ロスアンジェルス・ドジャース大谷翔平選手への 故意死球に関する考察
お口のお咄し 番外編
MLBアンリトンルール(不文律)
2025年現地時間6月16日~19日に、パドレス対ドジャースの4連戦がドジャースタジアムで行われた。この4連戦では計8個の死球があった。
以下は死球の時系列と試合状況である。
①16日第一戦4回裏1死1塁ドジャース1点リード。パドレス、シースがドジャース、
アンディ・パヘスの左肘へ死球。パヘスが明らかな怒りの表情を見せた。
②17日第二戦3回表無死2塁ドジャース1点リード。ドジャース、トリビーノがタティスの背中へ死球。
③17日第二戦3回裏1死走者なしパドレス1点リード。パドレス、バスケスがドジャース大谷の右足太腿へ死球。両軍入れ乱れ、ロバーツ監督のみ退場及び警告試合が宣告された。
④17日第二戦7回表無死走者なしドジャース5点リード。ドジャース、サウアーがパドレス、イグレシアスの右肘へ死球。
⑤18日第三戦7回裏無死一塁ドジャース2点リード。パドレス、コレックがパヘスの左肩へ死球。
⑥19日第四戦7回表1死2塁パドレス3点リード。ドジャース、トリビーノがパドレス、ジョンソンの左膝へ死球。
⑦19日第四戦9回表無死走者なしパドレス5点リード。ドジャース、新人リトルがパドレス、タティスの右手へ死球。両軍入り乱れて、両軍監督が退場。警告試合が宣告される。
⑧19日第四戦9回裏2死3塁パドレス3点リード、カウント3ボールからの4球目、パドレス、スアレスから大谷の右肩下部へ死球。この際大谷の自軍ベンチへの抑制により、グラウンド内に両軍選手が入り乱れることが回避された。
考察1
上記の死球に投手の故意が介在する可能性について。
①:シリーズ初戦を取ることが大事な4連戦第一戦において、4回裏1死1塁ドジャース1点リードの状況において、パドレス側がパヘスに故意に死球を与え、1塁ランナーを無償でスコアリングポジションに進め、1死1、2塁の状況を作り出すことに整合性はない。(故意死球確率0%)第一戦の死球は一つ。
②:第二戦3回表無死2塁、ドジャース1点リード。この状況でドジャース側がタティスに故意に死球を与え無死1、2塁を作ることはない。(故意死球確率0%)
③:第二戦3回裏1死走者なし、パドレス1点リード。回も浅く1点リードのパドレス側としては、タティスの背中への死球直後の回であり、メジャーリーグの報復死球のアンリトンルール(不文律)決行のタイミングと相手が大谷ということで、十分故意死球を決行する整合性が整う。また映像でも1球目はインコースで大谷の足元にぶつかりそうな球であり、続く2球目が大谷の右太腿に当たった。いわば、1球目には投手の躊躇が窺え、2球目には1球目の感覚を元に正確に比較的安全と言われている太腿の筋肉部位に着弾させたように見える。警告試合宣言。(故意死球確率100%)
④:第二戦7回表無死走者なし、ドジャース5点リード。ドジャース、サウアーがパドレス、イグレシアスの右肘へ死球。この時すでに警告試合が宣告されており、また、ドジャース5点リードの7回ノーアウトでイグレシアス相手に故意に死球を与える整合性はない。事実、サウアーは警告試合にも関わらず退場となってはいない。(故意死球確率0%)第二戦の死球は三つ。
⑤:第三戦7回裏無死一塁、ドジャース2点リード。パドレス、コレックがパヘスの左肩へ死球。これも2点負けているパドレスがこれ以上点のやれない7回裏に、故意の死球で1塁ランナーをスコアリングポジションに無償で進め、ノーアウト1、2塁とすることに整合性は認められない。但し、前日の警告試合のきっかけを作ったのが第一戦のパヘスへの死球に対する過剰な反応であることを考えると、報復の故意死球の可能性は否定出来ない。(故意死球確率30%)第三戦の死球は一つ。
⑥:第四戦7回表1死2塁パドレス3点リード。ドジャース、トリビーノがパドレス、ジョンソンの左膝へ死球。この状況でさらに点差を広げてしまう状況をドジャースが故意に作ること及び相手がジョンソンでは故意死球が行われることに整合性はない。(故意死球確率0%)
⑦:第四戦9回表無死走者なし、パドレス5点リード。ドジャース、新人リトルがパドレス、タティスの右手へ死球。両軍入り乱れて、両軍監督が退場。警告試合が宣告される。この時の状況でルーキーリトルに求められるものは、出来得る限りすんなりと0点に抑えることである。これがルーキーであるリトルがメジャーに生き残るための最善である。また彼はシンカーが得意球であり、そして映像ではタティスも踏み込んで打ちに来ての手首への死球であることから、故意死球の整合性は低い。(故意死球確率10%)
⑧:第四戦9回裏2死3塁パドレス3点リード、カウント3ボールからの4球目、パドレス、スアレスから大谷の右肩下部へ死球。この際大谷の自軍ベンチへの抑制により、グラウンド内に両軍選手が入り乱れることが回避された。
