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萩原健一 後編

昭和歌謡_其の三十九

ショーケンを悼む

『ぐでんぐでん』

少しでも日本映画に関心がある方ならば、ショーケンの「インタビュー集」である、『日本映画[監督・俳優]論 ~黒澤明、神代辰巳、そして多くの名監督・名優たちの素顔~』 (ワニブックスPLUS新書)……に掲載の、あまたあるショーケンの体験告白に、思わず「おおッ!!」と声が漏れるはずです。

 

特に黒澤明監督が撮った『影武者』に関するコメントは、出演者の1人として、緊迫した現場の空気を間近に体感した、ショーケンならではの、残酷なまでのリアリティに満ちています。

天下の黒澤に、初めて『影武者』で主役に「選んでもらえた!!」嬉しさ、恍惚感……。勝新太郎は内心、「このシャシン(作品)で俺も、座頭市の〝勝新〟から世界の〝勝新〟に化ける!!」と、冗談抜きにそう確信したはずです。ところが彼は、生来、気が小さいところがあり、いざ撮影現場に入った途端、一転して極度の緊張感に支配され、素直な気持ちで本番の撮影に臨めなくなる。結果、現実逃避に走り、クスリに手を出しラリってしまう。

片や巨匠監督も、役者としての〝勝新〟の魅力を200%認めつつ、これまでの演出論ほか、経験則のすべてが〝勝新〟には通じず、困惑し、苛立っている。どうにもならなくなった段階で、あろうことか黒澤はショーケンを1人、別室に呼びつけて、彼に仲介役を依頼します。意気に感じたショーケンは、勇んで〝勝新〟の楽屋に乗り込み、単身、説得に務めたのです。

 大先輩の〝勝新〟に向かって、

「いい加減にしろって、カツシン。すべてアンタが悪いよ。俺たちはみんな、ず~っと撮影の再開をずっと待ってるんだぜ。アンタも座頭市で天下を取った名優なら、黙ってキャメラの前に立ちなさい。それがアンタの仕事なんだから」

残念ながら、ショーケンの言葉にも、聞く耳を持たなかった〝勝新〟の、その後の人生は、あえてここに書かなくても、皆さんも御存知でしょう。

むしろ泣く子も黙る、大御所の監督の黒澤が、役者としては(当時)まだ若い部類に入るはずのショーケンに、胸襟を開いていたという事実。〝それ〟こそが、ショーケンの財産であり、さまざまな役を演じる際の原動力でもあったはずです。

倉本聰が脚本を書いた、日本テレビ系のドラマ『前略おふくろさん』では、主役の、修行中の板前を演じましたが、母親役が、大ベテラン女優の田中絹代だとわかった途端、初対面にも関わらず、少しも動じることなく、無邪気に田中に話しかけ、小津安二郎、溝口健二、木下恵介ほか、数々の巨匠監督の代表作に出演した当時の、撮影の裏話を聴きまくったんですって。

最初はとまどった田中も、すぐにショーケンの「まっすぐな姿勢」に惚れ込み、本当の息子のように可愛がり、「溝口監督は、こう」、「小津監督なら、こう」……演出の違い、台詞のダメ出しの違いなど、現場の貴重なエピソードを、ショーケンに語り尽くしたそうで。

とにかく「役を演じる」という行為に関して、きわめて真面目なんですよ~、ショーケンは!! デビュー当時から習得した撮影現場での〝ルール〟、黒澤や田中絹代はじめ、大御所の監督や役者たちから「伝聞ではなく直に」聴いた演出論、演技論……を、真面目すぎるから、時代がどう変わろうとも「絶対に踏襲させたい!!」と、1人頑張ってしまいます。

言い換えれば「役者ショーケン」の美学です。譲れるわけがありません。冗談でも、自分の美学を汚されりゃあ、そりゃあブチギレるでしょ。シノゴノ抜かしやがる同業者がいりゃあ、たとえ売れっ子女優だろうが、「てめぇ舐めてんのか、コノヤロウ!!」と胸倉を掴みたくもなるでしょ。

決して褒められる話じゃありませんが、『透光の樹』の事件は、それが真実です。ところが、昨今の生ぬるい空気の中でしか仕事を重ねてきていない、いやハッキリと〝そういう〟撮影現場しか知らない映画やドラマのスタッフ、およびキャスト連中にしてみりゃ、ショーケンだけが異分子であり、迷惑であり、本気で「面倒クセェ!!」「怖い!!」「狂ってる!!」……できれば「関わりたくない!!」という理屈になります。

そしてまた、何という不幸な偶然か、ちょうど〝この〟タイミングで、ショーケンはバイクとの接触事故を起こしてしまいます。被害者は足の骨を折る「1ヶ月の重傷」。彼は事故の責任を重く受け止め、「被害者の怪我が完治するまで、芸能活動を休止する」と記者会見で明言しました。でも、当時の報道では、被害者は「昔からショーケンの熱狂的ファン」であり、本人の不注意もあってか、「事を大袈裟にする気は毛頭なく、入院中、熱心にお見舞いに来てくれたことに、かえって感謝したいくらい」とコメントした、と当時の週刊誌には書かれていたはずです。

