令和六年 霜降
人が減る

蒼ざめる現実
鳥も戸惑う
霜降_山に走りの霜が降り、やがて野にも降りて秋もめっきり深まりゆく。
と、秋口の情緒を肌で感じる時候というときに、この霜降の直前の10月19日に気温30度越えの〝真夏日〟を体験するとは思わなんだ。観測史上最遅の真夏日であるという。南へ北へと交差する渡り鳥も戸惑ったのではあるまいか。
古来日本人は花鳥風月に季節を愛でてきた。例えば鳥は『万葉集』に古くから歌われる。その数、不如帰(ほととぎす)150首、鶯(うぐいす)51首とあり、この二鳥に並んで二番目に多いのが渡り鳥の雁(かり・がん・かりがね)の67首である。さすがに花(桜)と共に日本人に愛される春告鳥の不如帰の歌が圧倒的に多い。
『万葉集』の雁の歌に柿本人麻呂の
雲隠り 雁鳴く時は 秋山の 黄葉片待つ 時は過ぐれど
[雲に隠れて雁が鳴くときは、秋山の紅葉がただ待たれる。もうすっかり、そんな季節になっているのに]
が知られる。
雁といえば、「クワッカカッ、クワッカカッ」という鳴き声とともに、整然と隊列を組んで飛ぶその姿「雁行」を目にして、日本人は秋の到来を知った。
この整然とした隊列「雁行」が乱れているのを見て勝利した戦が平安の世にあった。それは、寛治元(1087)年、奥羽地方で起こった戦い「後三年の役」のこと、源義家(八幡太郎)は、雁の揃った編隊が突如乱れたのを見て敵の待ち伏せ・要撃作戦を察知し、一気に数万の大軍を攻め入れることで勝利を得た。森羅万象に気を配らなければ、数万の兵を預かる大将は務まらぬということだろう。
さて、このところ衆院選候補の街宣車が街を交差している。
大きな論点のひとつに、少子高齢化に起因する日本の人口減少問題がある。そして、この人口減により不足する労働力を、政府が安易に外国人に求めた結果起こるであろう、もしくは、すでに起こっている移民問題にもつながる。
現在進行形で起こっている日本の人口減少問題_大変なことだと朧げに思うが、実際、どの程度のものかを知らない。具体的な中身を知らずに心配しても不毛であるので、現実の数値を政府の公式発表のもので調べてみた。
調べて吃驚
まず、2024年1月時点の「総務省・住民基本台帳」による日本の総人口数は1億2488.5万人(前年比約53万人減)である。
古来日本人の人口はいかばかりであったのかを探ると、弥生時代が約60万人、奈良時代(725年)で450万人、平安時代前期(800年)550万人、平安時代後期(1150年)683万人、江戸時代初期(1600年)1,227万人、江戸時代後期(1846年)3,297万人と推計されている。(鬼頭宏『人口から読む日本の歴史/講談社刊』)
存外、少ない人口であったのだなと思う。
一番古い総務省の統計、明治五(1872)年の人口調査では総人口3,840万人で現在の約3.6分の一であった。これが現在の約半分の6,074万人となったのが昭和元(1926)年のことである。
その二十五年後の昭和二十五(1950)年8.411万人。
以降は順調に毎年約100万人ほど増え続け。
昭和四十二(1967)年には初の1億人を超え。
平成十二(2000)年には1.26億人と現在とほぼ同レベルである。
人口のピークは平成二十(2008)年で1.28億人であるが、以降減少が続く。
明治五年/1872年 | 38,400,000人 |
昭和元年/1925年 | 60,740,000人 |
昭和25年/1950年 | 84,110,000人 |
昭和42年/1967年 | 100,000,000人 |
平成12年/2000年 | 126,000,000人 |
平成20年/2008年 | 128,000,000人 |
令和5年/2024年 | 124,885,000人 |
減少傾向は、2010年までは10万人以下であったものが、2012年20万人、2016年33万人、2017年44万人、2020年53万人、2021年63万人2022年70万人、2023年85万人と年々減少人数の歯止めが効かない状態となっている。(数値は出生数から死亡者数を引いた自然増減数)
かなりの減少数だと思うが、今少しピンとこない。
次に国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の数値.を見て愕然とした。
まず、今からわずか24年後の2048年には1億人を切るとある。
そして、2070年7,590万人、以降10年毎に約1,000万人が減り続け、2080年6,587万人、2090年5,769万人、2100年4,951万人、2110年にはなんと4,286万人、2024年現在の人口のほぼ3分の一までに減ると推測されている。
