小児矯正
連載の37
小児矯正をする適正な時期
「子供の歯並びが心配! 歯列矯正した方が良いのかしら?」そう思ったことのある親御さんは多いのではないでしょうか。
でも、実際に歯列矯正で歯並びを良くしたからといって、「噛み合わせが良くなり咀嚼もしっかり出来るようになるとは限らない」ことを知っている親御さんは多くいません。
本来「歯科矯正」は、歯並びを良くすることと共に、噛み合わせを良くし、しっかりとした咀嚼が出来るようにする治療でなければなりません。そしてこれが実際に歯学部で習ってくる「歯科矯正学」にほかなりません。
しかしながら、現状の歯科矯正の世界は「見た目第一主義」となっており、特にマウスピース矯正に代表されるような、理論的に噛み合わせがうまく構築出来るはずのない手法で、歯並びだけを変え、見栄えの良さだけを求める世界となってしまっています。
歯科の世界でさえこのようなことが長く続いているのですから、当然、一般の患者さんたちが、歯並びが良ければかみ合わせも良くなり、しっかりとした咀嚼が出来ると思ってしまうのも無理はないでしょう。
咀嚼システム
私たちは物を食べるのに、「こうやって噛もう」などとは考えてはいません。無意識に顎をモグモグとさせて上手にしっかりと物を食べています。
ではなぜ無意識でも上手な咀嚼が出来るのか? それは自分の「歯・口」とそれを働かせる脳機能の「咀嚼システム」の連携がうまくいっているからです。
この「咀嚼システム」は、歯のない赤ちゃんの時から始まって、今日までの咀嚼の経験を通し、長い時をかけ、学習・獲得・成熟するシステムで、言語や歩行のシステムと同様です。
つまり日々練習を積み重ねることによって、話したり、歩いたり駆けたりが出来るようになるのと同じで、日々の咀嚼の経験を積み重ね、無意識で上手に物が食べられるようになるのです。
ですから、成人矯正のように短期間でそれまでのかみ合わせが急激に変わってしまうと、その変化に「咀嚼システム」が適応できず、結果的に心身に様々な不具合を被ってしまう、いわば適応障害とも言えるようなことが起こり得るのです。
矯正をする適正な時期
そのような「咀嚼システム」であることを考えれば、「矯正をする適正な時期」とは、矯正による噛み合わせの変化を、咀嚼システムの学習として獲得・適応が出来る時期となります。簡単に言えば、人の「成長期」に当たる時期です。歯科矯正の実際で言えば、7歳~14歳位となるでしょう。私は成長期のこの時期が、歯科矯正をする適正時期と考えています。
なぜならば、この成長期は、元々乳歯と永久歯の混合した口の状態で、噛み合わせが確立していないからです。つまり、矯正による「歯・口・噛み合わせ」の変化を成長の一部の変遷として、「咀嚼システム」に取り入れ、適応していけるからです。
矯正の種類と特徴
歯科矯正には大きく別けて3つの方法があります。一番ポピュラーなのは「ワイヤー矯正」でしょう。次に今流行りの「マウスピース矯正」、そして最後に「可撤式床矯正」(かてつしきしょうきょうせい)です。
ワイヤー矯正は、その名の通り、歯にワイヤーを括りつけて歯を移動して行く方法です。特徴は、矯正力(歯を移動する力)が大きいので、歯を大きく移動しやすいことです。
ですが、この歯を移動しやすいという特徴は、大きなスペースでも埋めやすいということになります。ですから、ワイヤー矯正の症例には、抜歯をして大きくスペースを取り、安易にそのスペースを歯で埋めていくという考え方になってしまっているように思います。
しかし、やはり抜歯は出来るだけ避けるべきです。なぜなら、歯そのものは、脳へ刺激を送る感覚受容器としての役割があるからです。従って、健康な歯を抜いて、歯という感覚受容器の数を単純に減らすのは悪手と言わざるを得ません。健康な歯を抜いて矯正をするぐらいなら、多少の歯並びの乱れは残っても、抜かずに出来る範囲の矯正を行うべきだと私は考えます。私の子供には、完全に歯並びが整わないと解っていても抜歯矯正は行いません。
マウスピース矯正は、目標とする歯並びを歯型の模型上で作って、それに合わせたマウスピースを作り、段階的にマウスピース作り替えながら歯列を目標の歯並びに近づけて行くものです。ですからマウスピースを作り替える度に、マウスピースは非常にきつく、歯に強い圧迫感を感じます。そしてそれを我慢して、次の段階に進み、目標の歯並びを目指します。
