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クール・ファイブ&アローナイツ

昭和歌謡_其の117

 「真夏に鍋!暑っ苦しい〝今〟こそ、アローナイツ」

『中の島ブルース』by 内山田洋とクール・ファイブ

『中の島ブルース』『濡れて大阪』
by 秋庭豊とアローナイツ

あきらめないで』&『さだめ』&『献身』
by 木下あきら

本家とカバーの逆転劇

 ムード歌謡の世界、……スミマセン、今回も続きます^^;。

少し前に『氷雨』という曲を取り上げました。多くのカラオケファンにとっては、日野美歌が放った大ヒットソング! でしょうね。実際、カラオケボックスやらスナックで、この歌を唄おうと思えば、まず間違いなくデンモク(カラオケ端末)で【日野美歌の『氷雨』】を選ぶ……はずです。

でも私が記した通り、日野美歌が唄った『氷雨』は、あくまでカバーであって、『氷雨』の本家! オリジナル歌唱は佳山明生という、よほどの歌謡曲マニアでもないと「誰それ?」な男性歌手でありましてね。

ネット情報によれば歌詞の世界観を「佳山自身が考案し」て、それがどういう経緯か、【とまりれん】なる人物の知るところとなり、【とまり】の作詞&作曲、佳山のデビュー曲という格好でシングルレコードが発売された、……というのが事実です。

これが思ったようには「当たらない」。ただ不思議なことに、ごくごく地味ではありますが、有線放送のリクエストが「ぽつん」「ぽつん」と入る。それも途切れずに……。そこで2年4ヶ月後に再発売、さらに1年9ヶ月後に再々発売、さらに7ヶ月後に再々々発売を試みるも、なかなかドカン! と「当たらない」。

ところがですね。佳山の再々々発売の4ヶ月ちょい後に日野美歌が、デビュー2枚目のシングルとして『氷雨』をカバーして発売したら、まぁ彼女のルックスだったり、なんとも〝あけすけ〟で人懐っこい性格だったり、……の効果もあったのでしょうか? あれよあれよとレコードが売れまくって、気がつきゃ、50万枚突破!

一気に日野美歌は売れっ子歌手の仲間入りを果たすとともに、本家の佳山バージョンの『氷雨』も連動して、ようやく「当たった」のでした。

令和現在、カラオケファンが定番にしているムード歌謡の代表曲のうち、『氷雨」同様、レコードの売れ行き=その曲の世間の認知度、「あ、知ってる!」という意味で、本家とカバーが【逆転】しちゃう現象は、幾つか例があります。

それを、ちょいと紹介させていただきましょう。

まずは、前川清がメインボーカルを務める、内山田洋とクール・ファイブのヒット曲『中の島ブルース』ですね。

クール・ファイブは、福岡県は柳川出身のリーダー、内山田を中心に、お隣の長崎県の繁華街、思案橋横町にある人気グランドキャバレー「銀馬車」のステージで活躍したグループです。同じ長崎は佐世保のクラブの、専属歌手だった前川の人気が上がりつつある頃、内山田は前川をスカウトしてメインボーカルに迎え、長崎の呑み屋だけじゃなく、「全国のお茶の間でも人気の出るグループになろう!」と決意するわけですね。

その動きに目をつけたのが、我が国の老舗ラテンバンド「チャーリー石黒と東京パンチョス」のリーダー、石黒でした。彼のプロデュースで、昭和44年=1969年2月1日、『長崎は今日も雨だった』(作詞:永田貴子/作曲:彩木雅夫)を吹き込んでデビューするわけですが、これがいきなり大ブレイク! レコードの売上累計は150万枚を超えて、この曲はクール・ファイブ最大のヒット曲になりました。

前川清の独特な声質……物真似芸人のネタにもされる、ビブラートを効かせまくりの歌唱法 ♪~おんな ごぉ~おぅおぅおぅ……ころのぉ~♪ ですよね(笑)。〝あれ〟の魅力もあり、そしてまた前川の妙にとぼけたキャラもあり、あっという間にクール・ファイブは超が付く人気グループに成長。

「逢わずに愛して』(昭和44年=1969年12月5日発売/作詞:川内康範/作曲:彩木雅夫)、『噂の女』(昭和45年=1970年7月5日発売)、『そして神戸』(昭和47年=1972年11月15日発売/作詞:千家和也(作詞)/作曲:浜圭介)と順に、みなさんもご存のオリジナル曲を世に送り出すことに。

そして、昭和50年=1975年7月25日発売の『中の島ブルース』(作詞:須田かつひろ、斎藤保(補作)/作曲:吉田佐)……。クール・ファイブのオリジナル曲だと、多くのカラオケファンは感じていまし ょう。なにしろ50万枚以上もレコードが売れまして、オリコンチャートも9位を獲得しましたから。

