梓みちよ 山下久美子
南佳孝 萩原健一
昭和歌謡_其の135
「歌謡曲には酒と煙草がよく似合う」後編
『二人でお酒を』&『二日酔い』 by 梓みちよ

『酒とバラ』 by 山下久美子

『SCOTCH AND RAIN』 by 南佳孝

流行歌を叙情歌に
前回に引き続き、歌謡曲の歌詞のみならず、タイトルやレコードのジャケットにも喫煙や飲酒をイメージする文言や写真が〝当たり前のように〟使われていた、昭和のど真ん中の時代のお話をさせてもらいましょう。
まずは、梓みちよの看板ソングであり、超が付く大ヒットを飛ばした『二人でお酒を』(昭和49年=1974年3月25日発売/作詞:山上路夫/作曲:平尾昌晃)の歌詞を、改めて載せておきます。
♪~うらみっこなしで 別れましょうね
さらりと水に すべて流して
心配しないで ひとりっきりは
子供のころから 慣れているのよ
それでもたまに 淋しくなったら
二人でお酒を 飲みましょうね
飲みましょうね
いたわり合って 別れましょうね
こうなったのも お互いのせい
あなたと私は 似た者同志
欠点ばかりが 目立つ二人よ
どちらか急に 淋しくなったら
二人でお酒を 飲みましょうね
飲みましょうね
どうにかなるでしょ ここの街の
どこかで私は 生きて行くのよ
それでもたまに 淋しくなったら
二人でお酒を 飲みましょうね
飲みましょうね~♪
作曲家の平尾昌晃が紡ぎ出すメロディは、小柳ルミ子の『瀬戸の花嫁』しかり、アン・ルイスの『グッド・バイ・マイ・ラブ』、山川豊の『アメリカ橋』しかり、どの曲も実にしなやかなメロディ構成で、奇を衒(てら)ったところがないんですね。初めてその曲を聴いたにも関わらず、どこか郷愁を誘われる妙に懐かしいメロディで、子供の頃に親しんだ『赤とんぼ』や『故郷』などの唱歌のように、思わず口ずさんでしまいたくなるような心持ちにさせられます。
だいぶ前でしたけれど、某音楽評論家が、「平尾昌晃という作曲家は、流行歌を叙情歌に昇華させる天才である」みたいなことを雑誌に書いてましたけれど、私も同感です。この『二人でお酒を』も然り。なかにし礼が書いた歌詞も秀逸だからこそ、……の但し書き付きではありますが、何度も口ずさんでいるうちに、普通なら陰々滅々となるだろう男女の別離が、決してそうじゃない。むしろ「イイんじゃね、別れちまって。会いたくなりゃ、また会えばいいんだし。ナンチャッテな、あははは……」と、笑みを浮かべつつ2人の背中に激励の言葉を投げかけたくなります。
歌唱の梓みちよは、男勝りな姉御肌というキャラでしたから、彼女は彼女でこの歌を、決してありきたりな「別れ歌」、演歌にありがちな陳腐で安っぽいお涙頂戴ソングにはしたくなかったんでしょうね。彼女がライブやTVの歌番組に出演する際に、1番を歌い終わるとおもむろに胡座(あぐら)をかき、リズムに合わせて左手の指も鳴らし、歌いながら上半身を軽く揺する、……というパフォーマンスを演じて見せてくれまして。これは、あくまで本人が望んで仕掛けたセルフパフォーマンスだそうです。
梓は煙草を吸わせりゃヘビースモーカー。酒を呑ませりゃ芸能界きっての酒豪! だからこそ喫煙写真がジャケットになった『パートナー』も、この『二人でお酒を』も、実にサマになるわけでしょうね。そんな彼女にドンピシャリ! な、酒飲みなら過去にかならず一度ぐらいは経験している、酒が体質的に呑めない下戸には、絶対に体感できない想いを綴った歌謡曲がありまして。これは今回のラストソングに残しておきましょう。
その前に数曲ほど、酒を扱った歌謡曲で、おそらくは皆さん、あまりご存じないでしょう、隠れた名曲を紹介します。
大人だけの領分
まずは、嗚呼お懐かしい~、山下久美子(あえて)チャン(と付けます。ファンだったので(笑))の隠れた名曲から行きましょうか。1980年にデビュー曲『バスルームから愛をこめて』の大ヒットとともに、一躍ロック歌謡のアイドル的存在に祭り上げられた彼女が、同名のアルバム『バスルームから愛をこめて』に収録した『酒とバラ』(昭和55年=1980年6月25日発売/作詞:康珍化/作曲:亀井登志夫)という曲です。私の愛唱歌でありますが、残念ながらシングル・カットされてません。
