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杉本眞人

昭和歌謡_其の八十四

コロコロ転がりだす前に、決められた運命

『転がる石』
by 石川さゆり&すぎもとまさと

『忍冬』
by 因幡晃&すぎもとまさと

『ベスト&ベスト』杉本眞人

Like a Rolling Stone

ここ数回、大塚博堂という、歌謡曲を〝それなり〟に聴き齧って来られた方で も、「ほぉ?誰かいな?」と首を傾げてしまうだろう……けれど、音楽業界的に は〝けっこう〟評価が高かった、歌手&作曲家を採り上げました。

まぁ正直、大塚の音楽的業績を振り返るよりも、プロ歌手としてデビューして以降の、彼の不遇なキャリアと不幸な早逝について、90歳の爺(失敬!!)にして、いまだ現役バリバリの研究者であり、ノーベル物理学賞にも輝いたプロフェッサー真鍋氏との、人生の「上がり双六(すごろく)」明暗比べ、みたい な、……いささかナマグサイ方向に話が流れましたね。

どんな人間にも、将来の夢というヤツはあるはずで、その夢が現実的に成就されようが、されまいが、本人がガキの時分に「○○になりたい!!」と願うこと自体は勝手です。

人生にはゴールよろしく、双六ゲームの「上がり」があれば、双六の「1発目 のサイコロ」を振るタイミング&状況というのも、当然ながら、あります。

最初に振ったサイコロの目が、【1】か【6】の違いなんざ、来年に還暦を控える私のごとく禿げナス野郎からすりゃあ、「どうってことない!!」とハッキリ言い切ってしまえるわけですが、

いざ生まれて初めてサイコロを握らされた、若い諸君の胸中を慮れば、その〝1発勝負〟で「俺の人生のすべてが決まる!!」ぐらいの、強烈に思い詰めた情動がたぎりまくるだろうと思います。

つい先日、カラオケ好きのお袋に、リハビリがてらyou-tubeの音源 で、昭和歌謡を聴かせまくっていたところ、演歌歌手のビッグスター、石川さゆりが歌唱する、こんな楽曲と出会ってしまいました。

♪~十五は胸を患って 咳きこむたびに血を吐いた
十六 父の夢こわし 軟派の道をこころざす
十七 本を読むばかり 愛することも臆病で
十八 家出の夢をみて こっそり手紙 書きつづけ

ああ ああ ああ ああ…
転がる石は どこへ行く 転がる石は坂まかせ
どうせ転げて行くのなら 親の知らない遠い場所

怒りを持てば 胸破れ 昂(たかぶ)りさえも鎮めつつ
はしゃいで生きる青春は 俺にはないと思ってた
迷わぬけれど このままじゃ 苔にまみれた石になる
石なら石で思いきり 転げてみると考えた

ああ ああ ああ ああ…
転がる石は どこへ行く 転がる石は坂まかせ
どうせ転げて行くのなら 親の知らない遠い場所~♪

良い悪いは抜きにして、こんな理屈っぽい歌詞を、平気な顔して歌謡曲に仕立てようと企む野郎は、たぶん、いや、きっと、〝あの〟人相の極めて悪いオッサンだろうなぁと思いきや、やっぱりビンゴ(笑)!! 阿久悠でした。

作曲は、歌手としても『吾亦紅』を唄って紅白に初出場した、杉本眞人です。 タイトルは『転がる石』で、平成14年3月25日に発売された、石川さゆりのシン グル楽曲になります。
この、なんとも〝純文学〟チックな歌詞を、いかにも「流れ者」っぽい演技を濃厚にまとわせつつ、あえてベランメェ調に唄う、さゆりの歌声は、如何せんお上品すぎて、少しも惹かれるモノを感じないばかりか、「何故こんな楽曲を持ち歌にしようとしたのか?」……プロデューサーの見識を疑いました。

ただ歌詞の途中に出てくる、♪~十七 本を読むばかり 愛することも臆病 で~♪ と、♪~どうせ転げて行くのなら 親の知らない遠い場所~♪のくだりに、何故か、ちょいと胸の奥が〝ザワッ〟と──来たんですねぇ。