ところが事実は、さにあらず。〝これ〟の本家はクール・ファイブじゃありません。秋庭豊とアローナイツという、アマチュアながら北海道は札幌のキャバレーやナイトクラブなどで人気を得たグループが、昭和48年=1973年に自主製作盤として7000枚プレスしたレコード! これが正真正銘のオリジナルの『中の島ブルース』になります。

歌詞の中に出てくる中の島は、昔も今も、札幌市内の有名なラブホテル街だそうで、大人の男女の淫靡な欲望がはびこる「中の島」をムード歌謡に仕立て、まぁ、地元出身でその辺の事情をお判りの方は、この曲を聴いたり唄ったりするたびに、思わず口元がニヤついちゃった……のでしょう(笑)。

この曲が有線放送を通じて、じわりじわりと全国にも知れ渡り、レコード会社の関係者が、「札幌以外にも、全国のどこかにありそうな【中の島】って地名と、ラブホテルが集まっていそうな地域があれば、それを歌詞に盛り込んで、ご当地ソング系のムード歌謡として吹き込めば、当たるんじゃねぇか!」と考えたわけですね。

この企画にアローナイツのリーダー秋庭は、すぐに飛びつきました。札幌でしか名前が売れていなかった自分たちグループが、メジャーデビューするには「絶好のチャンス!」だからです。

ただ、この話にはちょいと大人の事情も絡んでいまして。すでに人気が安定しているクール・ファイブが『中の島ブルース』をカバーし、「共作でレコードを吹き込む」話がメイン。アローナイツは、あくまで楽曲の生みの親として「いっちょう絡ませてもらう」ってわけです。

クールファイブの新曲スタッフは、長崎出身のグループらしく『中の島ブルース』の歌詞に、長崎にある【中の島】を「出来りゃあ」……いや「絶対に!」登場させたいわけでして。

ところが、ですね^^;。スタッフが全国あちこち探してみても、目論見通りの【中の島】は、本家アローナイツの曲に出てくる、札幌のラブホテル街しかないのです。

仕方なく、2番の歌詞に登場させる【中の島】は、昔から大阪の中心地、ビジネスでも夜の世界でも有名な「中之島」を拝借しました。ま、こじつけりゃ、昼も夜も多くの老若男女で賑う界隈ですから、ラブホテルの数軒ぐらい、実在するでしょう。それに夜な夜な男女が〝いたす〟場所は、「中之島」に林立する高級ホテルでもよろしいし。

問題は、3番の歌詞に登場させたい長崎の【中の島】です。残念ながら長崎には、そんな地名自体がない、……のです。

さぁて、どうしましょう? となって、……スタッフは、あっさり諦めてしまったようですね(笑)。あくまで大人のファンタジーと言いましょうか、夜な夜な「したい!」男女が彷徨い歩くだろう、架空の地名【中の島】を聴く者の意識に刷り込ませるべく、「そうだ、長崎といえば石畳じゃね?」というわけで、♪~小雨そぼ降る 石畳~♪ という歌詞に。

さらに、長崎のご当地ソングの先輩格、青江三奈のヒット曲『長崎ブルース』(昭和43年=1968年7月5日発売/作詞:吉川静夫/作曲:渡久地政信)……の冒頭のフレーズ、♪~逢えば別れがこんなにつらい~♪ を、笑っちゃうほど〝そのまま〟パクっちゃって、♪~会えば別れが つらいのと~♪

こうして完成したのが、クール・ファイブの25枚目のシングル、そしてアローナイツのメジャー・デビュー曲の『中の島ブルース』です。

♪~赤いネオンに 身をまかせ
燃えて花咲く アカシアの
あまい香りに 誘われて
あなたと二人 散った街
あゝ ここは札幌 中の島ブルースよ

水の都にすてた 恋
泣いて別れた 淀屋橋
ほろり落した 幸せを
あなたと二人 拾う街
あゝ ここは大阪 中の島ブルースよ

会えば別れが つらいのと
泣いてすがった 思い出の
小雨そぼ降る 石畳
あなたと二人 濡れた街
あゝ ここは長崎 中の島ブルースよ~♪

さてさて、本家のアローナイツの面々、……実は〝こちら〟を紹介したくて、今回はわざわざ『中の島ブルース』を取り上げました。

炭坑夫のムード歌謡

クール・ファイブに比べると、かなり知名度は落ちます。いや、ひょっとして、このネットマガジンの読者の皆さんは、誰一人ご存知ないかも?