しかし、ここで一番問題なのは、マウスピースが歯の噛む面も覆って作られていることです。それだとマウスピースをしている時は、装着しているマウスピースでの噛み合わせが自分の噛み合わせとなってしまいます。その結果マウスピースを外せば、歯並びはマウスピース通りに動いているにも関わらず、噛み合わせを保っていたマウスピースの部分が無くなってしまうので、自身の歯ではきちんと噛み合わないことが少なくありません。多くのケースでは、大抵前歯だけ噛み合って奥歯が空いている、もしくは前歯と奥歯の一部のみが噛み合って、小臼歯辺りが噛み合わず、小臼歯の噛み合わせを失うという現象が多く見られます。
事実、私のクリニックには、このような症例の患者さんが引きも切らず訪れます。もし、反論のあるマウスピース矯正をやっている歯科医の方がおられるのでしたら、矯正を終えた全ての患者さんの上下歯列模型を作って咬合診断をしてみて下さい。その上で私に反論をお願いします。
最後の可撤式床矯正は、ワイヤー矯正の方法が確立する以前より行われてきた長く実績のあるトラディショナルな矯正法です。
可撤式というのは取り外せるということで、床というのは入れ歯のような形をしているということです。そのような装置を用いて歯列矯正を行うということです。
その特徴は、この装置によって顎を大きく拡大してスペースを作り、歯並びと噛み合わせを同時に整えて行くことです。つまり、噛み合わせと歯並びを成長期を利用して同時に育てて行く矯正法と言えます。
ですから、基本的に顎の成長が終わってからでは顎の拡大が出来ませんので、成長期のみに出来る矯正法です。この矯正法ならば、咀嚼システムと矯正期間中の歯・口の変化を相互に成長情報として脳で同調出来ますので非常に理にかなっています。また、成人矯正と違って、成長を利用しながら顎を大きくするので、抜歯をしなくても大きな効果が得られますし、もし拡大の量が十分に得られず、多少の歯並びの乱れが残ったとしても、抜歯をしない範囲で、最大限の見た目の改善と、かみ合わせや咀嚼機能の良好な状態の確保出来るのです。
結論
このようなことから、「安全に歯並びを良くし、噛み合わせも良くしてしっかりした咀嚼が出来るようにする歯列矯正法」とは、成長期に行う可撤式床矯正法が一番適しているということになります。従って私のクリニックでは、この方法でのみ歯列矯正を行っています。
なぜならば、見た目だけが良い歯並びよりは、良好な噛み合わせと咀嚼機能の方が多少見た目が揃っていなくとも大事なことが解っているからです。
私は30年以上歯科臨床に携わって来ました。そして多くの歯列矯正後に心身の不具合を訴える患者さんを診て来ました。だからこそ、このことを広く皆さんにお伝えしたいのです。
では最後に、実際の可撤式床矯正法の分かり易い症例を示して終わりに致します。
まずは、実際に用いる可撤式床矯正装置の写真です。

(林歯科パンフレットより)
次に、実際の症例です。

(林歯科パンフレットより)
ケース1では、顎が拡大することが良く分かります。
ケース2では、治療後もまだ歯並びに乱れがあります。しかし、私は治療前に較べて、歯を抜かない範囲でここまで見た目が改善すれば十分だと思いますし、噛み合わせも今後成長期を終えて大人になるにつれ、良好な状態で完成に近づけるところまでは回復しています。
いかがでしょうか? 実際の症例を見て賛同して頂けますでしょうか?
歯列矯正は盆栽作りではありません。歯並びを変えることは、咀嚼システムをつかさどる脳機能も変えるということです。簡単なことではありません。
もっと詳しく知りたい方は、下記QRコードから林歯科のホームページを参考にしていただければ幸いです。

(林歯科ホームページ)
林歯科
〒 102-0093 千代田区平河町1-5-4 平河町154ビル3F
https://www.exajp.com/hayashi/

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。




























































































































