大谷が死球となったこの状況は2アウト3塁で、もしホームランを打たれても1点リードが保たれ、ホームランを望める続く上位打線のことを考えると、ここで故意にランナーを出し、以降長打を打たれると同点、または逆転となる状況は避けたい。映像を見ると2ボールとなる2球目までは故意に死球を与える考えはほぼないように見える。ここでパドレスとして一番嫌な試合展開はフォアボールもしくは長打である。スアレスは2ボールから長打を警戒し際どいところを狙ったが3ボールとなった。この時点ではっきりとメジャーリーグ報復死球のアンリトンルール(不文律)決行を決意する整合性が十分整ってしまった。そして、100マイルの球を右投げから不自然なほど左バッターの身体の中心上部へ向け放ち、大谷の右肩下部へ死球を当てた。(故意死球確率100%)第四戦の死球は三つ。
考察2
メジャーリーグ報復死球のアンリトンルール(不文律)について。
まず、故意死球を決行するアンリトンルール(不文律)は本当に存在するのか?
これについては、MLB関連の記事やYouTubeなどから、結論から言えば間違いなく存在すると言える。特に興味深かったのは、元エンジェルスの監督ジョー・マドンが出演したときの、「ファウル・テリトリー」というYouTube番組で故意死球について語られていたことである。
要旨としては、ジョー・マドン元監督は、監督自身が具体的な指示を出すことないが、ベテランのピッチャー中心に故意死球の暗黙のルールをピッチャー陣に継承する雰囲気を作っていくようなことだと発言している。
そしてまた、他の元メジャーリーガーの出演者達も故意死球は歴然と存在しメジャーリーグの文化だと言っていたことである。
さらにドジャース、ロバーツ監督の記者会見でも17日第二戦3回裏にパドレス、バスケスがドジャース大谷の右足太腿へ死球を与え、両軍入れ乱れた際、警告試合に抗議したロバーツ監督のみ退場となったこと及び警告試合が宣告されたことについて、「警告試合にする必要はなかった。
そして警告試合になったことで、選手を守るための報復という手段も取れなくなった」との趣旨の発言もしている。
その他、メジャーリーグのアンリトンルール(不文律)は報復死球だけではなく、大差のついた試合では3ボールから打ってはいけないとか、ノーヒットゲームが続いているときにバントヒットを狙ってはいけないなど様々なものがあり、これらを破った時に行われるのは通常故意死球での報復である。事実過去に、新庄選手が大リーグに所属していた時、3-0からヒッティングをして、その後の打席で故意死球を当てられたことがあった。
以上より、メジャーリーグにおいて現在でも故意死球というアンリトンルール(不文律)は厳然と存在するといえる。
考察3
故意死球に対する法という観点。
上記死球にまつわる行為はアメリカで行われた。日本と同様にアメリカは法治国家である。そして試合の行われたドジャースタジアム内もこの法治下にある。
例えば、1塁ランナーに1塁手がナイフで切りつけたとしたらどうなるであろうか。試合中でも即座にその選手は拘束、逮捕され、傷害罪(被害者が死に至れば殺人罪)となり、法によって裁かれる。
では、試合で使われている硬球はナイフのような凶器とは成り得ないのか?硬球を実際使用したり、触れたことのある人は、そのあまりの硬さに、当然これが身体に当たれば怪我をするという実感を持つことだろう。では、その硬球を1塁手がランナーに向け投げ当て始めたらどうなるのか。当然その行為は非難され、確実に法的に罰せられるであろう。
つまり、包丁は料理に使われるときは道具であり、人を傷つけるように使われた時は凶器とみなされる。そしてこれと同様に、硬球は野球というスポーツにおいて、ゲームのために使用されれば単に試合を進行し成立させるための道具となり、人を傷つけるために用いられた場合は凶器となる。
結局、故意死球という行為は、野球というスポーツの試合中の出来事であるが故に、明確に人を傷つける行為であるにも関わらず、何ら根拠なく傷害罪に当たらないように扱われているに過ぎないのである。
法治国家は、傷害罪を免じる特別な資格を個人に与えることがある。その代表的なものが医師免許である。では、医師は何を免許されるのか。医師免許は、注射、手術などのように治療行為としてのみ人を傷つけることが免許されている。但し、これには一つ厳格な条件が付随する。それは善管注意義務である。善管注意義務とは、その時の医療水準に照らして最善を尽くさねばならないとしている。簡単な例を挙げれば、血圧などの必要な全身状態を把握せずにいきなり麻酔の注射をして、ショックを起こさせてしまった場合などは善管注意義務違反に問われることとなる。
