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令和八年 霜降

2026年10月23日 ~ 2026年11月6日

藁塚

アルベロベッロ

天然素材のジャングルジム

霜降_実りの時期。穀物や果実、木の実や草の実も収穫を迎える時期である。日本人にとって最も重要な稲の収穫、稲刈りの季節である。

稲刈りの後の田圃には、茶色の土と稲の切り株が続く。
以前も書いたが、稲の脱穀が終わると、いよいよ我々のメイン〝藁にお(藁塚)〟の登場である。〝藁にお〟は、脱穀後の稲藁を円錐形に高く積み上げたもので、小学生の頃の私には天然素材のジャングルジムだった。地方によって形が違うようで、私の田舎の〝藁にお〟は、円筒形に藁を組んだ土台の上に、屋根のように藁が葺かれていて、遠目には小さな小屋のように見える。〝藁にお〟のイメージとして一番近いのが、イタリア半島の長靴の踵の付け根あたり、プーリア州の世界遺産アルベロベッロのトゥルッリである。白くて小さな家が並んでいる様子は、〝藁にお〟が田圃ごとに立っているのに似ている。

この格好の遊び場を小学生が黙って見過ごせようか。〝藁にお〟の天辺に挙って上り、後から来る子を落として、天辺を我がものにせんと競い合う。落とされても落とされても、チャレンジして天辺の制覇を競うのである。楽しい、非常に楽しい。我を忘れて遊んでいると、やがて田圃の持ち主の爺いが怒鳴りながら現れて、我々は蜘蛛の子を散らすように田圃を後にするのである。やがて田んぼは夕簿に包まれる。

夢中になる〝藁にお〟遊びであるが、唯一の欠点が風呂に入ると身体中がチクチクすることである。藁の切り口が、身体中に目に見えぬ細かい傷を作って湯が沁みる。私は小学校の間一年中半ズボンであったので、余計に沁みる部分が多かった。思えば無駄に元気な小学生であった。

稲刈りの終わったばかりの田圃は、まだ草の匂いがする。切り株と剥き出しになった土にもまた、草の香りが漂っている。
農家は、乾燥の終わったばかりの新米を食べるが、それにも昔は草の香が漂ったそうだ。
新米も まだ艸の実の 匂ひ哉
という蕪村の句がある。

暮れなずむ夕墓に、子供らの遊び道具となった〝藁にお〟が並んでたたずむ。秋の冷ややかさが「身に入(し)む」。誰もいなくなった田圃のもの悲しさが秋の柄である。
芭蕉に、
野ざらしを 心に風の しむ身かな
があるが、こちらは爺いとなった我の「身に入む」。

と、秋が深まった我が身の周りを想定して書いていたら、二日前の十月二十一日全国的に気温が上昇。大阪ではなんと30度を記録し、観測史上最も遅い真夏日となってしまった。秋の情緒はどこに行った。せっかくこっちが、秋の侘しさ、もの悲しさを書いておるのに、目の前をTシャツ短パンの親爺が通り過ぎる。
責任者出てこい!

ああ!痛恨のシャインマスカット

果実の美味い秋である。とくに私はシャインマスカットに目がない。今年のシャインマスカットは出来が良いようで、初出あたりから安くて美味いのが出回っていた。

早速八百屋で買い求め、冷蔵庫に常備した。房から実を外して大きめの器に入れて野菜室に入れる。毎食後だけでなく、しょっちゅう冷蔵庫の扉を空けて実をつまむ。家人の友人の実家が長野でシャインマスカットを栽培しており、これがまた実がデカくて旨い。一房お裾分けでいただいたものも、冷蔵庫に入れてバクバク喰った。無くなって了えば、すぐにまた補充である。

さて、半月ほどシャインマスカット中毒者の生活を続けておったら、背中に大豆ほどのしこりが—次の日には消えていたので何かなと思っていたら、今度は尻に三つほど、これも半日ほどで消えた。が、次に太ももに出たものは、広範囲で小豆の数も多く赤く腫れている。これが数時間で消えたと思ったら、二の腕に出て、これまた数時間で消える。以降、短時間の間に、尻、内腿、脹脛と地図状のものが移動しながら出ては消えを繰り返した。

これはイカン!と、症状を元に調べた。

原因は二つに絞れた。もうお分かりのようにシャインマスカットが一番怪しい。二番目は、二ヶ月前から服用している自然免疫の暴走を抑え、痛風発作を防ぐ〝コルシチン〟。

自由が丘の医師(最近の主治医)に連絡すると、すぐに来いという。おっとり刀で急ぎ行くと、私がスマホで撮った画像を見て、やはりこれは薬剤ではなく、シャインマスカットによるアレルギーであろうということだった。

診断は、蕁麻疹(じんましん)を伴う血管性浮腫(けっかんせいふしゅ)と出た。

血管性浮腫とは、蕁麻疹よりも体の深いところで起こるアレルギー反応—と、書いたメモを目の前に突きつけるのが、我が主治医の特徴である。

今までシャインマスカットを食べてもアレルギー反応は出なかったのが、この数年頻繁に出た痛風発作と、鎮痛剤ボルタレンの飲み過ぎで、体が弱っているので今回はアレルギー反応が出てしまったのでしょう、という説明を受けた。

シャインマスカットを食べるのをやめ、処方された抗アレルギー剤を飲んだら、次の日から今日まで浮腫と蕁麻疹は出なくなった。

ああ!またひとつ大好きなものが、私の人生から消え去ってしまった。
ショックで筆を置く。

編緝子_秋山徹