そうなんです。アローナイツはムード歌謡グループの中でも、まったくもって異端児なんですねぇ。そもそもグループの成り立ち自体が異色です。北海道は札幌のキャバレーやナイトクラブで人気を博した若い衆が、上に記した経緯でメジャーデビューを果たした! のですが、

彼らは全員、元炭鉱夫なのです。

北海道の道央地区にある歌志内市の炭鉱で働く仕事仲間たち。……その中の【歌好き】な野郎どもが数名集まり、歌謡グループを結成し、週末などの休日に札幌のキャバレーのステージで唄う。

いやはや、昭和歌謡の長い歴史の中で、こんな男臭く汗臭く泥臭くワイルドな〝歌手〟は、他に見当たらないでしょうね。

これで【ド演歌】を唄うというなら、まぁ、わからんでもないですが、日々、鍛えまくった肉体で石炭を掘りまくった、……その返す刀で、ムードあふれる艶っぽい男女の恋模様を歌い上げるんですからね。

その分、他の人気のムード歌謡グループの楽しみ方とは、いささか勝手が異なります。まずもって、リードボーカルを務める木下あきら! の声の魅力は、これまで私が何度も訴えて来ました、ビブラートを効かせた、ファルセット(裏声)も含む高音……とは真反対(笑)。よく響きまくる野太い声で、かつドスを利かせまくって、……ふうむ、どう表現をすりゃあイイかな? ぶっちゃけ「オラオラ感」満載(笑)! な歌唱なんですね。

論より証拠、世にも珍しい〝野太い〟ムード歌謡を聴いてもらいましょう。メジャーデビュー後、3枚目のシングル『濡れて大阪』(昭和51年=1976年7月25日発売/作詞:山口洋子/作曲:徳久広司)です。

♪~待っているわと 叫んだ声も
つめたい男に とどきはしない
雨の新地は 流しの歌も
ふられた女の歌ばかり

アアアー濡れて大阪
アアアー濡れて大阪
あなたあなた愛して 涙のぶるーす

どこにいるのと 夜風にきけば
ひとりで飲んでた いつもの店で
嘘よ昨夜は あの娘といっしよ
肩よせあってた 御堂筋

アアアー濡れて大阪
アアアー濡れて大阪
あなたあなた愛して 涙のぶるーす~♪

え~とぉ、……たはは、実に実に暑っ苦しい~歌声でしょ^^;。今の〝この〟の猛烈な残暑、異常な熱帯夜の中で、ある意味、一番「聴きたくねぇ~!」メチャメチャ不快感300%! の歌謡曲かもしれません。

でもねぇ、二度三度、聴いてみて下さい。暑い夏に全身汗みどろになるのを覚悟で鍋を食し、しばし後、汗が引いていく時の、アノ得も言われぬ心地良さに似ている、……と言いましょうかねぇ。

あ、そうそう、伊豆大島のくさや! 絶対駄目な方はゴメンナサイして、……いわゆる「癖になる!」味ってやつですよ~(笑)。ひょっとして「これが無いと……」と病みつきになる人も出てきましょう。

木下の〝見かけ〟がまた、アチラの世界の御仁そのもの! なのも、アローナイツの特異性を際出たせてますよね。

でも、この特異性こそが、彼らの魅力中の魅力でありましてね。地味ながら、令和のカラオケマニアの中にも、アローナイツの楽曲を愛するコアな皆さんは、私も含めて結構多いのも事実です。

リーダーの秋庭が癌で早逝して以降、何度もメンバーの出入りが生じ、現在では木下が1人、「アローナイツの木下あきら」という触れ込みで、ドスを利かせまくりで熱唱しています。

『あきらめないで』(昭和55年=1980年10月発売/作詞:たかたかし/作曲:徳久広司)、『さだめ』(昭和57年=1982年7月発売/作詞:さいとう大三/作曲:四方章人)、『献身』(昭和52年=1977年9月発売/作詞:山口あかり/作曲:徳久広司)を、勝手にアローナイツ三部作と呼んでますが、

どの歌も、他のグループの人気ボーカル……、たとえば前回取り上げたロマンチカの三條正人あたりの〝やわ〟な声じゃ、これらの曲の魅力が十分に表現されません。

わりかし最近(6年ほど前)の、木下あきらの動画(三部作をすべて歌っています)を貼っておきましょう。

〝これ〟をご覧になった皆さんの表情を想像しつつ、今回はこの辺で御仕舞。

『あきらめないで』
♪~あきらめないで いやよいやいや
ふたりの恋を あきらめないで
指をきりりとかめば血がにじむ
うわさなんかにゃ負けたくないわ
強く 強く 強くv
もっと強く 私を抱いて~♪

『さだめ』
♪~雨の降る夜は ひとりしずかに
膝をかかえて 待ってます
熱いコーヒー ほほにあて
あなたを待ってます
好きなのよ 死ぬほどに
あなたがすべて わたしのすべて~♪

『献身』
♪~どしゃ降り雨に 傘もなく
あなたを探して 歩いていた
浮気な風に 誘われて
今夜もきっと 帰らない
あんな男と いわれても
この世で一人 ただ一人
尽して 尽して みたいから
諦めないわ 愛したい
女って男で 変るのよ~♪

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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