被害者の温情に救われた恰好で、被害者の退院後、ショーケンが『透光の樹』の現場に復帰しようとしたところ、交通事故を「願ってもない切り札!!」だと考えていたのが濃厚な、担当プロデューサーは、ショーケンの降板を公式に発表したのです。

これにたまげたショーケンは、当然ながらプロデューサーに事の真相を尋ねるべく、何度も連絡を試みますが、プロデューサーは拒絶。この〝事実〟にブチ切れたショーケンが、腹立ちまぎれに、留守電に暴力団の名前まで出して「絶対に許しませんよ」と話したことが、恐喝とみなされ、緊急逮捕……。

さまざまな過去の事件の裏側に、ショーケンならではの〝正義〟も〝美学〟もふんだんに渦巻いているはずです。なのに、デビュー当時からのアウトローな印象が災いし、いつも彼ばかりが悪者にさせられる【ような印象】を受けてしまうところが、ショーケンの人生の哀しいところです。

今回のコラムは「墓碑銘」ですから、このまま「役者ショーケン」の真面目さを裏付けるエピソードを、次々と書きまくりたい衝動にも駆られますが、そろそろ話題を昭和歌謡に移しましょう。

ぐでんぐでん

ショーケンにとっての歌手稼業は、役者稼業の真面目さの〝苛立ち〟もスーッと取れて、ライブにレコーディングに、リラックスして臨めた風な……印象が強いです。

『ザ・テンプターズ』のボーカルではなく、ソロ歌手としてのショーケンは、数多くシングル楽曲を吹き込んでいますが、私が今回、あらためて追悼の挽歌代わりに、皆さんにご紹介したい楽曲が、1980年9月に発売された『ぐでんぐでん』(作詞:康珍化/作曲:鈴木キサブロー)です。

ショーケンの持ち歌には、『大阪で生まれた女』や『ラストダンスは私に』ほか、他の歌手が大ヒットさせたカバー曲も多いのですが、『ぐでんぐでん』は、れっきとした彼のオリジナル曲です。

♪~俺とお前は呑んだくれ いつもおんなじ店に来て
  軽く酒でも引っかけりゃ 窓に夜明けが来る暮らし

  ああ ぐでんぐでん 俺とお前はぐでんぐでん
  酔ってお前がつぶれたら 俺のこの肩貸してやる~♪

       (中略)

  ああ ぐでんぐでん 俺とお前はぐでんぐでん
  今は何にもできねぇが いつかお返しするつもり

  人の心が川ならば 俺とお前は酒の川
  夢も涙もこの酒に 流し流され 生きていく

  ああ ぐでんぐでん 俺とお前は酒の川
  もしも この俺つぶれたら お前がかついで帰るだろう~♪

この歌詞に今、メロディをつけて鼻歌で口ずさむと、知らず涙がこぼれてきます。「おいショーケン、アンタはいつだって、たった1人で勝負を挑んで来たよなぁ」、「この歌詞のような、ぐでんぐでんに酔いどれても、かついで帰ってくれるような、【俺とお前】の関係の親友が、生涯1人ぐらい、いたのかい?」

決して私は、ショーケンのシンパでも何でもないのですがね。でも彼の演技に〝感じる〟ことは多々ありました。

〝感じる〟=「感応する」という情動は、他者にえらく影響を与えます。ショーケンの、まるっきり時代の空気を読まない、あくまでオリジナルで斬新な〝センス〟や〝スタイル〟は、多くの後輩歌手&役者に影響を与えました。有名な例が、松田優作でしょう。

優作は、まだ無名の劇団員時代から、ショーケンに多大な憧れをいだき、それが次第に嫉妬心に変わり、着る物や食べ物はもちろん、酒の呑み方、喋り方や仕種、聴く音楽、観る映画、読む小説、何から何まで「まるでストーカーのごとく」ショーケンの真似をしたのです。もちろん演技も。

年齢がショーケンより1つ年上なこと、また1989年11月に40歳の若さで早逝したこともあり、世代の若い優作ファンは、「萩原健一というオッサンが、優作の演技の真似をした」と、バカバカしい勘違いをしているようですが、笑止千万。2人のデビュー時期の差、経歴の差を比べりゃ、「話が逆」であることに、すぐ気付くはずです。

嗚呼、もったいない役者がまた1人、昇天してしまいました。これから先の、爺になってからのショーケンの演技に、ぜひ〝感じて〟みたかったです。

現在、NHKの大河ドラマ『いだてん』に、高橋是清役で出演していまして、これが遺作になりましょうか。阿部サダオとのツーショットのシーンは、さすがの貫禄で迫力満点!! じつに観ものでした。

逝去後のドキュメンタリーによれば、末期の難病により、腹水が異常に溜まりまくっていたんですね。それをスタッフに、ベルトできつく締めさせ、奥さんが心配すると、「こうでもしないと、台詞がうまく出ないんだよ」と……。

最期の最期まで、真面目すぎるほど真面目に、与えられた役柄を、自分の信じる美学のまま、演じ切ったのです。こんな役者、今時、なかなかお目にかかれません。

ありがとう、ショーケン!! 合掌。

 

勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

 

 

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