では、野球の試合中に凶器となり得るほど硬い硬球を、投手が故意にバッターにぶつける行為は法的にはどのように扱われるべきであろうか。当然それは、人に対する傷害行為として扱われるべきである。つまり野球は、投手が投球を開始しなければゲームが成り立たないのであるから、故意でなければ死球は野球のゲームの中に含まれる一部であり、故意であれば法治の下での傷害行為となる。
つまり、故意なのかそうでないのかが立証されない限り、故意死球の法的評価は判然としないということになる。
ここで、考察2で故意死球という不文律がメジャーリーグで明らかに存在するという結論を得ていることと、全ての当該投手の証言が決して故意には当てていないと言うことが相反する。
そしてここで注目すべきは、大谷に死球を与えたパドレスのスアレス投手に対して、MLB機構から2試合の出場停止処分が確定し、スアレス投手もすでにこのペナルティを消化して通常の体制に復帰していることである。
これは、警告試合においてすべての死球が処分の対象になるわけではないことに照らせば、MLBがパドレス、スアレス投手は故意ではないと主張しているにも関わらず、スアレス投手の大谷に対する死球は故意であると認めたと同義である。
したがって、スアレス投手は故意ではないと主張しているが、故意死球の不文律がメジャーリーグに存在し、それが行われたとメジャーリーグを運営する専門家で構成されるMLB機構が判断し処分を施したのである。
しかしながらこのMLB機構による処分は、法的な根拠が担保されているのであろうか。先に述べたように、もし故意になされた死球ならばこの行為は傷害罪に当たり、公的機関による処理が妥当となる。
結局、故意死球の故意の部分を立証することが物証的に出来ないので、このような曖昧な取扱いにならざるを得ない。だが、メジャーリーグを統括するMLB機構としても放置することは出来ないので、苦肉の対応としてこのような処分を科すに至ったのであろう。
考察4
メジャーリーグの故意死球というアンリトンルール(不文律)は文化なのか。
記事その他、色々なメディアを通して、しばしば故意死球はメジャーリーグの文化だと評されるものを見聞きする。だが、これには個人的に非常に大きな違和感を覚える。
メジャーリーグの故意死球というアンリトンルール(不文律)に則った故意死球という行為は文化などではなく、悪しき慣習と評されるべきものである。文化とはもっと高尚なものである。
例えば、日本の地下鉄を視察に来た外国の地下鉄職員が、日本の改札を見て、あまりにもその作りの脆弱さに驚いたという。いわく、「こんなシンプルな構造の改札では、乗客が簡単に改札を乗り越え、皆が乗車賃を支払わず行き来してしまうのではかいか」というものである。
また、外国の観光地などを訪れるとき、観光ガイドに記載されることが多いのは「スリ、置き引き、ひったくりに十分注意し、肩掛けカバンなどを使用すること」などである。つまり、治安が悪い場所では盗まれる側が悪いといった風潮である。
しかし、日本では地下鉄の脆弱な作りの改札を乗り越える乗客は皆無に近く、財布でさえ落し物が戻ってくる確率は諸外国に比べ歴然と高いという事実がある。
これは、日本の歴史上、その国民の精神性が「生きんがための必要悪」を認めず、あくまでも「悪いことは悪いのだ」という道徳感をもって、歴史と文化を育んできたからなのだというある論評を目にし、非常に納得した覚えがある。
つまり、状況に左右されず、悪いことは悪いとする正しさを礎に育まれたものこそが文化であり、悪いことかもしれないが致し方ないのだという悪しき慣習の上に立つ故意死球を、メジャーリーグの文化などと軽々しく評価する姿勢は如何なものであろうか。
考察5
故意死球は、自チームを守ることになるのか。
メジャーリーガーの打者は世界でトップクラスの打撃技術を持つ集団であるから、その打者を打ち取るためには、前提としてストライクゾーンを満遍なく使い、かつ緩急を交えなければ打ち取れない。そのために投球の組み立ての中でインコースを突くという行為が必要になる。従って、死球には一つ典型的なパターンがある。それは、インコースを突いた球が、より打者の身体に近く、かつその際バッターが踏み込んでスイングを掛けてきた場合である。これにより、投球が打者の腕付近に当たるという死球パターンを成す。それ以外は故意でなければ、すっぽ抜けなどの大きなコントロールミスの場合と言える。
つまり、死球のほとんどは故意ではなく、この故意でない死球に対して故意死球で報復する整合性は存在せず、更に故意死球に対しては故意死球で対応するという悪循環を招くこととなり、結果として自チームを守ることにはならない。
では試合中の死球を減らすためにどのような対処をすればよいのか。それは、当てても構わないと思う投手心理の強制的な抑制と死球を与えないコントロールの精度の向上である。これには、投手に死球を与えてはならないという意識を強く持たざるを得ない状況を作ることが、基本的に一番効果があるのではないだろうか。