♪~にぎやかな街の灯り すべてが
二人の グラスに集まるの
あなたの肩に この身まかせて
夜明けに 背中むけている
お酒を飲めば なぜかしら
やさしくなれる 気がするの
重いこころ 鎖ほどき 熱いなみだ
もれる吐息 踊るように
Day and day 酒とバラのくらしよ
めくるめく愛の時よ
Win and rose あなたのことだけが
いまは すべてなの
愛し合う人は 傷つけあい
出合いと別離(わか)れは 背中合わせ
恋人たちの 悲しみは今
私は 忘れていたい
見果てぬ夢 愛の言葉
小鳥のように ささやいて
気取ることも 背のびさえも
どうぞやめて あるがままの
あなただけを
Day and day 酒とバラのくらしよ
ながれゆく 愛のときよ
Win and rose あなたのことだけが
いまは すべてなの
Day and day 酒とバラのくらしよ
めくるめく 愛の時よ
Win and rose あなたのことだけが
いまは すべてなの~♪
う~ン、うわぁ~、なんてカッチョイイ曲なんざんしょ。キーは高めで、ほんのちょっとハスキーがかる声、ファンが〝久美子節〟と称する彼女の歌声の魅力は、もちろん、デビュー間もなく吹き込んだこの曲の随所に溢れまくってますけれど、それよりも、なんてったってこの曲の価値は、100%編曲の巧みさ! ですよ。
初めてこの曲を聴いた時、大袈裟じゃなく、前奏だけで鳥肌が立ちました。久美子チャンの歌声と様々な音色が──、特に間奏に顕著ですが、小気味良く刻まれるパーカッションの音色&華やかなホーンセクション(管楽器の音色)の1つ1つの調べが、まるでジャズのセッションのような「掛け合い」を演じ続け、聴く者をゾクゾクさせながら迫り上がって行き、極みまで昇り詰めたところで、1拍置いて ♪~Day and day 酒とバラのくらしよ~♪ の印象的なフレーズのサビに入る。そして、久美子チャンのひときわ高いキーの歌声 ♪~すべてなの~♪ のロングトーンで締める。
あまりに見事な出来具合に、私は小躍りをしたくなります。昭和時代の歌謡曲には、他にもあまた見事な出来の作品はありますけれど、いやはやこの曲は、ベスト10……は異論があっても、30の中には確実に入るでしょ。こんなパーフェクト級な編曲を、どなたが叶えて下さいましたか? 調べてみてすぐに合点が行きました。松任谷正隆センセイ! ユーミンこと松任谷由実の旦那様でした。長年、奥様ユーミンのプロデューサーを務めるかたわら、孫ほどの年齢の、平成育ちの若手作・編曲家たちに、「ありきたりにならない」曲創りのノウハウを伝授しているそうで……。超の付く凄腕のクリエーターが、この曲をアレンジしておりました。へぇー、だったらね。大いに納得です。
ちなみに歌謡曲マニアの間では、すでに常識でありますが、シングルレコードのB面の曲、ないしアルバムに収録の曲でシングル・カットされない曲の編曲を、著名なクリエーターが担当している場合、かなりの確率で「隠れた名曲になる!」んですね。例えば中森明菜の『ヨコハマA・KU・MA』(昭和57年=1982年10月27日発売/作詞;中里綴/作曲:南佳孝/編曲:萩田光雄)がそうですし、渡辺真知子の大ヒット曲『カモメが翔んだ日』のB面『なのにあいつ』(昭和53年=1978年発売/作詞:伊藤アキラ/作曲:絵渡辺真知子/編曲:船山基紀)も然り。
理由は様々ありましょうが、シングルのA面として売り出すには、クリアせねばならない大人の世界の事情とやらが多々あって、作詞家も作曲家も「本当に書きたい作品が書けない!」けれど、シングルのB面やアルバムにだけ収録の曲ならば思う存分、好き勝手なクリエーションを発揮できるから、というのは大きいんじゃないでしょうかね。そこへ、さらに凄腕の売れっ子編曲家が斬新なアレンジを加えりゃあ、これはもう鬼に金棒、名曲にならないわけがない(笑)。
