令和八年 立秋
厠の攻防

ウギャーッ!
えっ、電池切れ
立秋_暦は秋である。酷暑の中、秋ですよと言われても、違和感満載の昨今の気象状況である。
7月28日には猛暑の中、熊本で大きな地震があった。先の地震からわずか十年しか経ていない中での再来である。自然災害は時と場所を選ばず容赦無く起こり、無慈悲である。奇しくも137年前の1889(明治22)年の同日7月28日に、やはり大地震が熊本で起こり熊本市内で数百棟が全半壊し、熊本城も大きな被害を受けた。被災地の方々に「頑張れ」と安易に言えない。復興を祈るのみである。
大暑のコラムに熱中症に罹ったと書いたが、それ以降体調が優れない。両膝に水が溜まり、10日ほど杖なしでは歩けなかった。ようやく歩けるようになったと思ったら、先週末から右膝が痛み出して再び杖生活である。若い頃の不摂生が祟り、今になって体を痛めているようだ。因果応報、悪因悪果である。だって、こんなに長生きする気はなかったんだもん。と、甘えてみても誰も助けてくれないのだ。
二日前のことである。夜中の二時頃、毎度の夜間頻尿で起きた。トイレに行くのも一苦労である。足が悪いこともあって小水も座ってすます。と、壁に取り付けてあるウォシュレットのリモコンのノズル清浄の赤いランプがついているので押してみた。ウンともスンとも言わない。通常のお尻洗浄スイッチを押すと通常通り水が出る。大丈夫だなと水を止めようとしたら止まらない。ずっと肛門を攻撃されたままである。どのスイッチを押しても水は止まらない。点灯している赤いランプをよく良くみたら、それは、電池切れのサインであった。教訓一_老眼鏡を外した状態でよくわからぬスイッチを押すな。
どうも、もうすぐ電池切れだぞと知らせる警告であったのが、お尻洗浄のスイッチを押した瞬間に完全に電池切れとなったらしい。夜中の二時である。昼間でも霧が霞んでいる頭は、余計に霧中である。しばし肛門に水を当てられながら、どうしたらこの水は止まるのか考えた。あっ、そうだ。便座自体の電源を切れば良いのだ。見渡すと便器の右後ろにコンセントがあり、便座のコンセントが刺さっている。「ソロリソロリ」と右腕を伸ばすが、あと少し届かない。少し腰を捻って手を伸ばすが、わずかに届かない。思い切ってさらに腰を捻ったら、ついでに痛い右膝まで捻ってしまった。「ウッギャー」夜中にトイレに響く断末魔の叫び。荒い息でどうにかコンセントを引っこ抜いたら水は止まった。
次にリモコンの電池を替えなければならない。ところが引っ張ても、左右に動かしても。上下に上げ下げしてもリモコンは壁から離れない。「エイヤッ」と手前に強く引っ張ったら、取付金具ごと壁から抜けてしまった。「ありゃま」と留め具とリモコンを外して電池収納の蓋を開けると、単三電池が二本。「ヨッコラショ」と杖を頼りに立ち上がりトイレを出て、電池類を収納している棚へ。「ゲッ」単三が一本もない。単四は20本以上あるのに、このバランスの悪さよ。霞む頭で一思案、そうだと「パチン」と手を叩き、入院中の家人の部屋に行って、普段使っていないエアコンのリモコンから単三電池を抜く。あー足が痛い。「ヒョコヒョコ」とトイレに戻りウォシュレットのリモコンに電池を入れる。
「アッ」留め具を付け直すためのドライバーを忘れた。またトイレから出て、工具箱からドライバーを取り出して、トイレへと戻る。いちいちが「ヨタヨタ」と爺様歩きで覚束ない。トイレの壁に留め具を付け、リモコンを収める。尻洗浄のスイッチを入れたり止めたりして、正常に動作するのを確認して、一件落着である。時間は午前三時に近い。しかし、文字に起こせば随分な字数であるが、健常者の動作であれば15分とかからぬであろう。「ウーン」一件落着とは程遠いな。すっかり目の醒めてしまった私は寝床に横たわり、膝治療を決心したのであった。決心したのは良いが肝心の費用が賄えぬ「トホホ」。
前文までの「」で括った文字は、擬音語・擬態語の〈オノマトペ〉英語の綴りはonomatopeia 、元々はギリシャ語の〈名前〉を意味するonomaと、〈造る〉のpoienが合体したもので、元の意味そのものが〈造語〉である。日本語はこのオノマトペの種類が多く。日本語習得を難しくするひとつの要因ともいわれる。
と蘊蓄を書いても、いつもながらのコラムの軽さは隠しようもない。酷暑の中、復旧作業にあたる被災地の方々やボランティアの方々に顔向けできぬ軽薄さである。
そこで今回は短い文章で、申し訳なさいっぱいで筆を置く。
実は膝が、それはとてもとても痛いのです。
編緝子_秋山徹












































































































