2048年 | 99,131,000人 |
2070年 | 75,900,000人 |
2080年 | 65,870,000人 |
2090年 | 57,690,000人 |
2100年 | 49,510,000人 |
2110年 | 42,860,000人 |
日本の人口は、明治の初期(1872年)に約4,000万人だったものが、百年(1967)たらずで1億人に、そこから約150年を経て約4,300万人と元の人口数に戻ってしまうという。もちろん人口が多ければ良いというものではなかろう。日本には、その可住面積、農耕地、資源に見合った人口数というものがあるだろう。その数がどのくらいであるのか私には見当もつかないが、日本人が人智・総力を挙げて適正で健全な人口数を算出し、それに見合った政策を施していくことが、これからの日本の命題となることはわかる。
日本がこのような人口減であるのだから、世界的にも減少傾向にあるのかと、しかしそれは地球全体の環境保全及び限りある資源にとっては良いことかと思っていたら、豈図(あにはか)らんや、現在78.4億人の世界の総人口が2100年には103.5億人になると推計されているのである。その内訳は先進地域は現在の12.7億人から11.5億人とほとんど横ばいであるが、後進地域が現在の50億人から91億人とほぼ倍増するとされている。
地域別ではアフリカ地域が13.6億人から39.2億人の3倍と飛躍的である、アジア地域は46.6億人から横這い、南米地域6.5億人とこちらも横這い、北米地域が3.7億人から4.5億人と0.8億人ほどの増、ヨーロッパ地域は7.5億人が5.9億人へ減、オセアニア地域4300万人が6900万人である。
国別で顕著であるのが、アフリカ各国がナイジェリアが2億人から5億人へと増加するのを筆頭に、軒並み急激な増加傾向にある。アジアではインドが現在14.1億人から15.3億人へと1億人増加する中で、中国の人口が14.3億人から7.7億人へと6億人も減少するというのが意外であった。中国の人口減少は日本同様深刻なのではあるまいか。
2020年 | 2100年 | |
世界総人口 | 78.4億人 | 103.5億人 |
アフリカ地域 | 13.6億人 | 39.2億人 |
アジア地域 | 46.6億人 | 46.7億人 |
インド/2022- | 14.1億人 | 15.3億人 |
中国/2022- | 14.3億人 | 7.7億人 |
南米地域 | 6.5億人 | 6.5億人 |
北米地域 | 3.7億人 | 4.5億人 |
ヨーロッパ地域 | 7.5億人 | 5.9億人 |
オセアニア地域 | 0.4億人 | 0.7億人 |
日本の人口に話を戻そう、先の「日本の将来推計人口」では2070年の推計以降、15歳以下9%、16歳から64歳50%、66歳以上41%の割合で固定されている。日本の人口減少が抗い難いものであるのなら、この世代間の割合を66歳以上の%を減らし、現役世代と子供の割合をもっと押し上げる努力が必要であろう。
いたずらに長く生きらえることを寿ぐ「長寿」はすでに〝死語〟である。「国民百歳現役社会」など地獄そのものであろう。現役を終えたら良い頃合いであの世に行こうではないか。そうすれば年金支給期間も短く、医療・社会保険料がぐっと減り、現役世代への負担を減らせる。減った負担分が彼らの可処分所得にまわる。これは私自身七十の齢「古稀」に近い老人であるので言うことができる。各人が昔のように七十歳は「古く稀」な年齢の老人であることを自覚すれば、世の中良い方向に変わるのではあるまいか。
とにかく若い現役世代が不安なく子供を産めるような日本になってほしい。1985(昭和60)年から2023(令和5)年では出産数が143万人から72万人と半減してしまった。また、出産時の母親の世代が1985年には二十代65%、三十代33%だったものが、2023年では二十代33%、三十代60%と完全に逆転。40歳から44歳が0.6%から6.3%と、少子化と母親の年齢の高齢化が進んだ。これは、子供を持ち育てる金銭的な余裕が若い二十代の家庭では難しく、ある程度の余裕が生まれる三十代四十代前半まで待たなけらばならなくなったからであろう。高齢化が悪いのではない。二十代での出産が増えれば増えるほど子供・将来的現役世代の層が厚くなり、人口減でも明るい日本の将来が見えてくるのではないだろうか。
青年よ、書を捨てよ、街へ出よう。
老人よ、とにかくあの世に急げ。
編緝子_秋山徹