お次は、すこぶるお洒落な「お酒ソング」でありまして、南佳孝の『SCOTCH AND RAIN』(昭和57年=1982年9月21日発売/作詞:松本隆/作曲:南佳孝)です。これもシングル・カットされませんでしたので、よほどの佳孝サウンドのファンでもないかぎり、きっとご存知ないでしょうね。
♪~酒を飲まないかと
無理に誘われたの
マンションの屋上は
街の灯のシャンデリアだけ
駄洒落 並べるから
何故か 陽気な夜
降りだした夏の雨
逃げもせずに見上げてる
スコッチ 雨で割れば
言葉がいらなくなる
髪が濡れて ブラウスが濡れて
心までも濡らした
ハイヒール 脱ぎ捨てて
好きなステップで踊るのよ
スコッチ 雨で割れば
あなたがまわり出すの
頬が濡れて まなざしが濡れて
心までも濡らした~♪
佳孝さんの歌声は、いつも妙にけだるいんですよね。いかにも酒に酔いどれた風でありましてね。
この曲が収録されているアルバム『SEVENTH AVENUE SOUTH』が発売された頃、私は二十歳になる手前で、まだ法律的には酒が飲めない年齢ですが、当たり前のように毎晩のごとく、大学の同級生の誰かしらとツルんで、どこかしらの安酒場、そのカネが足りなきゃ、同期のボス的存在だったKの下宿(忘れもしない、明大前の「ローズハイツ」)に転がり込んで、酒を呑みまくってましたっけ。当時、日本酒も焼酎ももちろん飲み屋の定番メニューでしたけれど、同級生の多くはウイスキーを呑んでましたね。サントリーの「オールド」や「角」は値が張りますので、もっぱらその下の「ホワイト」でしたね。さらにその下に「トリス」もありましたけれど、これは先輩連中から「値段は安いけど悪酔いするぞ!」と忠告されてましたので、手を出しませんでした。ネット情報によると、その後「トリス」は何度か品種改良を重ねたのだそうで……。今じゃ結構美味いウイスキーですよ。
当時、Kの下宿に行けば、同じウイスキーでも国産でなく洋酒が呑める。それもバーボンが呑める! これはカルチャーショックでした。何種類かバーボンのボトルが並んでましたけれど、中でも彼が好いてたのはケンタッキーコロネル(通称ケンコロ)という銘柄でして。
Kいわく、「サントリーの角を買うより安いんだよ(※あくまで昭和55年頃の感覚です)。酒屋のオヤジに勧められてさ。呑んだら美味いじゃん。で、安いんだから、俺は今、これ一本! サントリーの酒なんか買う気にならねぇや(笑)」だそうな。
繰り返しますが、これを話すKも私も、まだ未成年です。ガキに毛が生えた程度です。なのにイッチョマエに背伸びして、大人になったつもりになって酒を呑みまくったものです。今想えば、酒屋のご主人も、飲み屋の大将&マスターも、先刻承知の上で、最低限のモラルの枠の中で〝ヤンチャ〟している限り、私たちのやること為すことを見逃してくれてましたね。有り難いことです。
でも……。いや、だからこそというべきか、次の曲の主人公のごとく、ただがむしゃらに〝ぐでんぐでん〟になるまで酒を呑みまくり、すこぶる酔いどれて、手前たちだけ幸せな気分に浸ることは、良い悪いは抜きにしてあくまで大人だけの領分でありましてね。私たちガキどもが、ついつい調子に乗って、大人顔負けのハメの外し方をすりゃ、たちまち猛烈にドヤサれる。手痛いお灸を据えられる。ま、それはそれで、大人になるための通過儀礼だったのでしょう。たとえコンプラ無き昭和時代であっても、そこは明確だったはずです。
昭和55年=1980年発売の『ぐでんぐでん』(作詞:康珍化/作曲」鈴木キサブロー)は、ショーケンこと萩原健一のオリジナル曲(※以下にライブ音声あり)ですが、様々な歌手(主にブルースロック系)に愛されてまして、憂歌団の木村充揮や近藤房之助がカバーしています(※以下に動画あり)