つまり、一試合チームとして三つめの死球からチームに罰金などのペナルティを科すとか、一人の投手が一イニング二つの死球で退場とかの厳しめのルールにすれば、必然的に投手の死球を与えてはいけないという意識とコントロールの向上に繋がり、安易な死球は減るものと思われる。
考察6
故意死球の将来。
現在、当該投手が故意を表明しなければ、故意死球を立証することは出来ず法的な対処が出来ないため、このメジャーリーグの故意死球というアンリトンルール(不文律)は曖昧な規制のまま存続していくものと考えられる。
しかしながら、昨今のAIなどの急速な進歩により、投手の血圧上昇、発汗、心拍数、目線等々が指標となり、データ解析によって近い将来、故意死球かどうかは比較的簡単に判断出来るようになると思われる。もちろんこのAIなどによる解析の証拠能力やそれを証拠として採用するかどうかにはある程度の時間が掛かるだろうが、現在の社会全体の方向性がそうであるように、いずれは故意死球についてもこの方向に進むであろう。そして、少なくともMLB機構はAIのデータ解析であっても、故意である指標があれば処分に際し非常に手助けになるであろうし、その指標を欲するのではないだろうか。
結論
以上のような考察から、前提としてメジャーリーグの投手が投げる硬球は、故意死球であれば硬球という凶器で人を傷つける行為であり、法的には傷害に当たるものである。そしてメジャーリーガーにはそれを免許する資格は与えられていない。
また、その故意死球のボールの当たり所が悪ければ、当てられた打者は、骨折その他の傷を負い、最悪の場合、死に至らしめる致命傷を得る可能性さえある。ことほど左様に、死球に含まれる潜在的な身体的危険度は侮れないものがある。
例えば、故意死球を筋肉量の多い腿などに当てればいいのだなどと評されることさえあるが、筋肉であろうと傷つけば痛みや以降の運動に多少なりとも負の影響を与え、それによって打撃の調子を落とすこともある。もしそのようなことが起これば、成績で収入が決まるプロスポーツ選手にとっては、身体的な障害に加え経済的な障害も被ることになる。
その上で、もし今回、大谷選手の頭部に100マイルのボールが当たって死亡したとしたらどのようなことになってしまったのだろう。その可能性は低いかもしれないがゼロではないのである。そのような行為を軽々しくメジャーリーグのアンリトンルール(不文律)という文化などと評価することは出来ない。そして、この故意死球というのは上記の考察のように、故意死球対象選手に対し、多かれ少なかれ身体的、経済的な障害を与える行為であるから、このメジャーリーグのアンリトンルール(不文律)の中の故意死球については、非常に卑しまれる悪しき慣習であることを明確に理解し、即刻排除する宣言を、選手を含めたMLB全体で速やかに発することが望まれる。
歯科医師/林晋哉 Shinya Hayashi
著者略歴
1962年東京都生まれ、62歳、歯科医師。
都立日比谷高校を経て日本大学歯学部卒業。
平成6年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、
平成26年東京都千代田区平河町に診療所を移転。
「自分が受けたい歯科医療」を追求し実践している
『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、「歯・口・咀嚼の健康医学」(さくら舎)などの著書がある。
日比谷高校時代は軟式野球部、日本大学歯学部では硬式野球部に所属し、投手。
2013年から日本大学歯学部硬式野球部コーチとしてチームの指揮を執り、2023年歯学部全国大会で優勝。
自身では大学時代に投手としてリーグ戦二期連続MVP。
2010年には草野球とはいえ完全試合を達成し、表彰トロフィーを獲得。
35年の投手生活の中で一度だけ故意死球の経験がある。
林歯科
〒 102-0093 千代田区平河町1-5-4 平河町154ビル3F
https://www.exajp.com/hayashi/

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践。著書『いい歯医者 悪い歯医者』『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』 『歯科医は今日も、やりたい放題』など多数。






















































































































































