにわたって培ってきた、日本の国土・四季に則った食事。なるべく近くの産地の、旬の時期に採れた旬の食材を昔ながらの自家製調味料でいただく。これに出来るだけ立ち戻ることが、自給率を上げ健康で〝適当〟に長生きして逝けるのではなかろうか。

身土不二(しんどふじ)という言葉がある。その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康に良いという考え方で、この場合ハウス栽培の食材は入らない。身土不二は、あくまでも自然の恵みのもの、季節や気候に応じて育ったものは、その地・その時に出来たという理由が大切であるとする。四里四方(よりよほう)という語もある。身近な地域で採れる食材は身体に馴染むため病気になりにくいという意味であるが、東京では額面通り四里の約16キロ四方の食材はスーパーで求めるしかなく思想に逆行する。

子供の頃からの食育が大切なのであるが、目の前の親が朝からパン食では説得力もあるまい。などとつらつら、柔らかめの羊羹をお茶から日本酒に変えていただきながら、うつらうつらの親爺であった。

編緝子_秋山徹