♪~俺とお前は 飲んだくれ
いつもおんなじ店に来て
軽く酒でも ひっかけりゃ
窓に夜明けがくる暮し
あー ぐでんぐでん
俺とお前は ぐでん ぐでん
酔っておまえが つぶれたら
俺のこの肩 かしてやる
寝ぐらそろそろ かためろよ
そんな言葉にゃ 耳かさず
風に気ままな 千鳥足
夢見心地の 旅に出る
あー ぐでん ぐでん
俺とお前は ぐでん ぐでん
廻り道でも道は道
はるかどっかに たどりつく
あの娘生れは 天ビン座
恋をはかりに かけた人
未練はないさと 強がれば
ホレていたね 胸にしむ
あー ぐでん ぐでん
俺とお前は ぐでん ぐでん
思い出すたび ほろにがい
あん時ゃ お前と迎え酒
あー ぐでん ぐでん
俺とお前は ぐでん ぐでん
今は なんにもできねえが
いつか お返しするつもり
人の心が川ならば
俺とおまえは 酒の川
夢も涙もこの酒に
流し流されて 生きてゆく
あー ぐでんぐでん
俺とおまえはぐでんぐでん
もしも この俺つぶれたら
お前が かついで帰るだろう
あー ぐでんぐでん
俺とおまえは ぐでんぐでん
もしも この俺つぶれたら
お前が かついで帰るだろう~♪
まさしく〝ぐでんぐでん〟に酔いどれて、そのままご機嫌にぐっすり高いびきで寝入ってしま……えれば、それはそれ、周囲の迷惑はともかく、当人はいたって幸せなわけですけれど、時折、そうじゃないことがありまして……。
早けりゃ夜明けを待たずして、そうでなけりゃ太陽がすっかり顔を出し、真っ当な社会人なら時計とにらめっこしつつ、慌ただしく身支度を済ませて仕事に出掛ける頃に、猛烈な吐き気とともに、頭の芯がズキンズキンと脈を打つごとく痛み、慌ててトイレに駆け込むという、はなはだミットモナイ醜態をさらけ出すことになります。
酒好きの呑兵衛にとって、二日酔いというヤツぐらい、忌み嫌いたい現実はないですね。吐き気が収まらない〝あの〟時間だけは、酒など一滴も呑めない下戸が羨ましくなります。
そんな情けなくも実に滑稽な心持ちを、そのまま歌謡曲に仕上げたのが、そのものズバリ『二日酔い』(昭和51年=1976年2月21日発売/作詞:阿久悠/作曲:森田公一)という作品でありまして、先に記しました通り、『二人でお酒を』の梓みちよが熱唱してします。
酒豪の彼女が歌うと、凄みを感じるほどにリアリティを感じますね。その歌詞を載せて、今回のコラムを締めましょう。
皆さん、酒は呑んでも呑まれるな。深酒は、ほどほどに。
♪~また昨日(ゆうべ)も どこかで破目をはずし
また何なら よけいなことをしたと
窓からさす 白い朝日に
もう酒などやめた と誓ってる
いつでもこうさ 酔いからさめて
くよくよ思う それがとても情ないよ
夕日が落ち いっぱいのんだ後は
もう何でも この手で出来るようで
人柄まで 変わるようだよ
また今夜も のまずにいられない
ふくらまない夢でも 叶うような
愛されないひとでも 抱けるような
信じていた友が 戻って
来るよな 気持になって来る
いつでもこうさ 酔っているうちは
元気にあふれ こわいものは何もないよ
夕日が落ち いっぱいのんだ後は
もう何でも この手で出来るようで
人柄まで 変わるようだよ
また今夜も のまずにいられない
また今夜も のまずにいられない~♪
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勝沼紳一 Shinichi Katsunuma

古典落語と昭和歌謡を愛し、月イチで『昭和歌謡を愛する会』を主催する文筆家。官能作家【花園乱】として著書多数。現在、某学習塾で文章指導の講師。
























































































































