ついでに、学生時代に夢中になってむさぼり読んだ、中原中也の有名な詩『汚れちまった悲しみに……』の一節が、ふと、口を衝いて飛び出しました。

汚れっちまった悲しみは なにのぞむなくねがうなく
汚れっちまった悲しみは 倦怠(けだい)のうちに死を夢む
汚れっちまった悲しみに いたいたしくも怖気(おじけ)づき
汚れっちまった悲しみに なすところもなく日は暮れる

中也は、誰から見ても天才でした。おまけにイケメン。ただ人間の出来は、クズ中のクズ!! 破天荒といえば聴こえはよろしいですが、要するにキチガイそのもの。周囲の者を「すべて不幸にしてしまう」という事実において、同じく天才肌の歌人、石川啄木と双璧でしょうか。

中原はフランスの詩人で、同じくキチガイ同然の天才、アルチュール・ランボーに憧れたようですが、判るような気がします。

このタイプの文学者は、自殺、病気問わず、人生の最期は〝早逝〟と決まっています。中也は30歳、啄木は26歳、ランボーは37歳。3人が3人共、その抜きん出た【才】を、文学関係者たちに惜しまれつつアノ世へ旅立つのですが、本音じゃみんな、大いにホッとするのです。コイツらとツルむ日常は、当然ながら「面倒で煩わしいことばかり!!」だったからでしょう。

ガキの時分、地元という、あくまで限られた狭い範囲内で、勉強およびスポー ツ、加えて音楽や絵画や演技などの芸術&芸能に、抜きん出た【才】を発揮し、 周囲からは「末は博士か大臣か?」だの「第2のイチローや大谷翔平」だの「乃木坂46に入りゃ、間違いなくセンター歌手候補」だのと褒めちぎられまくりながらも、実際、大人になったら「ただの人」ってパターンは、全国各地ごろごろ実在します。つーか、大多数の人間の未来が〝そう〟なんじゃないですかね。

上の歌詞の通り、石がいったん転がり始めりゃ、大概は、自分の望む向きと は、何故か違う方にばかりコロコロ……コロコロ……。気が付きゃ「ここはどこ?」「アタシは誰?」ってな現実が、目の前で待ち受けているものでしょう。

中には、自分という石が、まだ転がりだす前の段階、つまり、この世にオ ギャーと生まれ出て、親に名前を付けてもらった時に、すでに「嗚呼、アタシの 人生は決まっちゃった」と、あきらめてしまう……そんな〝絶望的な〟女の歌も、 歌謡曲にあるのです。

捻ねた名前で出ています

作曲したのは、たまたま偶然にも『転がる石』と同じく、杉本眞人センセイで したね。

忍冬(すいかずら)
歌唱:因幡晃/発売:1985年4月21日/作詞:ちあき哲也

♪~だって いつかこじれて 駄目になるより
恋の匂いさせずに そばにいたいわ
(中略)
もっと楽な生き方 してもいいのに
なぜか わざと淋しい道をえらぶの……
今日は 今日の傷みが胸をしめても
ひとり席を立つまで 泣きはしないわ

ばかなのね 古いのね
死ぬまでひそかに 愛するなんて

だけど……

忍(しのぶ)という字は 難しい
心に刃(やいば)を乗せるのね
時々心がいたむのは
刃(やいば)が暴れるせいなのね

いとしい花なら 忍冬(すいかずら)
夏でも秋でも春の日も
どうして わたしのいとしさは
忍(しのぶ)という字がつきまとう

Lai Lai Lai…… Lai Lai Lai……~♪

アタシが【忍】って名前の女でいるかぎり、どう抗ってみても、【心】の上に乗っかった【刃】が、時々かならず、アタシの胸をちくりちくりと突き刺すのよ ね^^;。

ふうむ、作詞家のちあき哲也先生、アンタ、じつにベリグー!! 何ともウメェことに気付かれましたねぇ~。……と、初めてこの楽曲を聴いた時、思わず唸ってしまいました。日本語って、もっと言うと漢字って、実に魅力的かつショッキン グな言語ですね。

まさか、わが愛しき娘が、自分たちが100%夾雑物なく「良かれと思って」命名した〝忍〟という文字によって、これほどまでに切なく苦しい生き方を強いられているとは、親はまず〝これっぽっち〟も想像だにしないでしょう。

それにまた、命名された本人も本人でさ、多分に被害妄想的な感覚で「悲劇のヒロイン」を気取ってやがンじゃねぇの? と意地悪な見方も出来ますが──。

でも、私にも、十分すぎるほど思い当たるフシがあるのです。

当サイトで公表している【勝沼紳一】は、恥ずかしながら私の生まれ持った本名であり、筆名でもありますが。正直言うと、この名前……特にガキの時分、 「ちょー嫌!!」でした。

まずもって【勝沼】って名字の字体が、なんかカクカク角ばっていて、醸し出す印象が堅苦しくってしょうがない。まったくもって、〝まろやかさ〟に欠けま す。おまけに下の名前が【紳士】の【ナンバーワン】です。命名に、ほんの僅かな遊び心ってなモンも、哀しいかな、綺麗さっぱり存在しません。

野暮です。不粋の極みです。真面目な名前過ぎて、命名された当人は、「糞面白くもねぇ!!」気分を引きずりながら、来年還暦を迎えます。

私が生まれた昭和37年当時に、渡辺紳一郎という、やたら物知りなタレント博士がいたそうな。「すごく賢い先生で、渡辺紳一郎にあやかって、アンタも偉く なれますように……」と、幼い日々、母親から何度も何度も、この話を聴かされるたび、少しも胸躍らず、愉快な気持ちになれず、内心「嗚呼、僕の毎日は、ただ 脳天気に面白おかしく、ゲラゲラ笑いながら生きちゃいけないのね」と、はなはだうんざりしたものです。

ちなみに渡辺紳一郎センセイは、NHKテレビの人気クイズ番組『私の秘密』 のレギュラー解答者の1人。司会が〝あの〟高橋圭三で、毎回、番組の冒頭に告げる、「事実は小説より奇なりと申しまして、世の中には変わった珍しい、ある いは貴重な経験や体験をお持ちのかたがたくさんいらっしゃいます」てな台詞は、流行語にもなったそうですが。

大学を出て売文家の端くれになり、生まれて初めて某エロ月刊誌という、書店で〝ちゃんと〟売られる商業誌に連載コラムの頁を持たされた時、そりゃあ嬉しいのナンの!! 編集長に「ペンネームはどうする?」と訊かれ、メモ紙に「彬し んいち」と記しました。俳優の中尾彬が好きだったから、だけの理由でしたけれ ど、本名の【勝沼紳一】以外の名前なら、正直、何だって良かった気もします。

ところが編集長は、何故か【彬】の字から、勝手に【木】を1本取り外しちま いやがって、初原稿が載った雑誌を見ると【杉しんいち】となっていました。

以来、私は仕事現場では、どこでも「杉クン」「杉さん」と呼ばれ、本当は 【彬しんいち】なのに、ブツブツ……。本名の【勝沼紳一】同様、「糞面白くも ねぇ!!」気分を引きずって、ライター稼業を続けました。

平成4年の春、月刊『小説CLUB』という、のちに倒産する出版社・桃園書房から刊行されていた、「エロも推理もSFも時代小説も何でもござれ!!」のエンタメ系文芸誌に、初めて400字原稿用紙で50枚の「読み切り小説作品」を載せてもらえることになりました。今度こそペンネームは〝ちゃんとした〟名前を付けたい!! と強く望んだのですが……。

編集長が「キミの筆名は、これにしよう」と、すでに決めていたらしく、私は 【花園乱】になりました。

【花園】が【乱れる】なんて、いくら官能小説の書き手だとしても、あまりにミモフタモナサ過ぎて、初めてこの〝決定事項〟を聴いた際、またしても内心ブ ツブツ……。「糞面白くもねぇ!!」気分になりました。

先に紹介させてもらった、『忍冬(すいかずら)』の歌詞をパクれば、

♪~どうして私の人生は、気に入らん名前がつきまとう~♪

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

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